2 新居での暮らし
僕の部屋は三階に用意してもらった。
部屋の造りはマルーンの城で泊まっていた部屋と似てて、ホテルのスイートルームみたいな感じ。リビングルームの窓から海が見える。
生活のリズムも、マルーンの城に泊まっていたときとほとんど同じ。
朝起きたら熱いシャワーを浴びて、朝ご飯を食べて、午前中はルビィやトパーズと遊んで……。もうちょっと、建設的なことをするべきか?
昼ご飯を食べた後は、天気が良ければ森歩き。
屋敷の周りにある森はベレス村の森と雰囲気が似ていて、歩いているだけで気持ちが良い。
危険な獣は居ないそうだけど、念のためにと、いつもマイヤーが一緒に来てくれる。ルビィがついてくるのも同じ理由かな?
彫刻に使えそうな太い枯れ枝を見つけて、ふと思った。
森の物を勝手に持ち帰っても良いのかな?
マイヤーに確認したところ、この森は既に僕の名義になっているので、何でも好きにしていいらしい。少なくとも屋敷から見える範囲は全て、僕の土地になっているそうだ。
屋敷を見たときもびっくりしたけど、これは……。
家が欲しいって言ったけど、森が付いてくるのはやりすぎじゃない? マルーンの感覚だと、これぐらい普通なの?
でも、いまさら返す訳にもいかないし……。困るものでもないし、素直に受け取っておくか。
いつか、何らかの形でマルーンにお礼をしよう。
朝や昼もそうだけど、晩ご飯も毎日美味しい。
ときどき、料理に海の幸が出てくるのも嬉しい。
少し離れたところに漁師の村があって、そこから仕入れているらしい。
料理は美味しいんだけど……。給仕されながら一人で食べる食事には、なかなか慣れない。
一緒に食べるようにマイヤーに言ってみたけど、はっきり断られた。
ボディーガードとして外に出ているときは別だけど、屋敷に居る間はメイドの仕事が優先されるそうだ。
マイヤーは給仕だけでなく、朝から晩まで僕の世話をしてくれる。
休みが無いのは申し訳ない気がするんだけど……。専属メイドというのはこういうものらしい。
専属メイドがもう一人いれば、交代で休めるようになるのかな?
機会があったら誰かに相談しよう。
トパーズは森が気に入ったようで、大鷲の姿で飛び回っている。
自分で作った巣が、居心地良いのかな?
夜もずっと森に居るけど、僕に会いたくなったときはバルコニーへと飛んできて、クチバシで窓をノックするようになった。
ルビィはこの屋敷が、自分の家だと認識したようだ。
堂々とした態度で廊下を歩き、ノブに飛びついて器用にドアを開けて、どの部屋でも自由に出入りしている。
昨日は大きなネズミを仕留めて、わざわざ持ってきて自慢してくれた。
ドヤ顔をしてるところ悪いけど……。僕は食べないからね?
えっ? それぐらいわかってるって? 自慢したかっただけなの?
一週間ほど遅れて、アラベスも屋敷に到着した。
本当はもっと早く来るつもりだったけど、冒険者ギルドに呼び出されて、いろいろと話を聞かれて大変だったらしい。
……デノヴァルダルの街で鉄の巨人とガーディアンが戦った件について、問い詰められた?
現場にいたのをギルドの関係者に見られてたのね。
それなのに、詳しい報告もなしに居なくなったから、ギルド全体にアラベスが来たら足止めするよう連絡が回っていた、と。
それってもしかして、僕が早めに帰ろうって言ったから……?
急いで帰れば、夕飯に間に合いそうだったんだよね。
妙に疲れた表情をしていたアラベスには、美味しいご飯を食べて、ゆっくり休んでもらった。
新居となった屋敷には、僕が引っ越してくる前から働いている人が居る。
住み込みのメイドと執事と下働きが、あわせて十五人ほど。
引っ越した日の翌日に、全員と顔合わせしたんだけど……。
人件費だけですごいことになってない? この人数のお給料を、これからは僕が払わないといけないの?
気になって、前から居たメイドさんに聞いてみたんだけど、屋敷を維持するのに必要な経費は全て、今まで通りマルーンが出すことになっているそうだ。
……人件費はもちろん、建物の修繕費や料理の材料代まで?
そこまでしてもらうのは悪いような気がするけど……。いまさら断るのもおかしいかなぁ。
何らかの形で、マルーンにはしっかりお礼をしなくっちゃ。
ちなみに、人件費について質問した相手がエミリーさん。
マルーンの城で言うと、パーカーさんと同じような立場なのかな?
他のメイドや執事をまとめてくれてる人で、すごく太った——いや、これは無しで。でっぷり——これも駄目。体格の良い——これも微妙か。
とにかく、エミリーさんはすごくパワフルな女性です。
僕と一緒に来たマイヤーと、前から働いていたメイドさんたちとの関係が気になったけど、そこはうまくやっているようだ。
立場としては、マイヤーが一番偉いことになっているらしい。
基本的にマイヤーの仕事は僕の世話だけで、他の仕事は前から働いていた人たちに全てお任せ。忙しくて手が足りないときは、互いに助け合う、と。
……僕が細かいことまで気にしすぎなのかな?
うまくいってるのならそれで良いか。