4 トパーズの活躍(後編)
「それじゃあ、ユーニスさんとアラベスさんも乗ってください。あっ、そこに置いてある僕の荷物も持ってきてもらえますか?」
「私たちまで乗せてもらって、本当に大丈夫でしょうか……?」
「三人も乗るのはさすがに無理が——」
「ピーゥピーゥ!」
「トパーズも大丈夫だって言ってますから。このまま、目的地まで乗せてもらいましょう」
いきなりルビィがジャンプして、トパーズの背中へと上がってきた。
そのままいつものように、僕の胸へと飛び込んでくる。
ユーニスもアラベスも、高いところが苦手なのかな?
二人とも何かに怯えるような表情で考え込んでいたけど、最後は吹っ切れたような表情になって、トパーズの背中に上がってきた。
危険な森を歩いて抜けるより、こっちの方が安全じゃないかなぁ……?
「この世界では、鳥に乗って移動するのは珍しいんですか?」
「長く生きてきたつもりですが……。鳥に乗るのは初めてです」
「竜に乗って戦う、竜騎士と呼ばれる人ならいますが——」
「ピーゥ‼ ピーゥピーゥ!」
出発が待ちきれなかったのかな?
まだ話をしている途中でトパーズはいきなり翼を羽ばたかせ、僕たちを背中に乗せたまま、ふわりと舞い上がった。
ゆっくり羽を動かしてるようにしか見えないのに、大鷲は勢いよく加速して、徐々に高度を増していく。
それほど風が強くないのは、トパーズが魔法でガードしてくれてるのかな?
「ひゃあんっ! んっ、んんんー……」
「眺めも素晴らしいし……。これはすごいな」
僕の左に座っているユーニスは下を見るのがイヤなのか、目を閉じたまま、しっかりロープを握っている。
右に座っているアラベスは対照的に、身を乗り出しそうな勢いで、空からの眺めを楽しんでいた。
こっそり僕も目を閉じて、トパーズの見ている景色を一緒に楽しむ。
葉が黒っぽい紫の木。葉がくすんだ黄色い木。普通の緑の木。
上空から見ると妖魔の森は、生えている木も雰囲気も、場所によって大きく違うようだ。
ツタが絡みついた遺跡があったりして、興味を惹かれるけど……。そんなことを気にしてる場合じゃないか。
「どこに行けば良いか、教えてもらえますか?」
「まずは、まっすぐ北へ飛んで……。山を越えたところで北東に向きを変えてください。そこだけ冬になってるから、すぐにわかると思います」
ユーニスは高いところが苦手なのかな?
いつもなら、エルフのお姉さんが行き先を教えてくれるんだけど、今回はアラベスが指示を出してくれた。
「そこだけ冬……? とにかく、言われたとおりに飛んでもらいますね」
「ピーゥピーゥ!」
コンパスを持ってない状態で方角を言われても、僕にはわからなかったけど、トパーズにはちゃんと通じたようだ。
微妙に身体を傾けてコースを変え、優雅に飛び続ける。
低い山を越えたところで再び向きを変えると、深い森の奥に、一カ所だけ白くなっている場所があった。
広さも形も、陸上競技のトラックぐらい? もう少し広いかな?
大きな城を中心に、高い壁が周囲を取り囲んでいる。
周りには妖しい樹木が密集しているのに、壁の内側は平地になっていて、そこだけ雪が積もっていた。
「あれです! あれが、私たちの上司が住んでいる城です。いきなり中に入ると怒られるので、壁の前で降ろしてください」
「わかりました。頼んだよ、トパーズ」
「ピーゥ!」
☆
壁の手前にあるちょっとしたスペースに、トパーズはふわりと着地した。
アラベスから順番に大鷲の背中を下り、オニキスには勾玉に戻ってもらう。
トパーズは……どうしよう?
このサイズのまま連れて行くのは、さすがに無理がありそうだ。
「トパーズ、元のサイズに戻れる?」
「ピーゥ!」
軽く鳴いたかと思うと見上げるほど大きかった鷲の身体がすーっと縮み、僕が造ったときと同じサイズに戻った。
これならなんとか……。いや、待てよ。
一緒に城に入るんなら、もう少し小さい方が楽なんじゃないかな?
「トパーズ、小さくなれ!」
「ピィ? ピピピピピ」
トパーズに手をかざして頭に浮かんだキーワードを唱えると、大鷲の身体が勢いよく縮み、小さくて可愛い姿に変わった。
小鳥サイズの身体を確かめるように、トパーズは翼を羽ばたかせ、視線をキョロキョロ動かしている。
クチバシの色まで変わってるし……どこからどう見てもスズメだよね?
ルビィも大きくなると豹の姿になるし、そういうものなのかな?
「これなら、どこでも一緒に行けるね」
「ピィ!」
「にゃあっ!」
すっと飛び上がったトパーズが、僕の肩にちょこんと止まる。
胸に抱っこされたまま、ルビィが嬉しそうに鳴いた。