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伝説の英雄に召喚されたゴーレムマスターの伝説  作者: 三月 北斗
第五章 バラギアン王国 城塞都市解放戦
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1 魔法の指輪/リンドウ

「何か作りたい……」

 目が覚めた瞬間、勝手に口から言葉が漏れた。

 僕を召喚した人に会うためにベレス村を出発して、一週間ちょっと。

 オニキスを造ってからだと、二週間以上も何も作ってない。まともに粘土に触ったのは、勾玉に革紐を付けた時が最後かな?

 ユーニスやアラベスと旅をしてた間は気にする暇も無かったけど、暖房の効いた部屋でゆっくり眠って、作りたい欲が目を覚ましたようだ。

 何か作りたいんだけど……何を作ろうかな?


「ふにゃあぁ〜……」

「おはよう、ルビィ」

 見知らぬ天井を眺めていると、横からルビィが顔を覗き込んできた。

 至近距離から見ると、長い眉毛と髭が綺麗だなぁ。

「ピゥピゥ! ピピピピ」

「トパーズは朝から元気だね」

 スズメサイズのトパーズが飛んできて、僕の胸元に止まった。

 寝返りを打って潰すと危ないから、丸めたタオルをテーブルの上に出してやったんだけど……問題なく眠れたみたいだ。


 ——コンッ! コンッ! コンッ!

「はーい!」

 相棒たちの顔を観察していると、ノックの音が聞こえてきた。

 反射的に返事をして、慌てて上半身を起こす。厚手の毛布がずり落ちるのより早く、トパーズがどこかへ飛んでいく。

 奥の扉から寝室に入ってきたのは、メイド服姿のマイヤーだった。

「おはようございます、ソウタ様」

「おっ、おはようございます。マイヤーさん」

 思い出した……。

 昨日、僕を召喚したマルーンの城に到着して、いろいろ話をして、新しい家の準備が整うまで泊まることになったんだっけ。

 用意された部屋のベッドは寝心地が最高で、貴族にでもなったような気分でぐっすり眠ってしまった。

「本日からソウタ様の専属として、身の回りのお世話をさせていただくことになりました。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 こんなに可愛いメイドさんにお世話してもらうなんて、なんだか申し訳ない気もするけど……。マルーンから言い出したことだし、断るのも変だよね?

「朝食の準備が出来てますが、どちらで食べられますか?」

「えーっと……。どうするのがおすすめなのか、教えてもらえますか? こんなに立派な城に泊まるのは、初めてなので」

 どちらで食べるかと聞かれても、選択肢がわからない。

 そもそも、今さっき起きたばかりで、まだ顔も洗ってない。

 ヘッドドレスまで完璧に決まっているマイヤーと比べると、起きたばかりの自分がちょっと恥ずかしくなってきたんですけど……。


         ☆


 本来の雇い主である、マルーンの客だからかな?

 何も知らない僕に、マイヤーは丁寧に説明してくれた。


 まずはバスルームで熱めのシャワーを浴びる。

 寝汗を流してさっぱりしてから、バスローブを着て朝食を取る。

 朝食はリビングルームのテーブルで食べるのがおすすめだけど、ベッドルームのテーブルまで運ばせても良いし、ベッドで食べても良いらしい。

 食後のコーヒーまで飲んで落ち着いたところで、普段着に着替える。

 ちなみに、汚れた服は脱衣所のカゴに入れておけば、いつでも魔法で洗ってくれるそうだ。

 昨日の夜、パジャマに着替えたあとで置きっぱなしにしていた服も、朝には綺麗に洗われて丁寧に畳んであった。

 ……本当にもう、至れり尽くせりって感じ?

 こんな生活には慣れてないので、言われたとおりに動いてただけで朝から疲れてしまった。

 服を魔法で綺麗にしてくれるサービスは途中の宿屋でもあったから、この世界では普通なのかもしれないけど……。

 もちろん、朝ご飯も美味しかったです。


「何かご用がありましたら、ベルを鳴らしてお呼び下さい」

 そう言ってマイヤーは、静かに部屋を出て行った。

 用事があるときはテーブルに置いてあるベルを鳴らせば、誰かが部屋まで来てくれるらしい。

 一人になって、落ち着いたところで部屋を見ますと……。こんなに広い部屋に僕が一人で泊まって良いの?

 家具も内装もすごく豪華で、リビングルームにベッドルームにトイレにバスルームまでついてるって、高級ホテルのスイートルームかな?

 ディナーで出されたワインが美味しくて、ついつい飲み過ぎて、昨日の夜は案内された部屋でそのまま寝ちゃったけど……。

 いまさら、狭い部屋に変えて欲しいって言うのもおかしいか。

「ルビィ。言わなくてもわかってると思うけど、家具で爪を研いだりしちゃ駄目だよ? トパーズも、傷を付けないように気を付けてね」

「にゃあ〜……」

「ピィピィ!」


 ソファに置きっぱなしになっていたリュックから白い粘土を出して、少しだけちぎり取る。

「ちょっと足りないかな?」

 僕がつぶやくのと同時に、つまんでいた粘土がもわっと膨らんだ。

「にゃあ……?」

「ちょっと、作りたい物ができたから……。ルビィとトパーズは、のんびりしててもらえる?」

「にゃあ!」

「ピィ!」


 目が覚めるのと同時に『何か造りたい』と思った。

 朝ご飯を食べている間に、何を作るのか決まっていた。

 右手の中指に填めているソーサラーリング。

 紫色の石が綺麗だし、魔法使い(ソーサーラー)なら魔法の発動に使えるらしいけど……微妙にサイズがあってない。

 ユーニスからは一日中つけておくように言われたけど、何度か落としそうになって危なかったんだよね。

 普通に考えると指輪を作るって簡単じゃないけど、白い粘土を使えば……。



 填めていた指輪を外して、デザインを参考にしながら作業を進める。

 まずはソファセットのローテーブルを使って、粘土をまっすぐ伸ばす。

 適当な長さで切り取って、ぐるっと丸めて指を通す部分を作る。

 余った粘土を使って石になる部分と作業用のヘラを作り、幾何学模様にカットされた石の形を再現する。

 指を通す部分はシンプルなデザインで、紫色の石が大きくて……。エンゲージリングっぽく見えるけど、填める指が違うから大丈夫かな?

 正確な石の種類はわからないけど、紫水晶で良いだろう。

 指先でそっと撫でただけで、白い粘土が綺麗な宝石に変わった。

 ヘラをうまく使って粘土の指輪に土台となる部分を作り、石が簡単に外れないようにしっかり止める。

 あとは、粘土の部分を銀に変えれば完成、っと。

 右手の中指を通すと大きかった指輪がすっと縮んで、ぴったり吸い付くぐらいのサイズになった。

 適当なサイズで作っても、あとから調整できるのは便利だね。


 これなら、落とす心配もなさそうだけど……。ちょっと待てよ。

 これってもしかして、本物の魔法の指輪に出来るんじゃないかな?

 発動を助けてくれるだけじゃなくて、いっそのこと、指輪が魔法を唱えてくれれば……。自分で魔法を覚えなくて済む?

 オニキスは勾玉の形になってもゴーレムなんだから、指輪の形をしたゴーレムがあってもおかしくないだろう。

 ずっと指輪の形は微妙かもしれないけど、オニキスと同じように成長するゴーレムなら……。人の姿に変化できるようになるとか?


 紫色のローブに紫色の尖った帽子。

 パッと頭に浮かんだ魔法使いのイメージは、指輪に嵌まっている紫水晶とぴったりだった。これで、(ほうき)に乗って空を飛んだら完璧だな。

 他の人が使っている魔法を見て、新しい魔法を覚える設定にして……。いろいろ考えている内に楽しくなってきたぞ。

 これはもう、ゴーレムにするしかないな。


「それじゃあ……。石像創造(クリエイトゴーレム)!」

「にゃああぁっ⁉」

「ピィイイッ⁉ ピピピピピ……」

 造ったばかりの指輪がピカッと光り、隣のソファでくつろいでいたルビィとトパーズから、びっくりしたような声が聞こえてくる。

 右手の中指に填めた指輪を見つめると、綺麗な紫水晶の奥で、白く輝く点が円を描くように動いていた。

「よし……。お前の名前はリンドウだよ。これから、よろしくね」

 ゆっくり動いていた輝点がキラリと光る。

 おじいちゃんの家で見た紫色の(つぼみ)を思い出して、そのまま名前にしたんだけど……。どうやら気に入ってもらえたようだ。

 ルビィとトパーズとオニキスがパワーストーン三姉妹で、ここからは花の名前を使うことにするかな。


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