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3 専属メイドの日記

◯1月23日(水曜日)

 今日、ソウタ様は午後から小ニール湖へと向かいました。

 まずはニンフェアさんに挨拶をして、ソウタ様が植えた樹に水をやって、それから湖の南にある廃墟と化した街へ。

 昨日の争いで街の門を出たところに大きな穴を作ってしまったのを、ソウタ様は気にしている様子でした。


 一番長いところで大穴の直径は一キロほどでしょうか?

 深さは二百メートルほどですが、トパーズさんやニンフェアさんのブレスが直撃した場所はもっと深く削れています。

 しばらくの間、ソウタ様は大穴の前で何か考えている様子でしたが、翼を出して南東に見える小山へと飛んで行きました。


 背中のリュックから粘土を取り出して丈夫そうな鉄の箱を作り、どんどん大きくして大人が百人入れるほどのサイズにしました。

 作ったことがないものを作るのが嬉しいのか、ソウタ様はとても楽しそうに作業していました。


 続けて、庭木係が使うようなシャベルを作り、オニキスさんを呼び出して手渡しました。

 ソウタ様と同じぐらいの身長だったオニキスさんが巨人サイズになると、持っていたシャベルも大きくなりました。

 ……振り返ってみると不思議な現象が起きたようですが、ソウタ様の周りではよくあることです。



 巨大なシャベルで山を崩し、鉄の箱に土を入れて、廃墟の前の大穴へと土を運ぶオニキスさん。

 一回往復したところで、ソウタ様は鉄の箱に車輪を付けました。

 二回往復したところで、車輪を外して箱を宙に浮かせました。

 三回往復したあとから、鉄の箱が自分で大穴まで行って中の土を落として戻ってくるようになりました。

 ……リンドウさんが浮遊の魔法を使ったのでしょうか? それとも、ソウタ様が鉄の箱をゴーレムにしたのでしょうか?

 鉄の箱が土を運ぶ光景を、ソウタ様は楽しそうに眺めていました。


 オニキスさんが土を掘っている横でソウタ様も作業を続けて、鉄の箱は十個に増えました。箱の数と釣り合いをとるように土を掘る人数も増えて、最後にはオニキスさんとよく似た鉄の巨人が五人になっていました。


 ……オニキスさんによく似たゴーレムなら知ってます。

 前にソウタ様から直接紹介されましたし、妖魔の森で炎の精霊と戦っているところも見ました。確か、名前はダッシュさんというのですよね。

 その、オニキスさんとダッシュさんの二人でも十分すぎるほどの戦力だと思うのですが、さらに増やして誰と戦うのでしょう?


 私の質問にソウタ様はあっさり答えてくれました。

 白い仮面の男と戦う前から、いざという時のためにオニキスさんの妹を複数用意していたと。

 昨日は出番が無かったけど、せっかくだから大穴を埋めるのを手伝ってもらったと。


 必要なら、いつでも五体の巨人を呼び出せるそうです。

 今日は単純な力仕事だったけどそれぞれ得意な属性が違うので、いろんな相手に対応できるはずだと、ソウタ様は楽しそうに説明してくれました。


 いつか、この五人が戦う日が来るのでしょうか?

 そんな日が来ないことを祈りましょう……。



◯1月24日(木曜日)

 今日もソウタ様は午後から小ニール湖へと向かいました。


 廃墟の南にある大穴に行くところまでは昨日と同じでしたが、そこでソウタ様は腰のポーチからドーナッツとよく似た形の物を取り出しました。

 屋敷の工作室で作ったのでしょうか?

 大きさも本物のドーナッツと同じぐらいで、青色の石で作られているように私には見えました。


 石のドーナッツを大穴の上空に設置して、ソウタ様は昨日オニキスさんが土を掘っていた南東の山へと移動。腰のポーチから二個目の石製ドーナッツを取り出して、地面の近くに設置しました。

 ソウタ様が声をかけるとドーナッツはするする大きくなり、あっという間に直径十メートルほどになりました。

 これはあとで気が付いたのですが、山に設置されたドーナッツが大きくなるのと同時に、大穴の上に設置されたドーナッツも大きくなっていたようです。


 オニキスさんが現れて昨日と同じようにシャベルで土を掘り、大きなドーナツの中へ土を落とします。

 落とされた土は、大穴の上に設置されたドーナッツから出てきました。


 ……ソウタ様はゲートを新しく作ったようです。

 大陸の各地を結ぶゲートは、人々の移動を楽にするために女神が造ったと聞いてますが……。ソウタ様は土を運ぶために、女神の偉業を再現したようです。

 さすが、ソウタ様ですね。



 オニキスさんたちが土を掘ってドーナッツの中に落とすのをソウタ様は三十分ほど眺めていましたが、その間に別の方法を思いついたようです。

 少し離れた場所に移動して、山の斜面に手をついて呪文を唱えました。


 もこもこと盛り上がる大地。

 慌てて上空へと飛び去るソウタ様。

 土でできた広い背中。大きな頭。太い四肢。

 私には山に埋もれていた土の巨人が、中から出てきたように見えました。

 それも、巨人サイズのオニキスさんより遙かに大きな巨人が。


 身長は二百メートルほどでしょうか?

 大穴に向けてゆっくり歩を進める土の巨人。

 土の巨人が歩くだけで、大地が細かく揺れました。

 大穴に到着した巨人は中に入り、その場で土に戻りました。


 魔力を含んでいて魔術具を作るのに向いている素材ではなく、どこにでもあるような普通の素材でゴーレムを作ることに、ソウタ様は去年の秋頃から挑戦していました。

 動く木彫りの熊を見せていただいたこともありますし、ニンフェアさんも元々は水を素材としたゴーレムでした。

 ですから、今のソウタ様なら土を素材としたゴーレムを作ってもおかしくないとは思うのですが……。大きすぎませんか?

 まるで、山がそのまま歩き出したかのようです。



 一体目で動作を確認したのでしょう。

 ソウタ様は続けて複数の土の巨人を作り上げました。

 無理をしているのではないかと思って質問してみたのですが、今回は短い距離を歩くだけだから難しい作業ではないそうです。

 ウォータードラゴンを百体作った時の方が大変だったと。

 話をしている間もソウタ様は、さらに大きな巨人を作ったり、巨大なゾウの姿をしたゴーレムを作ったりしていました。


 ……楽しそうに作業を進めていらしたので問題ないのでしょう。

 そう考えて邪魔にならないように控えていたら、抱っこしていたルビィさんが腕から飛び出しました。

 ソウタ様の近くに行っておねだり声で鳴いて、休憩を取らせることに成功したルビィさん。ルビィさんもさすがですね。

 私は急いでお茶とお茶菓子の準備をしました。


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