2 石像使いのおじいちゃん
結局、鉱山跡からかなり下ったところに空き地が見つかり、トパーズにはそこに降りてもらった。
つづら折りの道を上るのが大変だったけど……。長い上り坂で疲れたのは僕だけで、アラベスもマイヤーも平気そうだ。
ずっと抱っこされていたルビィも元気そうだね。
大鷲サイズに戻ったトパーズは、森の上を気持ちよさそうに飛んでいる。
出入りする人物をチェックするような施設もなく、すんなり僕たちは建物が並んでいる場所に入ることができた。
レンガ造りの高い建物に、木造の大きな建物。
どの建物も、建てられてからかなり時間が経っているようで、屋根や壁が微妙に煤けている。
古びた壁の色合いが周りの山肌と良く似てるのが、なかなか見つけられなかった要因か……。
「おそらく、こちらの建物だと思われます」
大きなレンガ造りの建物へと、アラベスが僕とマイヤーを案内してくれた。
——ドンッ! ドンッ! ドンッ!
アラベスが木製のドアを強めにノックして、しばらく待つ。
中からドアを開けて顔を出したのは、僕も良く知っている、エルフのお姉さんだった。
「アラベス〜、久しぶりね! ソウタ君もマイヤーも、入って入って」
「ちょっと、ユーニス! どうしてこんなところに居るのよ‼」
さらさらと流れるような金色の髪。透明感のある白い肌。
綺麗な水色の瞳。長くて尖った耳。淡いピンクの唇。
一ヶ月ぶりに会ったユーニスはベレス村で初めて会った時と同じように、冒険者っぽい服装だった。
「クスッ。びっくりした? ここのおじいちゃんに話を聞く予定だって、通信水晶で言ってたでしょ? 私も用事があったし、ついでにあなたたちを驚かせようと思って、先に来て待ってたのよ」
「あー……もー……。それならそうと、言ってくれれば良いのに……」
「先に言っちゃったら、あなたが驚いてくれないじゃない」
ユーニスと話をしながら、アラベスが建物に入っていく。僕とマイヤーも一緒に中に入った。
ここは……会議室かな?
僕たちが案内されたのは広い部屋で、中央に長方形の大きなテーブルが置いてあった。テーブルの周りにはシンプルな椅子が、十脚ほど置いてある。
部屋の奥の方。日本風に言うと上座に当たる席に、灰色のローブを着た年老いた男性が座っていて、入口に近い席にはユーニスと良く似た服装の、エルフの女性が座っていた。
「あなたがソウタ君ね! ユーニスに話を聞いてから、会えるのを楽しみにしてたのよ」
「えっ? えっ! えっ! ええっ⁉」
何か予感がしたのかな?
僕に抱っこされていたルビィが、さっとテーブルに飛び移る。
次の瞬間僕は、見知らぬエルフの女性に抱きつかれていた。
ほんのり甘い香り。ふんわり柔らかい謎の感触。
身長は同じぐらいなのかな? 頬ずりまでされている。
……なにこれ? 初対面だよね?
僕が会ったことがあるエルフの人って、ユーニスだけだし。そのユーニスは横に立ってるし……この人は誰?
「ちょっと、マーガレット様!」
「マーガレット様‼ いきなり何をするんですか!」
どうやら、ユーニスとアラベスはこの女性を知っているようだ。
二人がかりで、僕からエルフの女性を引き離してくれた。
「こっちに来て下さい! お話ししたいことがあります」
「隣の部屋をお借りしますね。マイヤー、あとは任せたわよ」
「あ〜ん……。せっかくソウタ君と会えたのにー!」
ユーニスとアラベスは左右からエルフ女性の腕を抱えて、そのまま部屋を出て行った。
……今のは、何だったんだろう?
横に立っているマイヤーは、まるで、何も見なかったかのように、落ち着いた表情を浮かべていた。
「はっはっは! 若いお嬢さんが四人もそろうと、華やかで良いですな!」
「えっ? あー……。お騒がせしてすみません」
朗らかに笑いながら声をかけてきたのは、奥の席に座っているローブ姿の老人だった。
「どうぞ、空いている席にお座り下さい。それで……ワシに話を聞きたいというのは、あなたですな?」
「あっ、はい。僕です。天城創多と言います」
軽く自己紹介をしてから、老人の近くの席に腰を下ろす。
テーブルの上をすたすたと、ルビィが歩いてきたけど……。老人に、怒ってる感じはしないかな? 優しい人のようで助かった。
「それで、そちらのお嬢さんは……?」
「私の名前はマイヤーです。ソウタ様の専属メイドで、ボディーガードとしても働いています」
「なるほどなるほど……。まぁ、どうぞ、お嬢さんもお座り下さい。今、お茶を出しますから」
マイヤーが僕の隣に座るのと同時に、部屋の奥にあるドアが開いて、人間サイズの石像が入ってきた。
……ゴーレムだ! 石で出来てるみたいだから、ストーンゴーレムかな?
ティーカップやポットの載ったお盆を手にしてるって……。お茶を出してくれるゴーレムってすごい! こんなこともできるのか!
「おやおや……。そんなにゴーレムが珍しいですか?」
「はい。動きも滑らかで……びっくりしました」
動いてる感じはオニキスと変わらない?
太い指で器用にティーカップを掴み、僕の前に置いてくれる。
「この子の名前はコンラウス。造ったばかりの頃は不器用で、物を壊してばかりじゃったが……。時間をかけて練習すれば、石造りのゴーレムでもこれぐらいできるようになるのですよ」
「そうなんですね……」
ゴーレムの話をする老人の顔は、なんだか誇らしげだ。
……普通のゴーレムでも成長するのなら、オニキスやリンドウがレベルアップするのも不思議じゃないよね? これは良い話を聞いた。