4 面倒な課題
アラベスに課題を出した日の翌日。
僕はマイヤーが出してくれた三時のおやつを食べながら、アラベスから報告を受けていた。
アラベスの知り合いの石像使いは気の良いおじいちゃんで、通信水晶で連絡すると、すぐにでも会おうという話になったらしい。
そこまでは良かったのだが、住んでいる場所が問題だった。
おじいちゃんの石像使いが住んでいるのは、バラギアン王国の北東地方。前に僕たちがガーディアンを見に行った城塞都市の近くの街に居るそうだ。
ここまで話を聞いても、何が問題なのかわからなかったんだけど……。
「オニキスさんとガーディアンが戦った後で、部隊を率いてきた伯爵と面談しましたよね? あの時の会話を覚えてないでしょうか?」
「あー……。あの、一人だけすごい鎧を着てた人だよね。ガーディアンの欠片を分けてもらったのは覚えてるんだけど……」
マイヤーに言われて、いろいろ思いだした。
立派な体格で、手も大きくて指がゴツゴツしてた人だな。握手したときに手が痛かった記憶がある。
「あの時の会話で、あの近くを再び訪れることがあれば、伯爵に便宜を図ってもらう約束になりましたよね?」
「そう言えば……。そんな話もあったっけ」
「ですから、ソウタ様があの地方に住んでいる人に会いに行くときは、その前に伯爵の元を訪れて、挨拶しておく必要があります」
「……そうなるの?」
「伯爵を無視して、他の人に会いに行くこともできますが……。そのことが後になって知られた場合、約束を破ったと言われても仕方がないので、よっぽどの理由がない限りは止めておいた方が良いと思います」
「申し訳ありません。あの時、私が軽い気持ちで答えたばっかりに……」
そう言うアラベスは、苦しそうな表情を浮かべてるけど……。
こうなるなんて誰にも予想できないし、仕方がないよね?
「いやいや、アラベスが謝るようなことじゃないよ。あの時は僕も、アラベスの答えで良いと思ったし……。伯爵に挨拶に行けば済む話だよね?」
「簡単に言うと、そういうことなのですが……」
「今回はこちらから伯爵が住む城を訪れるのですから、事前に日程を調整する必要があります。何らかの手土産も必要でしょうし、最低でも一泊はすることになるのでソウタ様の服も用意しないと」
「……えっ?」
☆
すぐに終わるような課題を出したつもりだったのに、気が付いたら面倒なことが山積みになっていた……。
まず、貴族の家を訪問するときは『先触れ』と言って、事前に使用人を送って訪れるメンバーや日時を知らせる必要があるらしい。
田舎の小貴族ならともかく、ディブロンク伯爵のような大貴族を先触れなしに訪れるのは、常識がない人間だと思われるそうで……。
直接会って話をしたことがある関係なんだけど、それでも必要なの?
……絶対に必要なのね。納得しました。
先触れとして送る使用人の選択とか、日程とか、出張旅費とか、考えただけで頭が痛くなりそうだったけど、エミリーさんがうまくやってくれた。
先触れの話が終わった後は、僕が着る服が問題になった。
おそらく、伯爵の城では晩餐会に招かれるだろうということで、それにふさわしい服が必要になるらしい。
マルーンにもらった服が何着かあるけど……あれは普段着だから駄目?
……わざわざ、イムルシアの首都から服屋を呼ぶの?
トパーズに乗せてもらって、僕が行く方が楽じゃない?
職人を呼びつけるのが貴族のやり方かもしれないけど、僕は貴族じゃなくて一般人の冒険者だから良いよね?
僕の意見に賛同してくれたマイヤーと、貴族のやり方にこだわろうとするエミリーさんの間で、途中からバトルみたいになってたけど……ここは、エミリーさんが折れてくれた。
イムルシアの首都まで行くのなら……服を仕立てるついでに、他の店に行っても良いよね?
あれだけ大きい街なら、木彫りに使う道具ぐらい売ってるはず。焼き物に使う粘土も欲しいけど……これは、陶芸品の産地じゃないと手に入らないかな?
どうせ、服ができるまで時間がかかるだろうし、足を伸ばしてベレス村まで行ってくるのも良いかも。馬車だと一週間ぐらいかかったけど、トパーズなら一日あれば余裕で着くだろう。
お世話になったキアラに挨拶して、マルコとのんびり話でも……。
一人でわくわくしている僕の横で、エミリーさんは貴族の常識を僕にどうやって教えるか悩んでいた。
伯爵は本物の大貴族だから、挨拶の仕方から食事のマナーまで、ちゃんと身に着けてから行った方が良い?
前に会ったときは、気の良いおじさんって感じだったけど……駄目?
困ったら、アラベスにフォローしてもらえば……。
あっ、はい。わかりました。そこは譲れないんですね。