6 先代魔王
「アラベス、久しぶり〜。ずいぶん大きくなったねぇ」
「前に会ったときから、身長も体重も変わってません。そんなことより、どうしてお父様がここに居るのですか?」
「伯爵から、君が遊びに来るって聞いてね。顔を見たくなって来たんだよ」
「遊びに来た訳ではありません! 近くに用事があって、その前に、伯爵に挨拶するために伺っただけで」
この人がアラベスのお父さん? 本当に?
見た目だけなら、お父さんと言うよりお兄さんって感じだけど。
身長は伯爵と同じぐらい。体重は……伯爵の半分くらいかな?
すらりとした体型で、白衣を着せると似合いそう。
白い肌。赤い瞳。アラベスと良く似た綺麗な青髪。
肩まで伸ばした髪に中性的な顔立ちも相まって、どことなく女性的な雰囲気も感じられる。
アイドルグループなら、ボーカルのポジションが似合いそう……。そういう意味では、歌劇団が似合いそうなアラベスと似てるかも?
「ソウタ殿もそちらのお嬢さんも、どうぞ座って下さい。あの二人の話が終わるのを待っていたら、いつになるかわかりませんから
「あっ、はい」
「ディブロンク伯爵。先日お会いしたときは挨拶もできず、申し訳ありませんでした。ソウタ様の護衛を命じられたマイヤーと申します。しばらくの間、ソウタ様とアラベスと一緒に、この地方に滞在する予定となっていますので、よろしくお願いします」
「なるほど……。わかりました。配下の者にも伝えておくので、どうぞ、好きなだけ滞在して下さい」
「ありがとうございます」
伯爵から言われるままに、僕はソファに座ろうとしてたんだけど、その前にマイヤーが、ちゃんとした挨拶をしてくれた。
この地方に滞在することを伝えて、伯爵から許可をもらって……これで、メインの目的は達成できたな。
想定していた挨拶が台無しになって、どうなることかと思ったけど、マイヤーのおかげで助かった。
挨拶が終わったところで、僕と伯爵はソファに座った。
絶妙なタイミングでメイドさんたちが部屋に入ってきて、お茶の準備を進めてくれる。
それは良いとして……。マイヤーは僕の後ろに立ってるの? あちらの護衛っぽい人も伯爵の後ろに立ってるし、こうするのが普通なのかな?
ルビィを見たメイドさんが、困っているような悩んでいるような複雑な表情を浮かべてたけど、お茶の用意が出来たところで僕たちに軽くお辞儀をして、そのまま部屋を出て行った。
……変わった客でごめんなさい。
「親子の再会を祝う会話はこれぐらいにして……。アラベス。私にも、そちらの方を紹介してもらえないかい?」
「……そうですね」
自然な流れでアラベスのお父さんは、伯爵の横に腰を下ろした。
あれっ? ここって伯爵の城で、伯爵は大貴族だよね?
その隣に、当たり前のように座るって……。アラベスのお父さんは伯爵の親戚とか? それなら、アラベスと伯爵が知り合いなのも納得だけど。
「お父様。こちらがソウタ殿です。別の世界から来た異世界人で、ギルドに所属している冒険者でもあります」
「はじめまして。天城創多です」
ソファの近くに来たアラベスが、立ったまま僕を紹介してくれた。
苦虫を噛みつぶしたような表情がチラリと見えたけど……。僕を父親に紹介するのが嫌で、そんな顔になってる訳じゃないよね?
「ソウタ殿。こちらが私の父で……バラギアン王国の先代の魔王でもある、エメリック・ティアヒム・バラギアン陛下です」
「ソウタ君、だね? はじめまして。僕のことは気楽に、エメリックと呼んでくれれば良いから。これから、よろしく頼むよ」
「えっ……? あっ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
差し出された手に手を重ね、素直に握手する。
柔らかい手の平。傷一つ無い指。
……本当にこの人が、先代の魔王なの?