表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/220

1 異世界人認定

 僕はマルコと一緒に、朝から牛の乳搾りを手伝いに行っていた。

 予定していた仕事を無事にこなし、のんびり話をしながら帰る。

 朝、眠そうにしてたので、ルビィは部屋でお留守番だった。


 村長屋敷の重そうな玄関をマルコが開けたところで、お盆を手にしたキアラとばったり会った。

「あっ、ソウタさん! ちょうど良いところに。あなたに会いに、お客さんが到着したところでして……このまま、応接室にいらしてもらえますか?」

「えっ……? あっ、はい。わかりました」

「僕も一緒に行って良いですか? 姉さん」

 村長代行が手にしているお盆には、数人分のお茶セットが載っている。

 それを見ただけで、誰が来ているのかマルコにも察しが付いたようだ。


 ちなみに、マルコから見てキアラは亡くなった父親の妹で、厳密に言うと叔母なのだが、『おばさん』と言うと怒られるので『姉さん』と呼んでいるらしい。

 女性への言葉遣いが大事なのは、どこの世界でも同じか……。


「そうねぇ……。悪いけど、あなたは部屋で待っててもらえる? 昼食の時にでも、ちゃんと紹介するから」

「はーい。わかりました……」

 断られるのを予想していたのか、マルコは暗い表情で階段を上がっていく。

「それでは、ソウタさんはこちらに」



 はじめて来たときと同じように、屋敷の一階にある、テーブルとソファが置いてある部屋に通される。

 革張りのソファには美しい女性が二人、座っていた。

「先に私から紹介を……。こちらがソウタさんです。異世界から来られた野獣使い(ビーストテイマー)の方で、私の甥を助けてくれました」

 二人とも古い友人なのか、キアラには緊張した様子もなく、僕を簡単に紹介してくれた。

「あっ、えーっと……。はじめまして、創多(そうた)です」

「はじめまして、ユーニスです」

 すっと立ち上がった二人と順番に握手をする。

 社会人だった時代なら、ここで名刺を交換するところだけど……。何も持ってないので素直に握手をした。

 たぶんユーニスが、前にマルコから聞いた人なんだろう。

 さらさらと流れるように美しい金色の髪。透き通った白い肌。

 綺麗な水色の瞳。長くて尖った耳。見事なまでに整った容姿。

 腰に下げているレイピアまで含めて、完璧なエルフのお姉さんだった。

「アラベスです」

「創多です」

 金色の瞳。透明感のある青色の髪。

 ぱっと見では男性のようにも見える、ベリーショートの髪型。

 ユーニスに負けないぐらい白い肌。微妙に尖っている耳。

 もしかして、エルフの血が入っている人なのかな?

 アラベスの方が背が高く、腰にはロングソードを下げている。

 女性だけで有名な歌劇団なら、男役が似合いそうな雰囲気。

 二人とも、剣を振る姿が想像できないほど、柔らかい手でした。


「にゃあっ!」

「あれっ、ルビィ⁉ どこから入ってきたの?」

 村長代行と僕に続いて、こっそり入ってきたのだろうか?

 二階の部屋でお留守番しているはずのルビィが、いつの間にか僕の横でお座りしていた。

「この子が、キアラの話に出てきた白猫ですね。可愛い〜」

 エルフの感覚でも、ルビィは可愛いのか。

二尾魔猫(ツインテイルキャット)か……。初めて見たよ」

 この世界でも、尻尾が二本ある猫は珍しいのかな?

「僕の相棒のルビィです。ほら、挨拶して」

「にゃあー……」

 すっと手を伸ばしてやると、ルビィが胸に飛び込んできた。

 そのまま、腕の上でくるりと向きを変えて、初対面の女性二人に笑顔をアピールって……。ちょっと愛想が良すぎないかな?

 森の奥でマルコやカルロと会ったときとは、ずいぶん態度が違うような気がするんですけど。

「良かったら、私にも抱かせてもらえませんか?」

「ちょっと、ユーニス! いきなり何を——」

「ルビィさんが可愛いのはわかりますけど、まずは二人とも、ソファに座ってもらえますか? お茶をお出ししますから……」

 部屋に居る四人の中で、一番落ち着いてるのはキアラのようだ。

 見た目だけなら、女性三人の中でキアラが一番年上に見えるけど……どういう関係なんだろう?


 結局、白猫を胸に抱えたまま、紹介された二人と対面する席に案内された。

 二人の視線がルビィに向かっていても、何故か無駄に緊張してしまう。

「先に、ここに来た目的を先に済ませましょう。まずは、異世界のお話から聞かせてもらいたいのですが……よろしいかな?」

「あっ、はい。わかりました」

 エルフのお姉さんはずっと、ルビィの尻尾を楽しそうに見ている。真剣な表情で声をかけてきたのは、その横に座っている青髪の美女だった。


         ☆


 五分ほど話をしただけで二人とも、僕が異世界人だと納得してくれた。

 どうやらユーニスの方は、別の異世界人と会ったこともあるらしい。

 どう見ても日本人には見えないエルフ美女の口から、『東京』や『昭和』や『カップヌードル』なんて単語がぽんぽん出てきて、驚きを通り越して冷静になってしまった。


 詳しい話を聞いてみると、どの時代からどの時代に転生するのか、特に法則はないようで、そんなに古くない日本語が、こちらの世界で遙か昔の歴史書に載っていたりするらしい。

 それが——

「焼肉定食、ですか?」

「ああ、そうだ。こちらの世界で二千年ほど昔。あなたの居た世界から転生してきた男が国を興し、偉大な王と呼ばれるまでになった。その王が一番好きだった食事が……焼肉定食だったのだ!」

 まさか異世界で、『焼肉定食』って単語を聞く日が来るなんて……。それも相手は、青い髪が印象的で一度見たら忘れられないほどの美女だ。

 というか、王になったら美味しいものを食べ放題なのでは?

 どうして焼肉定食? それが歴史書に載ってるって……。

「そのポーズです! 前に会った異世界人の女性も、この話を聞いて、同じようなポーズになってました!」

「えっ……? あー……。そうですか……」

 何故か、頭を抱えているポーズが心に響いたらしい。

 向かい合わせに座っているユーニスが、満面の笑みを浮かべている。

 アラベスは、珍しい動物でも見たような表情をしていた。


 ただでさえ女性の年齢なんてわからないのに、相手がエルフとなると、もっとわからないんだけど……。見た目だけなら、ユーニスは女子大生ぐらい?

 アラベスはもう少し大人っぽくて、二十代後半ぐらいかな?

 ゲームや漫画の知識だとエルフは長命で有名だし、もう一人は種族もわからないし、まるっきり外れてる可能性も高いけど。

 とにかく二人とも、女優やアイドルなんか目じゃないぐらい美人なのは間違いないな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ