閑話休題 専属メイドの日記(その1)
◯5月12日(土曜日)
私の名前はマイヤー・メイフィールド。
伝説の英雄の城で働いている、ごく普通のメイドです。
これまでは、主にマルーン様のお世話をしていましたが、明日からはソウタ様の専属として働くことになりました。
表向きの仕事はメイド兼ボディーガードですが、パーカー様からはソウタ様の特殊な力について調査するように命じられています。
パーカー様……。
城で働いている間は使用人として同じ立場なので、『パーカー』と呼び捨てにするように言われていますが、日記の中ぐらいはパーカー様と呼ぶことを許してください。
大陸に残る唯一の純粋悪魔族で、私のような一般的な悪魔族からすると、偉大な先祖であるのと同時に保護者のような方です。
メイドの仕事には慣れたと思いますが、今でもパーカー様を『パーカー』と呼ぶことはできません。執事長と呼ぶのが精一杯です。
……話が逸れてますね。
ソウタ様の専属になりますが、まずはメイドとしての仕事に専念するように言われています。特殊な力についての報告は、仕事が落ち着いてからで大丈夫だそうです。
ですから、まずは日記の形で毎日の出来事を記録して、後から情報を整理してパーカー様に報告しようと思います。
◯5月13日(日曜日)
日曜日ですが、メイドの仕事に休日はありません。
今日から、ソウタ様の専属として働くことになりました。
専属メイドと言っても、城を訪れたお客様のお世話をするときと、仕事はほとんど同じです。
衣類のクリーニング。朝の挨拶。朝食の給仕。
ここまでは、問題なく仕事をこなせたと思います。
城での生活に慣れてないのか、ソウタ様はいろいろと戸惑ってましたが、料理には満足していただけたようです。
猫のルビィさんと、スズメのトパーズさん。
ソウタ様が連れている二匹の魔獣について、どのように扱えば良いのか悩みましたが、先輩に教えてもらって何とか対応できました。
ルビィさんには浅い平皿を、トパーズさんには底が深い小皿を出すのがポイントなのですね。
控えの間に戻った後は、使用人だけが知っている秘密のスペースからソウタ様の活動を観察しました。
しっかり観察したのですが……。この話をどのようにまとめて、パーカー様に報告すれば良いのでしょうか?
リュックからソウタ様が取り出したのは、よくある普通の粘土です。
茶色い粘土を少しだけちぎり取ると、いきなり粘土が膨らみました。
いつの間にか手にしていたヘラを使って、丁寧に粘土を加工します。
どうやら、それまで填めていた指輪を参考にして、新しい指輪を造っているようです。
ソウタ様がそっと指で撫でると、石の形に加工された粘土が紫色の宝石に変わりました。指を通す部分は銀になりました。
……ソウタ様は本物の錬金術師なのでしょうか?
専属に決まった後の会話では、野獣使いで石像使いだと紹介されたはずですが……。
なんとなく、この事実は急いで報告した方が良いような気がします。
パーカー様に時間を作ってもらわないと……。そう思っていたのですが、報告しないといけない事実が、まだまだ続いたのです。
昼食を終えたソウタ様は、ユーニス様から魔法を習うことになりました。
これは、先ほど造っていた指輪について調べるチャンスでしょう。
私も、魔法の講習をお手伝いすることにしました。
ユーニス様は以前にも、人間に魔法を教えたことがあるのでしょう。
産まれたときから魔法が使えるエルフ族や悪魔族には必要ないような、基本的な内容から説明を始めました。
……ソウタ様にも、基本的な説明は必要なかったようです。
最初こそ魔力のコントロールがうまくできなかったみたいですが、すぐに上達されました。
一回見ただけで基本となる魔法を使えるようになって、詳しく教えなくても応用できるのは、『上達』と言う範囲を超えているような気もします。
ファイアーウォールなんて、魔法が得意な種族でも気軽に使える魔法ではないはずですが……。右手の指輪に注目していた私は、さらにおかしな事実に気付きました。
それは、ソウタ様から魔力の流れが感じられなかったことです。
大規模魔法が発動したのは確かなのですが……。元となる魔力はどこから出てきたのでしょう?
ユーニス様の質問に、ソウタ様はあっさり答えを教えてくださいました。
午前中にソウタ様が造っていた指輪は、本人に代わって魔法を使ってくれるゴーレムなのだそうです。
……そんなことが有り得るのでしょうか?
話を聞いたときも意味がわからなかったのですが、こうして日記を書いていても、やっぱり意味がわかりません。
この事実も、パーカー様に急いで報告しないといけないでしょう。
そう思っていたのですが……。アラベス様のお話で、それどころではなくなってしまいました。
話は逸れますが……。
これまで、ユーニス様やアラベス様とは城に来たお客様と使用人と言う関係でしたが、今日からはソウタ様をサポートするメンバーとして、同じ立場になりました。……なったはずです。
ですから、呼び方も変えないといけないのでしょうが……。慣れるまではこのままで、許してもらいましょう。
アラベス様の話は、バラギアン王国のガーディアンが動き出したというものでした。ガーディアンについて詳しくは知りませんが、とにかく大変なことが起きているようです。
話を聞いた結果、明日は朝からトパーズさんに乗って、バラギアン王国に行くことになりました。
……トパーズさんはスズメですよね? 乗っていくとは?
私には理解できなかったのですが、他の三人が納得していたので、これで大丈夫なのでしょう。
その後は、夕飯の給仕からお休みになる支度まで、ソウタ様の専属メイドとしての仕事をこなしました。
慣れた仕事をしていると、心が落ち着きますね。
お肉のおかわりをおねだりするルビィさんが、とても可愛かったです。
ソウタ様が寝付くのを見届けた後で、今日の出来事をパーカー様に報告しようと思っていたのですが、その前にユーニス様に呼び出されました。
長かった話をまとめると、ユーニス様の代わりに、ソウタ様の護衛としてバラギアン王国に行って欲しいということでした。
元々、私もついていくつもりだったので問題ありません。
そこは問題ないのですが、思っていたよりも時間がかかってしまいました。
パーカー様への報告は、明日以降にしましょう。
ここまで、読み返してみたのですが……。一日分の日記としては、少し長すぎるのではないでしょうか?
今日はたまたま、いくつもの出来事が重なっただけ……ですよね?