3 ビーストとゴーレム
いろいろと話をしているうちに、昼食の時間になっていた。
キアラの案内でダイニングルームに移動し、自分の部屋で軽く拗ねていたマルコも呼んで、そろって食事を済ませる。
食後のお茶を飲みながらのんびりしてたタイミングで、エルフのお姉さんから声をかけられた。
「ソウタさんは野獣使いだと、キアラから話を聞いたんですけど……。もし良かったら、力を見せてもらえませんか?」
「あっ、はい。良いですよ」
こんな風に声をかけられるのは何回目だろう?
応接室でキアラに見せて、広場で村人みんなに見せて……これが三回目?
個人的には、僕を召喚した魔法の方が気になるから、野獣使いの話はルビィに頼んでさっさと終わらせて——
「ソウタさんは鉄の巨人も従えてるんですよね? 今日は、そちらも見せてもらえませんか? その……。村の会議で聞いてから、ずっと気になってたので」
「そっ、それは……。んー……」
さっさと終わらせようと思っていたところに割り込んできたのは、村長代行のキアラだった。
道を塞いでた大岩を片付けたとき、一緒に来ていた牧畜班の班長に、うまく言っておいて欲しいって頼んだのは僕だけど……。
なんだか、話が大きくなってない?
「何の話ですか? キアラ」
「鉄の巨人、とは……?」
「見たらびっくりしますよ! ソウタさんの巨人はすごいから‼ すっごく大きくて、パンチで簡単に山を崩して——」
状況を飲み込めてないユーニスとアラベスに、マルコが得意げな表情で、数日前に見た光景を説明をしている。
二人とも、説明を聞いてもよくわかってないようだ。
これはもう、実際に見せるしか無いかな……。
「わかりました。それじゃあ、両方とも見てもらうということで……。でも、騒ぎにはなりたくないので、人目に付かないところで良いですか?」
☆
ずっと巨人の話をしているマルコ。
甥の話を楽しそうに聞いているキアラ。
疑わしそうな表情を浮かべていても、素直に付いてくるユーニスとアラベス。
僕たちは五人そろって、村はずれの荒れ地へと移動した。
澄んだ空気。高くて蒼い空。美しい高原の風景。
これが普通のピクニックだったら良かったんだけど……。
「この辺ならもう、家も畑も無いし……。大丈夫だと思いますよ」
鉄の巨人を待ちきれないのか、マルコの声がいつもより明るく感じる。
本音で言うと、あまり派手なことはしたくないんだけど……。ここは開き直って、しっかりお披露目するかな。
「そうだね。それじゃあ……ルビィ、良いかな?」
「にゃあっ!」
自分のやることがちゃんとわかってるのか、軽く声をかけただけで、ルビィは僕の腕から勢いよく飛び出した。
「大きくなれ!」
こっちを向いて行儀良くお座りしたルビィに手をかざし、いつものキーワードを唱える。可愛かった白猫があっという間に大きくなり、大人の豹ぐらいのサイズになった。
「ああぁぁぁおおおぉぉぉん……」
気持ちよさそうに吠えてるけど、心持ち控えめかな?
今日、会ったばかりの二人に遠慮してる?
「この子が、相棒のルビィです。それと——」
すっと視線を上げると、大きな円を描くように飛んでいる大鷲の姿が眼に入った。
「トパーズ!」
「ピーゥ‼ ピーゥピーゥ……」
僕の呼びかけに応えるように、鋭い鳴き声が返ってくる。
どうせなら、全員まとめて披露しようと思って、屋敷を出たタイミングで呼んでおいたのだ。
「こっちがトパーズです。かっこいいでしょう?」
急降下してきたトパーズが、大きく羽を広げて勢いを落とし、ルビィのすぐ横にふわっと着地した。
トパーズの頭を撫でてやると、眼を細めて気持ちよさそうにしている。
対抗するようにルビィも、僕の前に頭を出してきた。
「マルコから話は聞いてましたが……。本当に、大鷲を呼べるんですね」
「あっ、あのっ! 私も撫でさせてもらって良いですか? ルビィさんもトパーズさんも……。可愛い〜〜……」
「これは驚いた。猫の姿から豹に変化させるだけでもすごいのに、同時に大鷲まで使役するなんて……。レベルの高い野獣使いでも簡単にはできないぞ」
「すごいでしょう? でも、ソウタさんはこれだけじゃ無いんですよ!」
キアラとユーニスとアラベス。三人とも反応が違って面白い。
その横で、マルコが自慢げな表情を浮かべてるのが気になるけど……。本番はここからだし、放っておこう。
「皆さんはこのまま、そこで待っててください。ルビィとトパーズも、ここで待ってるんだよ」
相棒たちの頭を軽く撫でて、僕は少し離れたところに移動した。
服の襟元に手を入れて、革紐を引っ張って漆黒の勾玉を取り出す。
こんな時、白い粘土から作った紐は、軽く引いただけで外れて便利だね。
本当はもう少し離れた方が良い気もするけど……まぁ、良いか。
勾玉を地面に置いて、元居た場所へと早足で戻る。
「オニキス‼」
大きな声で名前を呼んだ瞬間、辺りの景色がぐにゃりと歪み、身長十五メートルほどの鉄の巨人が現れた。
後ろから、引きつったような声が聞こえたのは気のせいかな?
やっぱり近すぎた? 見上げているだけで、首が痛くなりそうだ。
「オニキス、少し下がってもらえる? あっ、足元に気をつけて……」
高さだけなら村長屋敷よりも大きな巨人が、そろりそろりと下がっていく。
十メートルほど離れてもらって、ようやく顔が楽に見えるようになった。
「この子がオニキスです、けど……。心配しなくても大丈夫ですよ? いきなり暴れたりしませんから」
目を輝かせながら、オニキスを見つめているマルコ。
大きく口を開けたまま、動きが止まっている女性三人。
説明をしようと思って振り返ると、何故か、みんな静かになっていた。
ここに来るまでの間に、マルコがずっと巨人の話をしてたし……。
そんなに驚くようなことじゃないよね?