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8 先代魔王とオニキス(前編)

 落ち着いた雰囲気の執事に案内されて、僕たちは城の裏手へと移動した。

「ソウタ殿。ここでどうでしょうか?」

「あっ、はい。ここなら……」

 高い建物に囲まれた、バスケットボールのコートぐらいの広さの演習場。

 既に人払いが済んでいるようで、僕たちの他には誰も見当たらない。

 周りの建物は、武器や防具を入れておく倉庫なのかな? 壁に窓が無いようだけど……。城の高い階からは、ここって丸見えだよね?

 つまり、偉い人だけが見られるように用意された場所なのか。

 倉庫っぽい建物より巨人サイズのオニキスの方が大きいと思うけど、これぐらいなら、遠くから見られることはないだろう。たぶん。


「それでは、あっちの奥の方にオニキスを——鉄の巨人を出しますね。危ないと思ったら声をかけるので、それまで、自由に攻撃して下さい」

「……陛下。この条件で大丈夫ですか?」

「そんなに心配しなくても、ちゃんと手加減するから。大丈夫だよ」

 アラベスのお父さんが笑みを浮かべているのとは対照的に、伯爵は何とも言えないような複雑な表情になっている。

 もしかして、伯爵って苦労人なのでは……?


「ソウタ殿……。お父様が迷惑をかけて、申し訳ありません」

「いやいや。こうなるなんて、僕にも予想できなかったし……アラベスが謝るようなことじゃないでしょ。それより、ルビィを預かっててもらえる?」

「にゃあ〜」

 横に立っていたアラベスが、小さな声で話しかけてきた。

 僕はアラベスにルビィを預けて、小走りで演習場の奥へと向かう。

 アラベスのお父さんは武器らしい武器を持ってないし、たぶん魔法で攻撃してくるんだと思う。

 ガーディアンとの戦いの後でオニキスをバージョンアップしてあるし、純粋な魔法の攻撃なら……。いや、でも、相手は先代の魔王だし、危ないと思ったら早めに止めなくっちゃ。

「頼んだよ、オニキス!」

 服の下から漆黒の勾玉を引っ張り出して、そのまま放り投げる。

 僕が声をかけた瞬間、周りの景色がぐにゃりと歪み、勾玉が飛んでいた場所に鉄の巨人が姿を現した。

 ……遠くで、どよめくような声が聞こえたのは気のせいかな?

 予想してたよりも大勢の人が、この場所に注目してる?

 まぁ、いまさら気にしても仕方ないか。



 よっぽど待ちきれなかったのかな?

 アラベスやマイヤーが居る場所に戻ったときにはもう、アラベスのお父さんは上着を脱いで、今にも飛び出しそうな表情になっていた。

 胸元に飾りの付いた白いシャツが、いかにも貴族っぽい。

 アラベスのお父さんが脱いだ上着を、横に居る伯爵が腕にかけてて……。大貴族の伯爵が、執事になったみたいだ。

 伯爵の斜め後ろに控えている本物の執事は、こんな状況でも表情を変えてないのがすごいと思う。


「ソウタ殿? 巨人の様子が、前に見たときと少し違うようですが……」

 僕に質問してきたのは伯爵だった。

「あっ、はい。ガーディアンと戦って課題が見つかったので、何カ所か修正してあります。あの、肩に掛けてるマントは、伯爵が着けてたのを参考にさせてもらいました」

 表面は雨に打たれた(カラス)のような黒。

 裏地は熟れた柘榴(ざくろ)のような赤。

 オニキスが着けているマントは、よく見ると肩当てが微妙に浮いている。

「念のためにお聞きしますが……。あのマントは、単なる装飾では無いんでしょうね?」

「それは、戦ってみてのお楽しみということで……」

「では、はじめさせてもらっても良いかな? 良いよね? ソウタ君」

「どうぞ、はじめてください」

 アラベスのお父さんは、新しいオモチャをもらったばかりの子どものような笑みを浮かべていた。

 軽い足取りでオニキスに近づき、二十メートルほど手前で足を止める。


「まずは、簡単な魔法から……ファイアーアロー!」

 まっすぐ伸ばした人差し指の先に、青い炎の矢が何本も現れる。

 軽く腕を振っただけで、全ての矢が勢いよく放たれた。

 アラベスが使ってたのと同じ魔法だけど、色が違う?

 元の世界の知識が通用するのなら、赤い炎より青い炎の方が何倍も温度が高いはずで——

「オニキース!」

 僕の声が届くのより早く、オニキスはマントを手で掴み、鉄の身体をしっかり覆い隠した。

 黒いベルベットの布地に青い炎の矢が何本もぶつかり、何事もなかったかのようにすっと消える。

「面白い……。では、これでどうだ? アイスジャベリン!」

 呪文を唱えるのと同時に、氷の槍が出現した。

 前にアラベスも同じ魔法を使ってたけど、明らかに、お父さんが出した槍の方が太くて長い。

 ……空気中の水分まで凍らせてるのかな? 周りの空気がキラキラ輝いてるんだけど。

 ——ガキィィィィン‼

 氷の槍がマントにぶつかり、そのまま砕け散った。

 オニキスは……。大丈夫? 大丈夫そうだな。

 マントの隙間から僕の方に向けて、小さく手を振ってる。マントにも、傷一つついてないようだ。

「……ウインドストーム!」

 オニキスを取り囲むように、巨大な竜巻が演習場に現れた。

 ……これはちょっと、やり過ぎなのでは? 建物の壁が削れてますよ?

 強い風で、僕まで飛びそうになってるんですけど?

 どうやらオニキスも、同じことを考えていたようだ。

 身体を覆っていたマントをさっと広げ、そのまま大きく振り回して竜巻を消してしまった。

 アラベスのお父さんの顔から、余裕がなくなってる気がするけど……。


「あのマントは、魔法を吸収するのか……?」

 伯爵のつぶやきが聞こえてきた。

 元はと言えば、伯爵が着けてたマントがかっこよかったから真似しただけなんだけど……。それだけじゃもったいないから、後から機能を考えたんだよね。

 魔法を吸収して、物理攻撃もある程度防いでくれるマント。

 今はオニキスが自分の身体を守るのに使ってるけど、大きく広げたら周りの人まで中に入れて守ることができる。

 ……うんうん。良い感じに仕上がったんじゃないかな。

「これならどうだ……サンダーボルト!」

 ——ビキィィィィィンッ‼

 雲一つない青空から、巨大な雷が降り注ぐ。

 空が割れるような不快な音が、鼓膜を震わせる。

 これって、丘の下に居る人たちまで聞こえたのでは?

 直撃を受けたオニキスは、何事もなかったかのように立っている。

 マントで覆いきれなかった部分に、雷が当たってると思うけど……。鉄の身体だからねぇ。さすがにそれは、効かないと思います。


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