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9 パーティ結成

「お嬢様……お嬢様……。他にも何か、ソウタ殿と話しておくべきことがあるのではないでしょうか?」

「えっ……? あっ、ああっ! もう少しで忘れるところだったわ」

 パーカーの声を受けて、ようやくマルーンの動きが止まった。

 自分を落ち着かせるように、優雅な手つきでゆっくりお茶を飲む。

 後継者の話はあっさり終わったのに、夢に出てきたお姉さんとどっちが綺麗かでこんなに盛り上がるなんて……。女の人が考えることは、世界が変わってもよくわからないな。


「ソウタ君が自分の意思でこちらの世界を選んだとしても、元はといえば、私が勝手に召喚したのが原因でしょう? 迷惑を掛けたのは事実だから……。謝罪を受け取って欲しいの」

「謝罪、ですか……?」

「知らない世界で、一人で生きていくのは大変でしょう? ある程度、まとまったお金を渡すのは当然として……。欲しい物とかやりたいこととか、何か希望はないかしら? 私に出来ることなら何でも良いわよ」

「それなら……。家が欲しいんですけど良いですか? ルビィやトパーズと一緒に暮らせるぐらいの広さで、近くに森があると嬉しいです」

 欲しい物と聞いた瞬間、頭に浮かんだのが家だった。

 土地や建物の相場とか保証人の話とか、こっちの世界だとどうなってるのかわからなかったんだよね。全部やってもらえると助かるんだけど……。

「では、ソウタ君にふさわしい、立派な家を用意しましょう。細かい要望はあとで聞くとして……。他には何かないかしら? 家の一軒ぐらいじゃ、私の謝罪したい気持ちは収まらないわよ」

「ええっ⁉ えーっと、それじゃあ……。僕でも出来そうな仕事を紹介してもらえませんか?」

 鉄爪熊(アイアンクローベア)のお金もあるし、しばらくは働かなくても生きていけそうだけど……。

 自分のことだからわかるけど、仕事ぐらいないと、ただの引きこもりになりそうなんだよね。

「仕事の話なら、冒険者ギルドに登録したんじゃないの? ユーニスの報告にそんな話があったと思うけど——」

「はい。ソウタさんは、ゴールドランクの魔法使い(ソーサーラー)として登録済みです」

 マルーンの疑問にユーニスが答えた。

「それなら問題ないわね。自慢じゃないけど、冒険者ギルドにはいろんな依頼が集まるから……。まずはその中から、出来そうな依頼を引き受けてみるのが良いんじゃない?」

「ソウタさんなら普通に依頼をこなすだけで、かなり稼げると思いますよ」

「あっ、はい。わかりました……」

 もうちょっと地味な仕事をイメージしてたんだけど……。マルーンは冒険者ギルドの創始者だっけ。

 ユーニスとアラベスは最高ランクの冒険者だし、この状況で仕事を紹介して欲しいって言ったら、こうなっちゃうか。


「ねぇ、他には? 他には何かないかしら? 権力をお望みなら、冒険者ギルドの力で国の一つや二つぐらい用意するし、財宝をお望みなら、前に古龍から巻き上げた財宝があるから全部——」

「いえいえ! そんな非常識な望みはないです‼」

 今のは軽い冗談だよね?

 どうしてマルーンは、残念そうな表情をしているの?

 このままだと、謝罪の名目でとんでもないことに巻き込まれそうだ。

「何か思いついたら、その時にお願いしますから……。今日は家だけで許してもらえませんか?」

「そんな、許すだなんて人聞きの悪い……。私はただ、ソウタ君に思いっきり謝罪したいだけなのに……」

「マルーン様。知らない世界で一人暮らしは何かと大変でしょうし、ソウタ殿のお世話をする人を、誰か付けるというのはどうでしょうか?」

 落ち込みそうになっていたマルーンを、アラベスがフォローした。

「それは良いアイデアね! では、私が自ら——」

「駄目です」

「やめて下さい」

「お嬢様!」

 部屋のあちこちから、いっせいに突っ込みが入った。

 マルーンは頬を膨らませてるけど……なんだか嬉しそう?

 こういうやりとりが好きなのかな?


「ソウタ殿の一番弟子である私に、その役目をお任せください。私なら、剣と魔法の力でソウタ殿をお守りできます!」

「一番弟子って……。あなたはまだ、弟子入りを許可されてないでしょ」

 勢いよく立ち上がったアラベスに、ユーニスが突っ込みを入れる。

 ユーニスもなんだか楽しそう? 気のせいかな?

「マルーン様。私は異世界人に詳しいですし、賢者としての知識もソウタさんのお役に立てると思います。お供の役目は私に任せてください」

「う〜ん……そうねぇ……。どちらがソウタ君にふさわしいか……」

 アラベスに続いてユーニスも立候補したようだけど……。こういう時、僕の意見は必要ないのかな?

 いつの間にか、就職活動のグループ面接みたいな雰囲気になってる気がするんですけど……。マルーンが面接官役なの?

「それでは、二人ともソウタ君に付けましょう。この二人がいれば、ギルドの依頼を受けるのも楽になるでしょうし。あとは……日常生活のサポートに、もう一人ぐらい欲しいわね」

「お嬢様。その役目はマイヤーにお任せください」

 パーカーの言葉にあわせて、壁際に立っていたショートカットのメイドがすっと前に出て、丁寧にお辞儀をした。

 さっき、僕の荷物を預かってくれたメイドさんだな。

「マイヤーなら掃除や洗濯などの家事を任せられますし、料理は城の料理人に負けないぐらい上手です。冒険に出るときも、足を引っ張るようなことはないと思われます」

 さりげなく様子をうかがうと、マイヤーはにっこり微笑んでくれた。

 さっき会ったばっかりで、まだ一言もしゃべってないけど……嫌われてはなさそうだ。


「そうですね。マイヤーなら大丈夫でしょう。それでは……ユーニス! アラベス! マイヤー!」

「「「はっ!」」」

「あなたたち三人に、ソウタ君を任せます。私の代わりだと思って、しっかりお世話するように。……良いですね? ソウタ君」

「あっ、はい……。皆さん、よろしくお願いします」

 ユーニスやアラベスとはここまで旅をして、普通に話が出来るようになったと思うし、マイヤーも可愛いし……問題ないだろう。たぶん。

 そもそも、ここで断るような勇気は僕にはないです……。

「こちらこそ、よろしくお願いします。ソウタさん」

「どんな強敵からも、ソウタ殿をお守りします!」

「身の回りのことは、全て私にお任せください。ソウタ様」


「にゃーにゃー!」

「ピィピィ!」

 もしかして、対抗してるのかな?

 隣のテーブルからルビィとトパーズが、こっちを睨んでいる。

「四人パーティ……。あと一人ぐらい混ざっても大丈夫よね?」

 隣に座っているお嬢様のつぶやきが、不思議なほど大きく聞こえた。



「ねぇ、マイヤー。これから、長い付き合いになりそうだし、ソウタさんに詳しい自己紹介をしてもらえないかしら?」

 話が落ち着いたタイミングで、ユーニスがマイヤーに声を掛けた。

「詳しい、ですか……?」

「ソウタさんはこちらの世界に来たばかりで、種族の話とか冒険者ギルドでの職業の扱いとか、わからないことが多いそうなの。だから……ねっ?」

「そういうことですか。では……」

 ショートカットのメイドがテーブルの周りをぐるっと回って、僕のすぐ横まで歩いて来る。

 歩き方も練習するのかな? ゆっくり歩いている訳じゃないのに、スカートの裾が乱れるそぶりもない。

「はじめまして、ソウタ様。マイヤー・メイフィールドと申します。種族は悪魔族で職業はメイドです。家事は一通りこなせますが、その中でも料理を得意としています。何か食べたい料理がございましたら、いつでも申し付け下さい」

 スカートの裾をつまんで膝を軽く曲げて、マイヤーが優雅なお辞儀をした。

 光沢が美しい瑠璃色の髪。金色の瞳。淡いピンク色の唇。

 髪が短いところも良く似てるし、アラベスを若くした感じかな? 姉妹って言われても違和感ないかも。

 種族が違うし、血のつながりがある訳じゃ無いだろうけど……。

「異世界から来ました、天城(あまぎ)創多(そうた)です。それで、えっと……。悪魔族について教えてもらっても良いですか?」


 悪魔族は魔族と良く似た種族で、羽と尻尾があるのが特徴らしい。

 肉体的な丈夫さでは魔族に負けるが魔法は同じぐらい使えて、寿命は魔族よりも長い。人によっては角が生えてたり、牙が発達していたりもするそうだ。


「いつもは魔法で見えなくしてるんですが……。んふぅ……」

 ピンクの唇から、艶っぽいため息が漏れる。

 次の瞬間、マイヤーの背中に黒い翼が現れた。

 折りたたんだ状態だと、コウモリの羽を大きくした感じ?

 メイド服を着たままだけど……。どこから翼が出てるんだろう?

「これって……。飛べるんですか?」

「はい、飛べますよ」

 ファサッと音を立てて翼が広がり、優雅に大きく羽ばたいた。

 メイド服に包まれた身体がふわりと上昇し、柔らかい風が頬を撫でる。

「うわあぁぁ……。すごいですね……」

「もちろん、尻尾もあります……。んっ……」

 スカートの裾から伸びてきた尻尾は、先端がスペードの形だった。

 あまり他人には見せない姿なのかな? 頬が赤くなっている。

 この形の尻尾も可愛いなぁ——


「にゃあっ!」

「ピィピィ!」

「うわっ! ちょっと、ルビィ……。って、トパーズまで⁉」

 マイヤーの尻尾に見とれてたのがバレた?

 隣のテーブルに居たルビィが、いきなり胸に飛びついてきた。

 トパーズも勢いよく飛んできて、クチバシで頬を突っついてくる。

「ごめんって。あとで一緒に遊ぶから、ルビィもトパーズも怒らないで……」

「ルビィさんとトパーズさんですね。私の名前はマイヤーです。これから、よろしくお願いします」

 僕のアゴに白猫のパンチが入るのを、みんな温かい目で見守っていた。


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