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3 アラベスの弟子入り

 立派な屋敷に引っ越してきて、十日ほど。

 美味しいディナーを終えて食後のコーヒーを飲んでいたところで、アラベスから声をかけられた。

「ソウタ殿。私がソウタ殿に弟子入りする話ですが……。新居での暮らしも落ち着いてきたようですし、そろそろ、弟子入りするための課題を決めていただけないでしょうか?」

「その話については、僕も考えたんですけど……。課題を出す前に、いくつか質問させてもらっても良いですか?」

「もちろんかまいません。なんでも聞いて下さい」

 そう言って、向かいの席に座っているアラベスが僕の顔を見つめてきた。

 透明感のある青い髪。意志の強そうな金色の瞳。

 さっぱりとした白いシャツを着ているだけなのに、何故か高貴な生まれを感じさせるたたずまい。

 美人と目があうと、それだけで緊張するんだけど……。

「僕の弟子になる理由は、ゴーレムについて詳しく知りたいから……で、あってますか?」

「最初に弟子入りを希望したときはそうでした。ですが、今は違います」

「それじゃあ、何か他の理由が……?」

「ガーディアンとの戦いを見て確信しました。これから先、ソウタ殿は大陸中に知られるような勇者となるでしょう。そうなったときに私は……。私がソウタ殿の一番弟子だと自慢したいのです!」

「えー……」

 思ってた以上にくだらない理由だった‼

 ゴーレムについて知りたいだけなら、『弟子にならなくても教える』って言って断ろうと思ったのに……。まさか、弟子入りが目的になってたとは。

「目立つのは好きじゃないので、有名になるつもりはないんですけど……」

「そこはもう、諦めて下さい。どれだけ避けようとしても、優れた力を持つ者には力にふさわしい仕事を与えられるのが世の常です。私が小さかった頃、父がよく言ってました」

「そう言われてもなぁ……」

 アラベスの言葉は冷静だけど、視線がちょっと怖い。

 なんだか、初めてオニキスを見て興奮したときのようだ。

 今日は朝からずっと、何か言いたそうにしてたけど……。この話をするつもりだったのか。


 一人で盛り上がっているアラベスを見て、逆に僕は、すーっと心が落ち着くのを感じていた。

 冷静になって考えると……。アラベスって見た目は美人だし、食事のマナー一つ取っても洗練されてるし、伯爵と話をしたときも堂々とした態度だったし、ダイヤモンドランクの冒険者だし、僕が苦手な仕事を任せるにはちょうど良い人材なのでは?

 弟子を取るって考えると気が重いけど、苦手な仕事を任せられる部下ができると思えば……問題ない? メリットの方が大きい?

 派遣社員をやってたときも、後から入ってきた人にツールの使い方を教えたりしていたし、似たような感じで……。いや、これはちょっと話が違うか。

 さっき、『力にふさわしい仕事を与えられるのが世の常』って、自分で言ってたし、僕が仕事を振っても文句は言わないだろう。

 アラベスとユーニスとマイヤーの三人は、僕と一緒に居るのが決まってるみたいだし、弟子になってもらっても大差ないよね?

 だとしたら……。弟子入りを認めるとして、良い機会だから前から気になっていた件を課題にしようかな? これなら、アラベスには楽勝だろうし。



「それでは、課題を出します。この課題を無事に達成できたら、僕の弟子として認めるということで」

「ありがとうございます、ソウタ殿。どんなに難しい課題でも、私はやり遂げて見せます!」

 よっぽど嬉しかったのかな?

 右手を軽く握りしめたアラベスがニヤリと笑って……。なんだか、背筋がゾクゾクするのは気のせいかな? 判断を間違えたか?

「それで、課題の内容ですけど……。僕に石像使い(ゴーレムマスター)を紹介してください。今でも現役で、ゴーレムを造れる人でお願いします」

「……えっ? ソウタ殿はオニキスさんを造ってますし、既に並び立つ者が居ないほど、偉大な石像使いだと思うのですが……」

「僕のやり方は自己流で、基本的な知識が足りてないんです。最近も、新しくゴーレムを造ろうと思ったらうまくいかなくて……。いろいろ、相談できる人が欲しいんですよね。ガーディアンの素材についても質問したいですし」

「なるほど、そういうことですか……」


 数日前。森を散歩していたときに、ちょっとした崖になっている場所で、赤い土が剥き出しになっているのを見つけた。

 田舎のおじいちゃんが似たような粘土を使ってたのを思い出して、それなりの量を掘り返して持ち帰った。

 マイヤーにお願いして工作用の部屋を用意してもらって、持ち帰った粘土でいろいろ実験してみたんだけど……。この土だと、ゴーレムを造れなかった。

 つまり、オニキスやリンドウを造れたのは僕の力じゃなくて、綺麗なお姉さんにもらった粘土の力なんだろう。

 それなら……。駄目なら駄目で諦めるけど、できれば自分の力で、普通の粘土からゴーレムを造ってみたいんだよね。

 普通の粘土は普通の粘土で、思った通りに変化しないのが逆に新鮮で、触ってるだけで楽しかったけど。


「前に聞いた話だと……。アラベスはゴーレムについて詳しいけど、ゴーレムを造ることはできないんだよね?」

「何度か試してみたのですが、私には素質が無いようで……」

 マルーンの城に泊まっていたときにユーニスにも聞いたけど、知識としては知ってるけどゴーレムは造れないって言ってた。

 賢者でも使えない魔法があるのが不思議で、ユーニスに詳しく聞いてみたんだけど……。ゴーレムに関する魔法は、わかってない点が多いそうだ。

 そうなると、専門家に聞くしかない訳で……。

「念のために聞くけど、マイヤーはゴーレムを造れるの?」

「試したこともないですが……。おそらく、無理だと思います」

 斜め後ろに立っているマイヤーにも尋ねてみたけど、返ってきた言葉は想像してたとおりの内容だった。

 マイヤー経由でマルーンに聞いてもらうという手もあるけど、マルーンにお願いすると、なんだか話が大きくなりそうで怖いんだよね。

 深い理由はないけど、これは最後の手段にしたい。

「それじゃあ、アラベスに紹介してもらうのが一番早そうだけど……。一人ぐらい居ないかな? ゴーレムの歴史にも詳しくて、いろいろ質問できるような人が理想だけど……」

「その条件にぴったりの人物が居ます。連絡を取ろうと思えばすぐにでも連絡が取れますし、紹介するのも容易ですが……。ソウタ殿の弟子になるのに、こんなに簡単な課題で良いのでしょうか?」

 弟子入りを認める気になってたから、ちょっとしたお願い事の感覚で課題を出してみたんだけど……。簡単すぎたかな?

「簡単そうな課題でも、やってみたら面倒かもしれないよ?」


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