閑話休題 専属メイドの日記(その2)
◯5月14日(月曜日)
今日も、いろいろな出来事が起こりました。
詳しく書いているとページがどれだけあっても足りなくなりそうなので、できるだけ完結に、重要な事実だけを日記に残そうと思います。
トパーズさんの正体はロック鳥でした。
私とアラベスさんとソウタ様。三人が乗ってもまだまだ余裕があるぐらい背中は広く、私が自分の羽根で飛ぶのよりずっと速く、バラギアン王国の城塞都市まで飛んでも体力が減ってないようでした。
空からの眺めが素晴らしかったので、飛んでいる間は気にならなかったのですが……。ロック鳥は伝説の存在では?
ソウタ様は、どこでトパーズさんを見つけて契約されたのでしょう?
どれだけ野獣使いのレベルを上げれば、ロック鳥を使役できるようになるのでしょう?
トパーズさんがスズメや大鷲の姿に変身するのも、ソウタ様の力ですよね?
私たちと一緒にトパーズさんに乗っていた、人形サイズの可愛いアイアンゴーレムも気になりますが……。この話は、また明日にしましょう。
詳しく書いていると、今日も日記が長くなってしまいます。
それにしても、普通では有り得ないようなことが多すぎませんか?
パーカー様からソウタ様の特殊な力を調べるように言われたのが、ずいぶん昔のことのように思われます。
徒歩で街に入った後は、特に何事もなかったです。
アラベスさんの案内で、そこそこ良い宿に泊まりました。
ソウタ様は魔族の街を訪れるのが初めてだそうで、何を見ても驚いていたのが印象的でした。
◯5月15日(火曜日)
もちろん今日も、驚くような出来事がいくつも起きました。
……これでも、かなり控えめな表現です。
ガーディアンの討伐部隊を率いるのは、バラギアン王国の北東地方を治めているディブロンク伯爵だそうです。
通常なら城塞都市の領主が、治めている都市と周辺の農村を守らないといけないのですが、一つの都市で集められる騎士ではガーディアンを排除できないと判断したのでしょう。
話を聞いた伯爵が強引に介入してきた可能性もありますが、そこは私にはわかりません。
南門の前に居た二体のガーディアンを騎士たちが別々の方向に誘導して、魔法使いが掘った大穴に片方のガーディアンを落とす。
討伐部隊の作戦は、うまく行っているように見えました。
……ここまでは。
西へと誘導されたガーディアンの目が光り、脇腹から引き抜いたブロックを投げつけました。地面に刺さったブロックが爆発し、数人の騎士が爆風で吹き飛ばされます。
ブロックが直接当たった騎士はいなかったですし、防御力を上げる魔法を使ってあったようですし、あれぐらいなら心配する必要はないでしょう。
私はそう判断したのですが、ソウタ様は違ったようです。
アラベスさんからの要請を受けて、ソウタ様は一人でガーディアンを討伐すると決意されました。ルビィさんを豹の姿に変えて、その背中に乗って、西へと誘導されたガーディアンを止めに行きます。
……申し訳ありません。
護衛として、どんな時でもお側を離れてはいけない立場なのに、私はソウタ様についていくことができなかったのです。
今後はこのようなことがないように……。どうすれば良かったのか、後でユーニスさんやパーカー様に相談しましょう。
私たちが立っていた川岸から西に誘導されたガーディアンまで、五百メートルほどあったでしょうか? その距離をルビィさんは、ソウタ様を背中に乗せた状態で十秒もかからずに走りきりました。
今になって考えると……速すぎませんか?
身体強化系の魔法を使ったとしても、ちょっと速すぎる気がします。
レベルの高い野獣使いなら、これぐらい普通なのでしょうか……?
……話が逸れてますね。
その後も、驚きの光景が続きました。
鉄の巨人が現れて、ガーディアンと戦い始めたのです。
あれはソウタ様が造ったゴーレムで、オニキスという名前だと、アラベスさんが教えてくれました。
ガーディアンより大きいアイアンゴーレムを、ソウタ様が造った?
そもそも、アイアンゴーレムって新しく造れるのですか?
私の知識が間違っていたのでしょうか……。
ガラガラと音を立てて、常識が崩れていくような気がします。
ガーディアンのパンチを軽やかな動きで避けて、鉄の拳をヒットさせる。
明らかにオニキスさんの方が格上のようで、ガーディアンとの戦いにも余裕が感じられました。
オニキスさんの活躍を最後まで見守りたかったのですが、アラベスさんと私にはソウタ様が残した命令がありました。
身体強化の魔法を使い、ブロックの爆発に巻き込まれた騎士たちのところへ急ぎます。デノヴァルダルの街から来た援軍だと思ってもらえたようで、素直に回復魔法を受けてくれました。
人馬を問わず救護して、ある程度回復したところで、全員が後方で待機していた部隊に合流しました。
ガーディアンの反撃。鉄の巨人の出現。
人間同士では有り得ない、激しい争い。
このような状況は想定していなかったのでしょう。討伐部隊の人たちは、かなり混乱しているように見えました。
そんな中、アラベスさんは伯爵の護衛に声をかけて、伯爵と直接話をする許可を取り付けました。
アラベスさんが懐から出した物を見せた瞬間、護衛の態度が変わったのが気になりますが……。誰にだって、人には言えない秘密があるものです。
アラベスさんを調査しろとは命令されてないですし、ここは、彼女の方から教えてくれるまでそっとしておきましょう。
その後、伯爵と普通に会話していたのも気になりますが、最近は気になることが多すぎます。そっとしておきましょう。
アラベスさんの秘密はともかく、会話の内容は気になるものでした。
彼女はソウタ様の勝利を疑っていないようで、最初から、戦いが終わった後の対応について話をしていました。
戦いは一方的な勝利に終わりました。
ガーディアンの一体が飛び上がり、ソウタ様に攻撃を仕掛けたときはどうなることかと思いましたが、オニキスさんが迎撃しました。
魔法が効きにくいのはもちろん、物理的な攻撃にもゴーレムは強いと聞いた覚えがあるのですが……。ゴーレム同士の争いは違うのでしょうか?
とにかく、四体居たガーディアンは、どれも二度と動けないように破壊されました。
戦いが終わった後、討伐部隊を率いてきたディブロンク伯爵とソウタ様の会談が行われました。
伯爵が会談を希望したのは確かですが、そうなるように話を持っていったのはアラベスさんだったような……?
ソウタ様は英雄の保護を受けている異世界人だと、最初に言ったのが良かったのでしょう。
会談は最初から最後まで、穏やかな雰囲気で進みました。
偉い人と話をするのは苦手だと、ソウタ様が言ってましたが、その部分はアラベスさんがうまくフォローしていました。
護衛としての役目を果たせなかっただけでなく、会談でも私はお役に立てなかったのです……。
ソウタ様の提案で、マルーン様やパーカー様にお土産を買って帰ることになりました。
城に滞在しているお客様がお土産を買って帰るというのは、意味がよくわからなかったのですが、ソウタ様によると『出張したときは、ちょっと美味しいお土産を買って帰るのが職場の雰囲気を良くするコツ』だそうです。
詳しく話を聞いてもちゃんとは理解できなかったのですが、お土産選びなら私の出番です。
マルーン様には甘いお菓子を、パーカー様には珍しいお酒を選びました。
城で働いている執事やメイド達に配られることを考えて、ソウタ様は多めに購入していました。
これで少しは、ソウタ様のお役に立てたでしょうか?
……冷静に振り返ってみると、何か違うような気がします。
明日にでも、溜まっている事案をパーカー様に報告して、今後の対応についても相談したいと思います。