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7 伝説の英雄

「お騒がせしました。どうぞ、お話をお続け下さい」

 涙が止まったのを確認して、パーカーがすっと段から降りた。

 マルーンの目元がほんのり赤くなっていて、なんだか可愛く見える。

 妖しい森の奥に住んでいて、冒険者ギルドの偉い人で、すごく大きくて、でも可愛くて……。こんな人がどうして、僕なんかを召喚したんだろう?

 それも、涙を流すほど会いたかったって……。


「それじゃあ……。僕から質問させてもらっても良いですか? あ、いや。よろしいですか?」

「そんなに気を使わないで。ソウタ君はお客様なんだから、もっと砕けた言葉で良いのよ」

 穏やかな表情に戻ったマルーンから、軽い突っ込みが入る。

 口調が元に戻ったのは、僕が気を使わなくても良いように、気を使ってくれたのかな? こっちが素なだけのような気もするけど。

「でも、それは……」

「私からもお願いするから、マルーン様の言うとおりにしてあげて」

 僕の方を見ながら、ユーニスがにっこり微笑んでいる。

 パーカーは何とも言えないような複雑な表情を浮かべているけど、小さく縦に首を振ってくれた。

「あの、それじゃあ……。マルーンさん」

「なんでしょう? ソウタ君」

 普通に声を掛けただけで、マルーンは嬉しそうに微笑んでくれた。

 高校に入学して自分のクラスが決まって、隣の席の人と初めて会話したときのような感覚。第一印象はバッチリ?

「どうして僕なんかを召喚したんですか? 自分でも考えてみたんですけど、理由がわからなくて……」

「そっ、それは……。悪いけど、ちょっと待っててもらえる?」

「あっ、はい。わかりました」


「ちょっと! ユーニスもアラベスも、ソウタ君に説明してないの? 時間はたっぷりあったでしょう?」

「私たちの上司に召喚されたんだろう……という話はしました。ですが、マルーン様に関する話は、どこまで説明して良いのか判断できなかったので」

「おそらく間違いないだろうとは思いましたが、無関係な異世界人である可能性も残っていましたから」

 ユーニスもアラベスも声は真剣だけど、表情は微妙に緩んでない?

 もしかして、マルーンが困ってるのを楽しんでる?

 上司と部下って関係だけじゃ無くて、三人とも本当に仲が良いようだ。

「つまり、詳しい説明はこれからってことね」

「はい、そうです」

「マルーン様にお任せします」

「もう、あなたたちったら……。パーカー! 任せたわよ」

「了解しました」


         ☆


 今から八百年ほど昔。国ごとに別々の年号が使われていた時代。

 魔族の国と人間の国の間で起こった争いが周囲の国々を巻き込んで、後の世に『人魔大戦』と呼ばれる戦争がはじまった。

 激しい争いが起きては沈静化し、沈静化しては再び争う。

 長く不毛な争いに嫌気がさした賢者の呼びかけに応じて、六つの種族から力を持つ七人が集まった。


 魔力に優れた魔族の少女。

 強い意志を持つ人間の王。

 強靱な肉体を持つ巨人族の姫。

 伝説の技術を受け継いだドワーフ。

 長い寿命を誇るハイエルフの生き残り。

 大陸の歴史を始まりから見ていたエント。

 その当時、最強と言われていた戦士の少年。


 賢者は七人の優れた力を祝福に変えて一人の身体に集め、真に最強となる勇者を生み出した。

 長く続いた戦争を、勇者はたった一年で終結させる。

 大陸全土で『英雄歴』が使われるようになり、勇者は人々から『伝説の英雄』と呼ばれるようになった。


「ソウタ様。お茶の用意が出来ましたので、こちらにどうぞ」

「えっ⁉ あっ、あれっ? いつの間に……」

 パーカーの話を聞いてたら、背後から声を掛けられた。

 ビクッとなってしまったのをごまかしながら振り返ると、そこには丸いテーブルと椅子のセットが置いてあり、ショートカットのメイドが椅子を引いて、僕が座るのを待っていた。

 これって、どこから出てきたの? さっきまで無かったよね?

 それらしい物音なんて聞こえなかったけど……。一流のメイドなら、これぐらい余裕なの? 魔法で出せるようになってるとか?

「荷物をお預かりします」

「あっ、はい。ありがとうございます」

 気になるところが山ほどあるけど……。背負ったままになっていたリュックをメイドに預けて、素直に席に着いた。

 こういう状況に慣れているのか、ユーニスとアラベスは空いている席を選んでそれぞれ勝手に座っている。


「お茶をお入れしますね」

 白いティーカップとソーサーのセット。ガラス製のティーポット。

 眼鏡を掛けたメイドが、優雅な手つきで温かい紅茶を入れてくれる。

「あの時は大変だったわね……。戦争を終わらせて欲しいって言うだけで、どうやれば良いのかは教えてくれないんだもの。仕方がないから、偉い人を片っ端から誘拐——じゃなくて。丁寧に呼び出して、説得して……」

 メイド服の細かい作りをこっそり観察していると、すぐ近くからマルーンの声が聞こえてくる。

 慌てて左を向くと、マルーンが僕の横に座っていた。

 ……あれ? さっきまで、段の上の椅子に座ってたよね?

 いつの間に移動したの? 一人だけ座る位置が低い椅子に座ってるけど、その椅子はどこから出てきたの?

「戦争が終わった後も、いろいろと大変で……。荒れている地方に効率よく人を送り込むために、冒険者ギルドを作ったんですよね? ギルドの古い資料で読みました」

 ユーニスは何事もなかったみたいに会話を続けてるし、アラベスは優雅にお茶を飲んでるし。この城では、これぐらい普通なのかな?


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