6 聖騎士の塔
「みゃあみゃあ〜」
「ふわあぁぁぁ……。んん〜……おはよう、ルビィ」
……ルビィも楽しみにしてたのかな?
いつもなら気が済むまで毛布にくるまってゴロゴロしているルビィが、今日は可愛くお座りした姿勢で僕が起きるのを待っていた。
今日はラーメンを食べに行く日だ。
美味しい朝ご飯を食べて、食後のコーヒーを飲んで、自然と急ぎ足になりそうな気持ちを抑えて工作室へと移動。
マーガレット、ユーニス、アラベス、マイヤー。
……みんなもラーメンが気になるのかな?
それほど待つこともなく、いつものメンバーが集合した。
まずはリンドウの転送魔法で、前にダイヤモンドランクの顔見せで行った基地の近くまで移動。
召喚魔法でトパーズを呼んでロック鳥の姿になってもらって、背中に乗って東に向けて出発した。
雪に覆われた険しい山脈。
おそらく、森林限界を超えているのだろう。
むき出しの山肌が見えるばかりで、木が一本も生えてない景色が続く。
「ピーゥ! ピーゥピーゥ……」
「……あれは何ですか?」
最初に気が付いたのはトパーズだった。
山の頂上に立つ丸い塔。
そこだけ雪が降ってないかのように、群青色の壁が見えている。
周りに比較する物がないからわかりにくいけど、かなり高そうだ。
「あれは聖騎士の塔ね。白と赤は他の場所にあるから……。たぶん、青聖騎士の塔じゃないかしら? 壁の色もそんな感じだし」
「マーガレット様は聖騎士の塔に挑戦されたのですか?」
ユーニスは“聖騎士の塔”って聞いただけでわかったみたいだ。
「挑戦しようとしたことはあるわよ。けど、中に入ることすら許してもらえなかったの。塔の守護者が言うには、私に聖騎士の資格は必要ないんですって」
「それは……。どういう意味でしょうか?」
「はっきりしたことは私にもわからないけど、賢者様……。つまり、春の女神に求められて英雄になったのだから、いまさら聖騎士にはなれないってことだと理解してるわ」
「それは納得できる話ですね」
「アラベスは聖騎士の塔について、何か知ってる?」
マーガレットとユーニスが真剣な表情で話をしている横で、僕は基本的なところをアラベスに質問してみた。
「はい。遙か昔、女神が地上で暮らしていた頃に、女神の神殿を守る者を選別するために造った施設だと言われています。試練を乗り越えて塔の最上階に到達した者だけが、聖騎士と認められて女神に直接お仕えすることが出来たとか」
「こんな山奥にあるってことは、ここまで来るのも試練に入ってるのかな?」
「おそらくそうでしょう。白、黒、赤、青の四つの塔があると言われていますが、どれも簡単には行けない場所に建っているそうですから」
僕たちが塔の話をしてたから気を利かせてくれたのだろう。
スピードを落として身体をゆっくり傾けて、トパーズが塔の周りをぐるっと一周飛んでくれた。
高さは三百メートルぐらい? 窓が一つも見当たらないけど、中はどうなってるんだろう?
そもそも、こんなに高い塔をこんなところにどうやって建てたんだろう?
「ピーゥピーゥ……?」
「塔の中も気になるけど、また今度で良いよ。今日はラーメンを食べに行くって決めてたから」
「ピーゥ! ピーゥピーゥ……」
☆
険しい山脈を越えたあとは大きな川に沿って北へと飛んでもらって、それほど迷うこともなく目的地である町を発見した。
ベレッチさんに教えてもらったラーメン屋がある町だ。
「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」
「五人で」
「奥のテーブル席にどうぞー!」
威勢のいい女性の店員さん。
木製の椅子が並んだカウンター席。
小皿や調味料や割り箸が置いてあるテーブル席。
ラーメンの種類やサイドメニューが書かれた紙が壁に何枚も貼ってある。
店員さんの頭に可愛い猫耳がついてなかったら、日本に帰ってきたんじゃないかと疑ってしまいそうなほど普通のラーメン屋だ。
……猫耳店員さんのラーメン屋って、探せば日本にもあるかな?
いろいろ迷ったけど豚骨ラーメンを選んで、唐揚げと半炒飯がついてくるセットにした。
マーガレットとマイヤーも僕と同じ物を選び、ユーニスとアラベスは醤油ラーメンを注文。
ほとんど一年ぶりに食べるラーメンは涙が出るほど美味しかった。
思ってたより量が多くて食べ過ぎでお腹が苦しくなるぐらいだったけど、後悔はない。
今日は豚骨ラーメンを食べたけど他のラーメンも気になる。サイドメニューの餃子も食べてみたい。
しばらくの間、ここのラーメン屋に通うことになりそうだ。




