4 正しいゴーレムの造り方(後編)
ピクリとも動かない土人形を、じっと見つめる。
やっぱり、綺麗なお姉さんにもらった粘土じゃないと、僕はゴーレムを造れないのかな……?
どこまでも沈んでいきそうな雰囲気に浸っていると、右手の中指に填めている指輪が目に入った。
紫水晶の奥で白い点が光ってるけど、なんだか元気がない感じ。
……もしかして、リンドウが呪文を唱えようとしてくれたの?
なるほど、そういうことか。
それじゃあ、今度は僕が試してみるから……。リンドウはサポートに回ってくれる? 自分で魔法を使うのはこれが初めてだから、うまくいくかどうかわからないし、頼んだよ。
心の中で呼びかけると、いつもより暗くなっていた点が、ふわっと明るく輝いた。
「すみません。もう一回、試させてください」
「んっ? もちろん、何度試してもかまわないですが……」
ローブ姿の老人に声をかけて、目の前の土人形に集中する。
ユーニスに魔法を教えてもらった時、頭の中にあるイメージを現実にするのが魔法だって言ってたっけ。
だから、この土人形が動くところを想像して——
「仮初めの石像!」
身体の奥の方から、何かが引き出される感覚。
今、魔力が流れた? これが魔法を使うってこと?
「あっ、動いた!」
「おおぉぉぉ……」
土人形がすっと右手を挙げて、敬礼してくれた。
造ったばかりのオニキスと同じ反応で、なんだか楽しくなってくる。
オニキスやリンドウを知っているマイヤーも、びっくりしたようだ。
何故かルビィがドヤ顔してるけど、それはどういう意味かな?
「ちょっと、テーブルの上を歩いてみて。右手を上げて……下げて……。ジャンプはできる? うんうん。良い感じ」
土人形に呼びかけて、軽く動きを確かめてみる。
どうやら、問題なさそうだ。
「これは見事ですな……。ソウタ殿を、石像使いと認めましょう」
「ありがとうございます」
「ワシ以外の石像使いに会うなんて、何年ぶりか……。それはともかく、石像使い同士なら何の問題もありません。どんな質問にも答えましょう」
話をしている僕たちの横で、ルビィが土人形をペシッと叩いた。
これがオニキスだったら何らかのリアクションをして、そこからルビィとじゃれあう流れだけど……。
この土人形は何もしない? 僕の命令を待ってるのかな?
反応がなくて、ルビィの方が戸惑っているようだ。
「早速ですけど……。この粘土だとゴーレムが造れたのに、僕が見つけた粘土だとうまくいかなかったのは、どうしてなんでしょう?」
「それは、ゴーレムを造るのに向いている素材と、そうでない素材があると言うことですな。その箱に入っているのは裏の鉱山から掘り出した粘土で、魔力を通しやすい性質を持っております」
「なるほど。そういうことなんですね」
「土、石、鉄、木、水、炎など……。石像使いとして成長すれば、どんな素材からでもゴーレムを造れるようになるでしょう。逆に言うとそれまでは、扱いやすい素材で練習するのが良いと思いますぞ」
初心者の僕がオニキスやリンドウを造れたのは、それだけ、あの白い粘土が扱いやすい素材だったってことか。
綺麗なお姉さん、ありがとう!
「もう一つ、素材以上に大事な話があるのじゃが……。申し訳ないですが、そちらのお嬢さんは席を外してもらえませんか?」
「私はソウタ様の護衛ですので、お側を離れることはできません」
土人形が動くのを見て喜んでいたおじいちゃんが、いつの間にか、真剣な表情に変わってる。
ここまででも、ゴーレムの本質に関わる話をしてると思うけど、もっと大事な話があるのか……。
「マイヤーは、あっちのドアの前で見張っててもらえる? それなら、問題ないでしょう?」
「……わかりました。ソウタ様がそう言うのでしたら……」
今座っている場所からは離れたところにある、僕たちが入ってきた方のドアを指差すと、マイヤーは素直に立ち上がり、ゆっくり歩いて行った。
「これで良いですか?」
「はい……。それと、これからお話しすることは、本物の石像使い以外には秘密にするように、お願いします」
「本物の……?」
「その話も、これから説明します」
老人の方へと向き直り、話の続きを待つ。
白い髭。灰色の瞳。伸ばしっぱなしになっている白い髪。
深いシワが刻まれた顔に、喜んでいるような悲しんでいるような、不思議な雰囲気が漂っている。
「念のためにお聞きしますが……。ソウタ殿は、さっきワシが言ったのとは別の呪文をご存じですな? ゴーレムを作る魔法として」
「あっ、はい。前にゴーレムを造った時は、石像創造って唱えました」
「うんうん……。当然、そうでしょう。先ほどワシが教えたのは、言わば練習用の呪文。今、ソウタ殿が口にした呪文を使えるのが、本物の石像使いです」