7 召喚魔法
村長屋敷への帰り道をゆっくり歩きながら、ユーニスに召喚魔法について説明してもらった。
召喚魔法は『あらかじめ契約していた魔獣を召喚する』系統と、『種族を指定して召喚し、その場で契約を結ぶ』系統の二種類に分けられる。
契約と召喚が成立すれば、あとは術者の魔力と関係なく、対象を命令通りに動かせるのが特徴だが、強い魔獣と契約するのは難易度が高く、召喚そのものに大量の魔力が必要になるそうだ。
「今から八百年ほど昔……。人魔大戦と呼ばれる戦争が起きた時代までは、召喚魔法の使い手も数多くいました。しかし、戦争が終わって平和な時代が訪れてからは、召喚魔法そのものが廃れてしまって……。精霊を召喚する呪文が、一部の精霊使いに残ってるぐらいでしょうか」
「だとしたら、僕を召喚したのは……?」
「異世界から人間を召喚できるほど大量の魔力を備えていて、召喚魔法を高いレベルで使いこなせる術者となると……。思い当たるのは一人だけです」
「それって……。一人は居るんですね?」
話の流れを予想していたのか、横を歩いていたユーニスが僕の方を向いてにっこり微笑んだ。
「はい、そうです。もし、ソウタさんが本当に召喚されたのだとしたら、呼び寄せたのはその人で間違いないと思います」
「出来ることなら、その人と会わせてもらえませんか? こんなことをユーニスさんにお願いするのは、おかしいかもしれませんが……」
「クスッ……。その、召喚魔法に詳しい人も、ソウタさんと会いたいって言ってましたよ。あなたを招待するために、私はここに来ました」
「えっ? その言い方だと……。僕を召喚したのはユーニスさんのお知り合いなんですか?」
「知り合いというか……私とアラベスの上司です。冒険者ギルドの」
「それじゃあ、全部知っててここに来たんですか? 僕が居る場所とか、召喚された理由とか」
エルフのお姉さんの横顔が、微妙に曇った。
隣を歩いていたアラベスは、首を小さく横に振っている。
「いえ、それは違います。なぜなら……召喚魔法が使われたのは、十年も前の話ですから」
今から十年前。
魔力の消費を抑える魔方陣と、長年にわたって溜めていた魔力を使って、異世界人を召喚する儀式が行われた。
そこで、召喚魔法は確実に発動したのに、魔方陣の描かれた祭壇には誰も現れなかった。
世界をまたいでの召喚で出現位置がずれた可能性を考慮して、召喚者は冒険者ギルドに調査を依頼。
大陸の隅々まで探したが、新たな異世界人は見つからなかった。
「キアラから連絡が入って、すぐに気が付きました。十年前に召喚された人じゃないかって」
「そんなことがあったんですね……」
今の話が本当だとして、僕が召喚されてからこの世界に着くまでに、十年もかかったのか。
……まさか、夢の世界で綺麗なお姉さんとお話ししてたから?
異世界に行くって決めたあとも、ついつい長話をしちゃったし……ありえそうだなぁ。
「本当のところは、まだわかりません。私が知らないだけで、他にも召喚魔法の使い手が居るのかもしれませんし、ソウタさんの記憶が混乱していて、実は事故に遭って転生されたのかもしれません。他にも可能性はあるでしょう」
いつの間にか僕とユーニスとアラベスは、立ち止まって話をしていた。
気を使ってくれたのか、マルコやキアラは先に屋敷へ戻ったようだ。
「私たちの上司と直接会ってもらえれば、あなたがあの日、儀式で召喚された人なのかどうかはっきりします。ですから……一緒に来てもらえませんか? お願いします」
吸い込まれそうなほど綺麗な水色の瞳が、僕の顔を見つめている。
エルフのお姉さんの真剣な表情を受けて、勝手に胸が高まってしまう。
「そっ、それはもう、喜んで! さっきも言いましたけど、僕も召喚した人に会いたいと思っていたので……。よろしくお願いします」
僕が原因で十年も待たせたのだとしたら、みんなに謝らないと……。
でも、なんて謝ればいいんだろう? お姉さんと話をしてただけだし、秘密基地の話は内緒にするって約束したし——
「ソウタ殿。私を弟子にする件も、よろしくお願いします!」
「その話については、ゆっくり考えさせて下さい……」
横から割り込んできたアラベスは、爽やかな笑顔を浮かべている。
「にゃあぁぁぁ〜……」
空気が和んだのを感じたのか、ルビィが大きなあくびをした。