3 正しいゴーレムの造り方(前編)
「何でも、ゴーレムについて知りたいとか?」
「あっ、はい。そうなんです」
もらった粘土で試したら、ゴーレムが造れたこと。山で見つけた粘土で同じように試したけど、こっちは失敗したこと。いろいろ試してみたけどうまくいかないので相談に乗って欲しいことなどを、僕は簡単に説明した。
「その、最初にゴーレムを造ったというのは、いつ頃の話ですか?」
「えーっと……。二ヶ月ぐらい前かな?」
「そのゴーレムは、今でも動いてるのですか?」
「あっ、はい。今日も、元気に動いてました」
ここに来るまでの間も、トパーズに乗って移動する時はオニキスが腕のロープを伸ばして、安全ベルトの役目を果たしてくれた。
役に立てるのが嬉しいのか、オニキスは今日も元気いっぱいだった。
「その話が本当だとしたら、大変なことだが……。ちょっと、そこで待っていなされ」
「えっ……? あっ、はい。わかりました……」
ローブ姿の老人がいきなり立ち上がり、奥の扉から出て行った。
自分ではわからないけど、何か変なことでもやったのかな……?
あっという間に老人は、僕たちの居る部屋に戻ってきた。
手に持っている布は……何かを包んでいるのかな?
「ソウタ殿、でしたな? ちょっと、この石に触ってみて下され」
老人が分厚い布をテーブルに置いてゆっくり広げると、中から透明な水晶玉が現れた。大きさも雰囲気も、占い師が使ってるのと同じような感じ。
「これに触れば良いんですか……? うわっ!」
軽く指先で触れると、水晶玉がピカッと光った。
慌てて指を離すと、すっと光が消えて元の透明な姿に戻る。
隣に座っているマイヤーも、テーブルの上でお座りしているルビィも、僕と同じぐらいびっくりしたようだ。
「これは、何ですか……?」
「簡単に言うと……そうですな。石像使いとしての素質を図る魔術具だと思ってもらえば良いでしょう」
「それって……。今、光ったのは?」
「ソウタ殿には、石像使いの素質があるようです。……これなら、大丈夫でしょう」
これってつまり、オニキスやリンドウを造れたのは、綺麗なお姉さんにもらった粘土の力だけじゃなくて、僕に素質があったから?
だとしたら、屋敷の近くで見つけた粘土でも、ゴーレムが造れて良さそうな気がするけど……。
「もう一つ、今度は別の試験をさせてもらっても宜しいかな?」
「あっ、はい。お願いします」
「コンラウス! 粘土の入った箱を取ってきてくれ」
石造りのゴーレムが部屋を出て行って、木で出来た箱を抱えて戻ってきた。
前の世界なら、通販で送られてくるダンボール箱ぐらいのサイズ。
ゴーレムが木箱をテーブルに置いてフタを開けると、中には灰色の粘土がぎっしり詰まっていた。
「この粘土を使って、人の形を作ってください。大きさは……そうですな。そちらの猫と同じぐらいのサイズで」
「わかりました」
とりあえず、粘土に触れてみる。
これは……普通の土粘土かな? 美大時代、使ってたのと良く似てる。
少し固めのようだし、人形ぐらいのサイズなら芯は必要ないか。
木のヘラが欲しいところだけど、指だけでもなんとか……。
☆
「こんな感じでどうでしょう?」
粘土を触るのが楽しくて、思わず夢中になって……。
気が付いた時にはもう、高さ十五センチほどの土人形が完成していた。
「これは……。コンラウスをモデルにしたのですか?」
「僕が好きに造ると、いつも同じような形になっちゃうので。今回は、そちらのゴーレムをモデルにさせてもらいました」
テーブルの横に立っているストーンゴーレムと、テーブルの上に立っている土人形。素材の違いはあるけど、表面の細かいでこぼこまで、自分の爪を使ってうまく再現してみた。
「あっという間に、粘土でゴーレムを再現するだなんて……。ソウタ様はすごいのですね」
「ふにゃあぁぁ〜……」
マイヤーが褒めてくれるのは嬉しいけど、すぐ横から熱心に見つめられると恥ずかしいんですけど。
ルビィのその声は、褒めてくれてるのかな? ちょっと呆れてない?
「これは良い物を見せてもらった。どうやら、粘土細工の才能があるのも間違いなさそうですな。……では、ここからが石像使いとしての試験です」
「……はい」
ローブ姿の老人が、真剣な表情を浮かべて僕の方に向き直る。
「その土人形に手をかざして、『仮初めの石像』と唱えてください」
「えっ? テンポラリ……。ですか?」
「そうです。ここは、ワシが言ったとおりに唱えてください」
オニキスやリンドウを造った時と違うけど……。テストだから、かな?
あの時使ったのは急に思いついた呪文だったし、こっちが正しいゴーレムの造り方なのかも。
「それでは……。仮初めの石像!」
右手を土人形にかざして呪文を唱えるけど、何も起きなかった。
……あれ?