2 魔法の特訓(基本編)
僕の代わりに魔法を使ってくれるゴーレムが完成した。
あとは、ちゃんと魔法が使えるかどうか確認を——
「ふにゃあ〜……?」
微妙に疲れたような顔で、こっちを見ているルビィと目があった。
ルビィに魔法を使ってもらって、それをリンドウに覚えさせようかと思ったんだけど……。猫の鳴き声で魔法を覚えてもらうのは、何か違う気がする。
ここは、ユーニスに頼むのが無難かな?
指輪を作るのに、思ってたよりも時間がかかったようだ。
余った粘土を片付けていたところに、マイヤーが昼食の準備が出来たと呼びに来た。ショートカットのメイドさんによると、昼食は城のダイニングルームで食べるのがおすすめらしいので、僕も素直にそうすることにした。
食べる時間が違うのかな? 城主のマルーンの姿はなかったけど、ユーニスやアラベスと話をしながら軽い食事。
食後のコーヒーを飲みながら魔法を教えて欲しいって頼むと、ユーニスはあっさり引き受けてくれた。
☆
城の一階にある、剣や魔法の訓練をするための部屋。
壁際の棚には木製の武器が何本も並んでいて、木で作られた人間と同じぐらいのサイズの人形が、何体も床に固定されている。
昼からはこの部屋で、ユーニスから魔法を教えてもらうことになった。
マイヤーも魔法が使えるので、一緒に教えてくれるそうだ。
何か用事ができたそうで、アラベスは不参加。
ルビィやトパーズには部屋で留守番してもらってる。
「体内に溜めた魔力を使って、頭の中にあるイメージを現実にする……。これが魔法の基本です」
誰かに魔法を教えたことがあるのかな?
女教師っぽい雰囲気が、不思議なほどユーニスに似合ってる。
「魔法に慣れてない人間には発動を補助する道具が必要ですが、エルフや魔族などの魔法を得意とする種族は、最初から道具無しで魔法が使えます。マイヤーも魔法で苦労したことはないでしょう?」
「はい。基本的な魔法はすぐに使えるようになりました。賢者であるユーニス様と比べると、まだまだですが……」
そう言えば……。昨日、いつの間にかお茶の準備が整ってたのも、何かの魔法なのかな? いつか、機会があったら聞いてみよう。
「全く魔法が使えない人の場合、まずは魔力の操作から慣れてもらうことになるんですけど……。ソウタさんはゴーレムを作れるんですよね?」
「あっ、はい。そうですね」
あれも、魔法を使ってる内に入るのかな?
僕がゴーレムを作れるのは、白い粘土のおかげだと思うけど……。
「ルビィさんやトパーズさんを変身させましたし……。自覚がないのかもしれないですが、ソウタさんはもう、魔法を使ってると思いますよ」
「……そうなんですか?」
「はい。あとは、イメージを現実にする方法に慣れるだけで、他の魔法も使えるようになるはずです」
ユーニスの横に立っているマイヤーが、何度も頷いている。
指導に口を挟むことはないが、考えていることは同じようだ。
……いまさらだけど、訓練場にメイド服は違和感があるな。
「イメージを現実にする方法ですが……。ソウタさんの場合、形から入るのが早いかもしれませんね。私がお手本を見せますから、真似してもらえますか?」
「わかりました。やってみます」
「まずは基本的な魔法から……。ライト!」
ユーニスが腕をさっと伸ばし、広げた手の平を部屋の奥へと向ける。
短い呪文が聞こえてくるのと同時に、何もない空間が急に明るくなった。
前にルビィが足元を照らしてくれたのは、この呪文かな?
「これが辺りを照らす魔法です。普通に唱えるとこのサイズ……半径五メートルぐらいでしょうか? 六時間ぐらい、この明るさが続きます。もっと広い範囲を長時間光らせたりもできますが、その話は応用編ですね」
よくわからないけど、身振りも大事なのかな?
いや、イメージを現実にするのが基本だって言ってたっけ。
つまり、最終的なイメージさえしっかりしてれば、呪文だけで良いような気がするけど……。ここは素直に、ユーニスの真似をしておこう。
「ソウタさんもやってみて下さい」
「はい……。ライト!」
同じように腕を伸ばし、光が届いていない部屋の隅へと手を向ける。
呪文を唱えるのと同時に、指に填めている指輪がキラリと光り、部屋全体が一気に明るくなった。
「……ソウタさん? これはちょっと、やり過ぎですね」
「すっ、すみません! 慣れてないもので……」
ユーニスのお手本と同じようにしたつもりなのに、隅から隅まで、部屋全体が明るくなってしまった。
魔法は効果を発揮したようだけど、魔力を使った気がしない。
今のはたぶん、僕の代わりにリンドウがやったんじゃないかな?
範囲が広くなったのは、リンドウもまだ魔法に慣れてないから……?
「ライトのように一定の時間効果が続く魔法は、発動した本人であれば、いつでも消すことができます。こんな風に……ディスペル!」
ユーニスが呪文を唱えると、部屋の一部だけ明るさが和らいだ。
「僕もやってみますね。……ディスペル!」
軽く声をかけただけで、部屋全体が元の明るさに戻った。
「他の人がかけた魔法を消すときは、相手が発動に使った魔力を上回る必要があるので大変だったりします。覚えておいて下さいね」
「はい、わかりました」
「ソウタさんはもう、普通に魔法が使えるようですね。魔力にはまだ、余裕がありますか? 身体の奥の方で、疲れた感じがしませんか?」
「魔力は……ん〜……。よくわからないです」
少なくとも自分の中では、何も変わってないような……。
右手の指輪をじっと見つめると、紫水晶の奥で動いている輝点が、前より速くなってるような気がしてきた。
魔法を使えるのが嬉しいのかな?