表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
215/220

4 依頼の報酬

 大穴を埋める作業は四日ほどで無事に完了した。

 僕とトパーズとニンフェアのブレスでできた穴だから、そのままにしておくのはイヤだったんだよね。

 土を使って巨大なゴーレムを作れる機会なんて滅多にないだろうし、これはこれで良い経験になった。

 ぶっちゃけ、ショベルカーやダンプカーを何台も作って土を運んでもらっても良かったんだけど、この世界には土がゴーレムになって自分で動く方が似合ってると思う。


 運んできた土をオニキスやダッシュたちに踏み固めてもらって、周りの地面と変わらない感じに仕上げて……。そこまで終わったところで、今度は道が途切れてるのが気になった。

 元々、手入れてされていないボロボロの石畳だったし、繋がってる先は廃墟と化した街だし、道が途切れてても誰も困らないと思うけど、気になっちゃったので仕方がない。


 トパーズに乗せてもらって石が採れそうな場所を探して、ヒイラギに協力してもらって石を切り出して、リンドウの転送魔法で近くまで石を運んで、ちょうど良いサイズに切り分ける。


 縦が五十センチ、横も五十センチ、厚さが五センチぐらいの石の板を元々の道幅にあわせて敷き詰めて、動かないように隙間を土で埋めていく作業。

 最初の一列は試しに自分でやってみたけど、石畳は重くて大変だった。

 一枚ずつなら僕でも何とか持ち上げられるけど、ずっとやってると身体が壊れそうなぐらい重い。

 リンドウに身体強化の魔法をかけてもらって助かった。

 こういう作業をずっとやってる人は本当にすごいと思う。


 僕の続きは人間サイズのオニキスにやってもらって、途中からは分身したヤクモも手伝ってくれた。

 手の平サイズのヤクモが石畳を背中に乗せて歩いていると、まるで石畳が自分で動いてるみたいで面白かった。


 結局、作業全体で一週間ぐらいかかったのかな?

 途中から楽しくなって、ブレスで消えたところだけじゃなくて古い石畳を全て直したくなったけど、さすがにやり過ぎだと思って止めておいた。


         ☆


 大穴を埋める作業が終わって数日後。

 午後からベレッチさんが、依頼の報酬を持ってきてくれた。


「お久しぶりです。ソウタ殿、マーガレット様。小ニール湖のドラゴンゾンビ討伐、ありがとうございました。主も大変喜んでおられました」

 前に来た時と同じように、喫茶室でベレッチさんを迎える。

 同じお客であるユーニスとアラベスはテーブルでお茶を飲んでいた。


「最初はどうなることかと思ったけど、何とかなりました」

「この件に関して言うと、私は何もしてないのよ。ドラゴンゾンビを討伐したのはソウタ君。どう? すごいでしょう?」

「ええ、本当にすごいですね。このようなことができる人は、歴史を遡ってみても他に居なかったと断言できます。さすがは英雄が選んだパートナー」


 僕とマーガレットがベレッチさんと挨拶を交わしている間に、屋敷の使用人たちが続々と木の箱を運んできた。

 一つ一つはそれほど大きくないけど、いかにも大事な物が入ってそうな箱。

 ……なんだか、箱入りの高級メロンがずらっと並んでるみたいだ。


「ドラゴンゾンビ討伐について、詳しい話を聞きたいところですが……。先に私が持ってきた物について説明した方が良いでしょうか?」

「……えっ? あっ、すみません。そうしてもらえると助かります」

 テーブルに置かれた二十個ほどの木箱。

 ベレッチさんに声をかけられて、ようやく僕の視線がそこから外れた。


 マーガレットもユーニスもアラベスもベレッチさんも、なんだか楽しそうな表情を浮かべて僕の方を見ている。

 マイヤーだけはいつもと同じ顔? 微妙に目元が微笑んでる?

 箱の中身が気になって仕方ないのが、全員にバレてたみたいだ。


「では……。ソウタ殿がどのような素材を必要とされているのかわからなかったので、今回はどのような種類があるのか知ってもらうのを目的として、魔術具作りに使える素材をいろいろお持ちしました」


 最初にベレッチさんが説明してくれたのは、宝石系の素材だった。

 赤い石、青い石、水色の石、茶色い石、灰色の石。

 それなりに大きくて綺麗な石が、それぞれの箱に詰まっている。

 赤色が火属性、青色が水属性といった感じで、色ごとに向いている属性が決まっているらしい。

 灰色の素材はちょっと変わっていて、どの属性もそこそこ扱えると。

 ……前に石像使い(ゴーレムマスター)のおじいちゃんが鉱山で見せてくれたのはこれだな。ベレッチさんが持ってきてくれた石の方が大きくて、濁りも少ないみたいだけど。


 同じように粘土系の素材も説明してくれた。

 赤い粘土、青い粘土、水色の粘土、茶色い粘土、灰色の粘土。

 粘土が詰まった箱を見てるだけでわくわくしてくる。

 灰色の粘土は石像使いのおじいちゃんにもらったのとよく似てるけど、こっちの方が目が粗いのかな? 肌触りがイマイチ? 後でいろいろ調べてみたい。


 魔力を通しやすい素材というのはそれだけで貴重な物だけど、火属性、水属性、風属性、土属性の四種類なら比較的手に入りやすいらしい。

 全ての属性が扱える灰色の素材は、魔力の通しやすさによって大きく価値が変わると。


 次に説明してくれたのが金属系。

 この系統の箱には精製されたインゴットが入っていた。

 白っぽい銀色、金のような銅のような不思議な色、角度に応じて色合いが変化する虹色。

 それぞれ、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトだそうだ。

 魔術具というより、魔法を使える武器や防具に使われる素材だけど、扱うには専用の工具や知識が必要になると。

 必要であればその手の職人も紹介してくれるのね。

 ……もらった物を加工するより、自分で再現した方が早いかな。


 残りの箱には、ベレッチさんでも簡単には入手できないほどレアな素材が入っていた。

 紫色の石は氷属性を、黄色い粘土は雷属性を扱える貴重な素材。

 太陽石と呼ばれているオレンジ色の石は、扱い方によっては激しい爆発を引き起こす。

 光を全てを吸い込みそうなほど黒い石は月光石と呼ばれていて、精神に影響を及ぼす魔法に効果がある。



「量が必要なのであれば、同じ素材をさらに用意します。少しお時間を頂くかもしれませんが、今回お持ちした素材であれば、どれも追加で入手可能です」

「それは大丈夫です。一回触ってどんな素材か理解すれば、後はどうにでもなるので」

「……そうなのですか?」

「ソウタ君の言う通りよ。だから、量は少なくて良いから、珍しい素材が他にも手に入ったら持ってきてあげて」

 僕の言った言葉をマーガレットに確認するベレッチさん。

 誰に聞けば良いのか、完全に理解してるみたいだ。


「了解しました。新たな素材が手に入った時は、ソウタ殿にお届けすることをお約束します」

「ありがとうございます」

「……本当はもう一つ、ソウタ殿にお渡ししたいとっておきの素材があったのですが、私の力では手に入れることができず……。力不足をお詫びします」

 ベレッチさんは胸の前に手を当てて、深々とお辞儀をした。


「それって、どんな素材ですか?」

「聖書にも載ってるほど有名で、魔術具作りを生業としている者なら誰もが一度は触れてみたいと願う伝説の素材です。ですが、見たことがある者は一人もおらず、嘘か真かわからないような話が残っているばかりで——」

「女神の土なら、ソウタ君はもう持ってるから必要ないわ」

「……………………………………えっ?」

 口が半開きのまま、ベレッチさんが固まってしまった。

 話の流れを予想してたのかな? マーガレットは余裕の表情でお茶を飲んでいる。


「女神と会って、女神の土をプレゼントされた人なのよ。ソウタ君は」

「そっ、そうですか……。そうですね。ソウタ殿であれば、それぐらい不思議ではないかもしれませんが……。そうだったのですね……」

「言わなくてもわかると思うけど、この話は他言無用よ」

「もちろんわかっております。いや、しかし……。女神の土をソウタ殿が持っておられるとは。驚きました……」

「あなたの主ならもう知ってるはずよ。機会があったら聞いてみなさい」

「ありがとうございます。主と会う時の楽しみが増えました。……報酬として持ってきた素材に関する話は以上ですが、もう一つ。主の悩みを解消していただいた御礼に、ちょっとした情報を持ってきました」

 話をしながら手元の鞄から一冊のノートを取り出すベレッチさん。

 手渡されたノートの表紙には『異世界レストラン』と書いてあった。


「これって……?」

「ソウタ殿がこちらの世界に来て、一年ほど経つのですよね? そろそろ元の世界の食事が恋しくなる頃ではないかと思いまして、異世界人が開いたレストランに関する情報をまとめてみました。時間がある時にでも、訪れてみてはいかがでしょうか?」

 ラーメン、焼肉、カレー、スイーツなど。

 懐かしい料理の名前がノートには書かれていた。

 それぞれ、店の名前や所在地に加えて、人気メニューの情報までイラスト付きで丁寧にまとめてある。

 ……これ、イラストを描いたのはベレッチさんなのかな?

 モノクロの精密画だけどかなりうまいと思う。

 ノートを見てるだけでお腹が減ってきた。


「ありがとうございます! 行ってみますね」

 そう言えば、前に焼肉定食の話を聞いたことがあったっけ。

 あの話をしてくれたのはアラベスだったかな?

 僕には行き方がわからない場所でも、ユーニスやアラベスに頼めばどうにかなるだろう。


「あらあら。ソウタ君がこんなに嬉しそうな顔をするだなんて」

「この、スイーツの店なら行ったことがありますよ。お師匠様」

 優雅にお茶を飲んでいるユーニスも、横からノートを覗き込んでくるアラベスもなんだか楽しそうだ。


「……良い仕事をしてくれたわね。ベレッチ」

「お褒めいただきありがとうございます。マーガレット様」

「ふみゃあぁぁ〜」

 ノートを見ている僕を、マイヤーが真剣な表情で見つめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ