3 トパーズの活躍(前編)
トパーズの暴走についてユーニスに相談した結果、村はずれの空き地で到着を待つことになった。
その間、戻ってきたアラベスに、いろいろな話を聞かせてもらった。
この村はゲートを安全に使えるようにするために、複数のギルドが協力して建設している途中だということ。ここ数年、妖魔の森でも南の方は勢力争いが落ち着いて、それほど強くない魔物しか居なくなっていること。逆に北の方は、凶悪な魔物が集まりつつあるので気をつけた方が良いこと。
リザードマン、ミノタウロス、ケンタウロスとは協定が結ばれたので、森で見かけても一方的に襲ったりしないこと。
僕は最後まで話を聞いてたけどユーニスは知ってる情報だったのか、途中から猫じゃらしみたいな草を採ってきて、ルビィと遊んでいた。
緊張してるのは僕だけなんだろうか?
ルビィはともかくとして、ユーニスもアラベスもすごく余裕があるように見えるんだけど。
魔物がいる森を何日も進むって……危ないのでは?
ベテラン冒険者に任せておけば大丈夫なのかな?
こっそり心配していると、南の空に小さな点が見えてきた。
「あっ、あれかな?」
「ピーゥ! ピーゥピーゥ……」
僕が見つけたのと同時にトパーズもこっちに気が付いたようで、鋭い鳴き声が耳へと届いた。
茶色い点のように見えていた大鷲が、みるみるうちに大きくなる。
「あれっ? トパーズって、こんなに大きかったっけ? それとも、僕の目がおかしくなったのかな……」
「ソ、ソウタさん? ルビィさんだけじゃなくてトパーズさんも変身できるんですか? 聞いてないですよ」
「あれは……まさか、ロック鳥? 絶滅したと聞いていたが……。ソウタ殿は伝説の存在まで使役できるのか……」
すごい勢いで飛んできたトパーズが大きく羽を広げて急停止し、ふわっと優雅に舞い降りた。
顔を見上げてるだけで、首が痛くなるほど大きい。
巨人サイズになったオニキスと同じぐらい?
いつの間にトパーズも、変身できるようになったの?
「うわっ! ちょっとトパーズ! 危ないから……ん〜……」
いきなりトパーズがお辞儀をして、僕の胸に頭を擦り付けてきた。
軽く押されただけで後ろに倒れそうになるが、巨大なクチバシを両手で抱えてなんとか耐える。
一瞬、そのまま咥えられて、丸呑みされるんじゃないかと思ったよ……。
「ピーゥピーゥ……。クークークー」
「うんうん。一人だけ置いて行かれて、寂しかったんだね。ごめんよ」
手を伸ばして頭を優しく撫でてやると、まるで、産まれたばかりの雛のような可愛い声が返ってきた。
「それじゃあ、ここからはトパーズも一緒に行こうか。森を抜けるのに何日かかけるらしいけど——えっ? 背中に乗って欲しいって……本気?」
「ピーゥ‼ ピーゥピーゥ!」
余裕のあるところを見せたかったのかな?
トパーズが軽く羽ばたいただけで、横に居たユーニスやアラベスが飛ばされそうになっている。
「これだけ大きかったら、三人ぐらい余裕で乗れそうだけど……。捕まるところもないし、危ないでしょ? そこも考えてあるの? いつの間に? オニキスが持ってる革紐を使って……? あー、なるほど。それなら大丈夫かな」
僕と一緒に旅をしたいという一心で、トパーズは人を乗せる方法を考えていたらしい。その勢いで、身体まで大きくなったようだ。
……元のサイズに戻れるのかな? あとで確認しないと。
「それじゃあ……。オニキス!」
軽く引っ張って革紐を首から外し、服の中に入れていた勾玉を出す。
漆黒の勾玉に声をかけると、人形サイズのオニキスが目の前に現れた。
「オニキスに頼みたいことがあるんだけど——えっ? 話は聞いてたから大丈夫だって?」
「ピーゥピーゥ!」
軽く一鳴きしたトパーズがゆっくり後退りして、くるっと後ろを向いた。
羽の一枚一枚が、畳と同じぐらい大きいって……すごいな!
地面に触れるギリギリまで下がっていた尾羽を、オニキスがゆっくり上がっていく。背中の真ん中辺りに着いたところで、オニキスは両腕に絡んでいた革紐を前へと伸ばし、トパーズの首にぐるっと巻き付けた。
革紐と言うよりロープぐらいの太さになってるけど、そこもオニキスが自由に操作できるのかな?
首が絞まりそうで見てて不安になるけど……。このアイデアを出したのはトパーズだし、たぶん大丈夫なんだろう。
「僕も背中に乗るけど……。重いようだったらちゃんと言うんだよ?」
「ピーゥ!」
ダイヤモンドランクの冒険者二人が僕の横で、心配しているような興奮しているような、不思議な表情を浮かべている。
ゆっくり足を出して、そのままトパーズの尾羽に足を掛ける。ふかふかの絨毯のような感触が気持ちいい。
両足とも乗った瞬間、まるでトラックの昇降機のように尾羽の先が滑らかに上昇し、水平になったところで止まった。
「うわっ! びっくりした、けど……。歩きやすいようにしてくれたのか」
「ピーゥ! ピーゥピーゥ」
トパーズの背中をゆっくり進み、オニキスのすぐ後ろに座る。
羽を畳んでても四畳半ぐらいの広さがある? もっと広いかも。
まだまだ余裕がありそうだし、これなら三人乗っても大丈夫かな?
オニキスの身体やロープに掴まっていれば、落ちることはないだろう。
何故か急に、ずいぶん前に小説で読んだ、鷲に運んでもらった魔法使いの話を思い出した。