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1 ゲートの先

 転送用のゲートと聞いて、部屋の床に大きな魔方陣が描いてあって、そこに乗ったら視界がぐにゃ〜っと歪んで、遠くの魔方陣に飛ばされるような物を想像していたんだけど……この世界のゲートは全然違った。

「輪っかの内側だけ景色が違う……。あれがゲートですか?」

「そうです。初めて見るとびっくりするでしょう?」

 巨大なドーナッツを縦にして、地面に無理矢理差し込んだような形。

 内側の穴は馬車が三台並んで通れるぐらい大きくて、そこだけ、明らかに回りとは違う景色が見えている。

 僕は一人でびっくりしていたけど、横を歩いているユーニスやアラベスには見慣れた光景のようだ。抱っこしているルビィも落ち着いてるように感じるのは気のせいかな?

「こっちの空は晴れてるのに、向こうは曇ってて……。本当に、離れた場所と繋がってるんですね」

「今、見えているところが、私たちの目的地ですよ。一日も待たずにゲートが使えるなんて、運が良かったですね」


 朝早くに首都を出て、ゲートの近くにある街まで馬車で移動。

 軽い昼食を済ませた僕たちは、徒歩でゲートへと向かっていた。

「あそこの建物で、国境を通るときと同じチェックが行われます。特に問題がなければ、あとはゲートを通るだけで遠くの国へ……。便利でしょう?」

 ゲートの周りは綺麗に整地されていて、手前にある頑丈そうな建物と、その横からぐるっとゲートを取り囲むように作られた壁ぐらいしか見当たらない。

 安全対策なのかな? 壁が低いのが気になるけど。

「便利だと思うんですが……。ゲートを使う人は、あまり多くないんですか?」

 後ろを振り返ってみるが、僕たちの他に人の姿はない。

 四角い建物の前で冒険者らしい一行が手続きをしているが、他にはゲートを使いそうな人は見つからなかった。

 本当に便利なんだったら、もっと大勢の人がいても良いのでは?

 元の世界で考えたら、国際空港みたいな施設かと思ったんだけど……。

「ゲートは便利な分、それなりに使用料が高いですから。あとは単純に、今日繋がっている地方と交易してる人が少ないだけかと」

「今、ゲートの向こうに見えているのは、一般的にルナトキア王国跡地と呼ばれている地方です。現地を知っている冒険者の間では、『妖魔の森』と呼ばれる方が多いですが……」

 これから僕たちが行く地方について、二人が詳しく教えてくれた。


 ルナトキア王国跡地。

 遙か昔。ここにはエルフやドワーフやリザードマンやケンタウロスなど、多種多様な亜人が集まって作られた王国があった。

 しかし、魔族の争いから始まった戦争が大陸全土を襲ったとき、この地方も戦渦に巻き込まれ、種族間の争いに発展してしまう。

 ある種族は住み慣れた場所を捨てて他の地方に移住し、ある種族は同じ種族だけで集まって独自の国を作った。

 大きな戦争が終わっても、種族同士の争いはなかなか終結せず。

 いつしかこの地方は、『妖魔の森』と呼ばれる巨大な森を中心に、亜人による独立した国の集まりになっていた。


「治安が悪いところですから、普通の商人はあまり行かないんですよ。ここにしかない素材を集めに、冒険者が来る方が多いぐらいですね」

「何年か前にも、トロールキングに率いられたオークやゴブリンが妖魔の森から出てきて、他の国へと侵攻する事件があったぐらいで……。でも、ソウタ殿にはオニキスさんも居ますし、問題ないでしょう」

 警備隊らしき人が認識票や荷物をチェックしている間にも、嬉しくない情報がどんどん耳に飛び込んでくる。

 話を聞いただけで、帰りたくなってきたんだけど——

「にゃあっ!」

「ルビィも守ってくれるの? それは嬉しいけど……」

 胸に抱っこされたまま、ルビィは二本の尻尾を伸ばして、僕をからかうように首筋をくすぐってくる。

 厚い雲に覆われた空。錆びた鉄のようにも見える大地。

 遠くに見えている木々は葉が紫色で、枝や幹の部分は灰色だ。

 ルビィにも、ゲートの向こうの景色が見えてるはずだけど……。

 全然、心配してない? それどころか、機嫌が良くなってる?

 このところずっと、馬車で移動して宿屋に泊まってたから、あんな森でも歩けるのが楽しみなのかな? 治安が悪いのは気にならないんだろう。たぶん。


「それでは行きましょう。ソウタさん」

「あっ、はい」

 国境のチェックが無事に終わり、ゲートへ向けて歩き出す。

 近くで見ると、ゲートは硬そうな石で出来ていて、表面に複雑な文様がびっしり刻まれているのがよくわかった。

 ここが守備の要なんだろうか?

 全身を覆う鉄の鎧。刃の部分が鈍く光るハルバード。

 ゲートへと続く短い道は、横に重装備の兵士が何人も立っていたが、特に何も言われることはなかった。


「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」

「何かあったとしても、私たちがソウタ殿を守りますから」

 ダイヤモンドランクの冒険者二人に見守られながら、ゆっくり足を出してゲートに入る。薄い膜を通り抜けるような感触が肌を包む。

 次の瞬間、僕は遠くの国に着いたことを本能的に理解した。

「ここはもう、ルナトキア王国跡地……。妖魔の森の外れになります」

「あの建物で入国のチェックをします。こちらは形式的な物ですが」

 ゲートを抜けた先にも同じように、重装備の兵士が立っていたが、こちらも何か言われることはなかった。


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