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6 弟子入り志願

「オニキス! 斬られたところを見るから、人間サイズになって」

 見上げるほど大きかった鉄の巨人が、すーっと縮んで僕と同じぐらいのサイズになった。

 厳密に言うと、僕より十センチぐらい小さいかな?

 別に、身長にこだわってる訳じゃないけど!

「あー……やっぱり傷になってる。ひどいことするなぁ」

 オニキスの左肩には、攻撃を受けた痕跡が残っていた。

 固い物で殴られてへこんだ感じではなく、明らかに、切れ味の鋭い武器で斬られて、魔法で焼かれたような跡だ。

「えっ? これぐらい大丈夫? そうかもしれないけど……」

 大丈夫だとアピールするように、両手を広げて僕の方に向けて、左右に軽く振ってみせるオニキス。

 巨人サイズでも人間サイズでも小さな人形サイズでも、同じ動きで答えてくれるのが可愛い。

「ちゃんと治しておいた方が良いでしょ。はい、じっとして」

 動きを止めたオニキスの傷跡に手を当てて、優しく撫でる。

 今は鉄の身体だけど、元はといえば白い粘土。だから、ゴーレムとして動けるようになった後でも、僕の手で元の形に治せるはず……。

「うん、うまくいった。これで良いね」

 あっという間に傷跡はなくなり、滑らかな鉄の身体に戻っていた。

 オニキスは嬉しそうに、手を高く上げて万歳している。

「それじゃあ、勾玉に戻って……。はい、おつかれさま」

 手の平を上に向けて右手を伸ばし、オニキスに声をかける。

 鉄の身体が一瞬で消え、僕の手には漆黒の勾玉が載っていた。

 力を見たいって言ってた話は、これで十分だよね?

 そろそろ、僕が異世界から召喚されたって話を——


「ソウタさん……。いや、ソウタ殿! これまで取ってきた無礼な態度、本当に申し訳ありませんでした。今後は、あなたを最高の石像使い(ゴーレムマスター)と認め、二度と失礼な態度を取らぬように誓います。ですから……どうか、私を弟子にして下さい!」

「……えっ?」

 振り返った僕の目に飛び込んできたのは、開いた右手を胸に当てて左膝を地面について、かしこまった姿勢を取っているアラベスの姿だった。

 綺麗な人は、つむじまで綺麗なんだなぁ……。

 って、そんなことを考えてる場合じゃないか。


 助けを求めて辺りを見回す。

 キアラはさっと視線を逸らした。

 マルコは面白そうにこっちを見てるけど、どう考えても当てにならない。

 ユーニスは頬に手を当てて、困っているような楽しんでいるような、複雑な表情を浮かべている。

 力になってくれそうなのは一人しか居ないけど……。


「冒険者ギルドに所属する調査員は通常の業務の他に、長期にわたって実施する課題が出されます。たとえば王家の末裔捜しとか、統一魔王の宝物調査とか。アラベスはゴーレムに関する調査が課題だったのですが、何年も進展がなくて焦っていたので……」

 僕が話しかける前に、ユーニスが状況を説明してくれた。

「それで……オニキスを見て、あんなに興奮してたの?」

「念のために言っておきますけど、この世界の人間だったら誰でもびっくりすると思いますよ。あんなに大きなアイアンゴーレムを見たことがある人なんて、一人も居ないでしょうから」

 最高ランクの冒険者がそう言うのなら、間違いないだろう。

 アラベスの攻撃もほとんど通じてなかったし、いざという時はオニキスに助けてもらえば大丈夫そうだ。


「そうなんですか……。いや、でも、興奮した理由はわかったけど、いきなり弟子にしろって言われても無理ですよ。ゴーレムを造るのも、いつの間にか出来るようになってただけで。教えられるのかどうかわかりませんし」

「そうですねぇ……。こういう場合、弟子にする気が無いのであれば、とても達成できないような課題を出すのがお約束ですが……。本当に駄目ですか? きっと、ソウタさんのお役に立つと思いますよ?」

「はい! 必ず役に立って見せます‼」

 深々と頭を下げたまま、アラベスが気合いの入った声を挟んできた。

 最初に挨拶したときは『男役が似合いそうなお姉さん』って雰囲気で、オニキスに興奮してた所は『危ないマッドサイエンティスト』みたいだった。

 ひざまずいてる姿は、『王と謁見する騎士』のように見えるけど……振れ幅が広すぎない? 会ったその日の内に、印象がコロコロ変わってるんだけど。

 こんな人を弟子にするのは、ちょっと怖いよ!

 ここは、何としても断らないと……。


「村長の屋敷でお世話になってる身で、自分の家もないですし——」

「ソウタ殿のために、立派な家を用意します!」

「この世界に来たばっかりで、わかってないことが多いですし——」

「ソウタ殿に必要な情報は、全て私が用意します!」

「さっきも言いましたけど、ゴーレムの造り方は教えられませんよ?」

「弟子になる許可さえいただければ、後は見ながら勉強します!」

「あのー……ソウタさん? そうやって簡単な条件ばかり出してると、アラベスは弟子になれるって思い込んじゃいますよ?」

「えっ? えーっと、それじゃあ……」

 自分では無茶な話をしてるつもりなんだけど、これでも簡単すぎるの? もっと難しい条件が必要ってこと?

 どうしようかなぁ——って、ちょっと待てよ。

 元はといえば、召喚魔法について知りたくて、この二人を呼んだはず。

 どうして、僕が弟子を取る話になってるんだ?


「弟子入りについては、よく考えて返事をしますから。その前に、召喚魔法の話を聞かせてもらっても良いですか? たぶん、キアラさんから話を聞いてると思うんですけど……」

「あらっ! そうでしたね。それじゃあ先に、召喚魔法の話を……。アラベスもそれで良いでしょう?」

「わかりました……。ソウタ殿、良い返事をお待ちしております。どんなに難しい課題でも、私はやり遂げて見せます!」

 ゆっくり顔を上げたアラベスと目があった。

 思わず見惚れるほどの美人から熱い視線で見つめられてるのに、何故か、あまり嬉しくない……。

 猫に睨まれたネズミって、こんな気持ちになるのかな?

 そんなことを考えていると、猫サイズに戻ったルビィが胸に飛び込んできた。


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