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閑話休題 白猫の聖者

 私の名前はヴァレッラ。

 ミセントラ大聖堂で働いている修道女の一人です。


 若い頃は真面目な両親に反発して、複数の職業をふらふらと渡り歩くような生活をしていました。人には言えないような仕事をしたこともあります。

 そんな私ですが、ある時、夢に女神様が出てきてからは、女神教の信者として修行を重ねながら人々のために働いています。


 大戦が終わって八百年近く経ち、私が住んでいるイムルシアでも平和が当たり前の状態になっていますが、それでも人々はいくつもの悩みや苦しみを抱えたまま生活しています。

 人が人である以上、悩みや苦しみがなくなることはないのでしょう。

 ですが、私たちが手助けすることで、少しでも悩みを和らげることが出来るのであれば……。苦しみを減らすことが出来るのであれば、きっと女神様も喜んでくださるはずです。


 困っている人を助けようとした時、若い頃の経験が役に立つことが何度もありました。今考えると、全てが女神様の思し召し(おぼしめし)だったのかもしれません。


         ☆


「ソウタ様の公式な呼び方、ですか……?」

 ミセントラ大聖堂の奥にある大司教の部屋。

 そこに呼び出された私は、予想してなかった相談を受けました。


「彼は目立つのがお嫌いで、できれば名前を出して欲しくないそうですね」

「はい。ソウタ様本人からそのように聞きました」

「気持ちはわかりますし、彼の意思を尊重したいと思うのですが、生命の樹や夫婦の樹を受け取りに来た司教から『誰に感謝すれば良いのか教えて欲しい』と言われまして」

「それは……。私が同じ立場でも、同じ質問をしたと思います」

「女神教に多大な貢献をしてくれた恩人を、“名無しの聖者”と呼ぶ訳にはいかないでしょう? 彼について一番詳しいのはあなたですから、何か良い呼び方を考えてもらえないでしょうか」


「こういう場合……。その人の出身地や貢献した場所の地名で呼ばれるようになるパターンがありますよね?」

「そうですね。有名なところではクムロカンディの聖者や西ケスティアの聖者などがそのパターンに当てはまるでしょうか。……あなたはソウタさんの出身地を知ってますか?」

「ソウタ様は異世界から来られたと聞いてます」

「異世界の聖者、ですか。ん〜……。あまり響きが良くないですね」

 はっきり口には出されなかったですが、大司教が考えられていることはわかるような気がします。

 女神を崇めて民衆を助けてきた女神教が、他の世界から来た人に助けられるのは筋が通らないように感じられたのでしょう。


「住んでいる場所はイムルシアで、この大聖堂から馬車で一日ほどの距離に屋敷があるそうですよ」

「イムルシアの聖者……。悪くはないですが、他の司教からクレームが出るかもしれませんね」

「ソウタ様の貢献はミセントラ大聖堂にとどまらず、女神教全体に及んでいますから。国の名前で呼ぶのは避けるのが無難でしょうか」

 女神教は国や地方にかかわらず平等ですが、信者の人には自分たちの地元を愛する心があります。

 他の国の聖者に助けられるのを嫌がる人が出るかもしれません。そのような事態は事前に避けるべきでしょう。


「何か、他にわかりやすい特徴はないでしょうか?」

「特徴と言っていいのかどうかわかりませんが、ソウタ様は石像使い(ゴーレムマスター)だそうです」

 冒険者ギルドには魔法使い(ソーサーラー)として登録してあるけど、ソウタ様が本当に得意なのは石像使いとしての能力だと、古い友人から聞きました。


「そうなのですか? 私が挨拶をした時、ゴーレムを連れているようには見えなかったのですが」

「確かな情報です。去年の秋、イムルシアの東北地方に現れた大型魔獣を討伐したのも、ソウタ様のパーティだそうですよ」

「それはすごいですね……。女神の加護を受けて転送魔法を自由に使いこなす聖者ならば、たやすいことなのかもしれませんが」


「……すみません。話をしていて思いだしたのですが、ソウタ様は石像使いであるのと同時に野獣使い(ビーストテイマー)でもあるそうです」

「あまり聞いたことがない組み合わせですが……。それが何か?」

「ソウタ様はロック鳥やフェニックスを使役していて、離れた場所に移動する際はロック鳥の背中に乗せてもらうことがあるそうです」

「………………信じられないような話ですが、ソウタさんに頂いた樹はどちらも本物でした。その話も事実なのでしょう」

「私もそう思います。ですから、もしロック鳥を見かけてもいきなり攻撃したりしないように、女神教から話を広められないでしょうか?」

「決してソウタさんと敵対しないように、女神様からも助言がありました。ですから……そうですね。教会の説教でロック鳥に関する話を広めて、不幸な事件が起きないようにしましょう」

「ありがとうございます」

 ロック鳥の件について、可能であれば教会から話を広めて欲しいと古い友人から頼まれていました。

 大司教が協力してくれるのであれば、何の問題もなくことが進むでしょう。


「鳥に乗った聖者……。悪くはないですが、逆にロック鳥を追いかける人が出るかもしれないですね」

「でしたら、白猫を連れた聖者というのはどうでしょう?」

「白猫を連れた聖者……。良いですね。女神教の説話にも白猫を連れた女神が奇跡を起こす話がありますし、聖者のイメージにぴったりです。生命の樹と夫婦の樹を配布した教会にはこの呼称を伝えて、感謝の祈りを捧げるように通達しておきましょう」

 私がソウタ様と会ったのは二回だけですが、二回とも可愛い白猫を連れていました。

 この呼び方ならソウタ様も気に入ってくださることでしょう。


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