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9 白い仮面の男(後編)

 いきなり現れた灰色の剣がマルーンの首筋を襲う。

 マルーンはさっと肩を引いて、ぎりぎりのところで剣を躱した。

 ……手首から先が剣になった? 変身機能かな?

 さっきまで白い手袋をしていた男の右手が、いつの間にか灰色の長剣に変わっている。


「はあっ!」

 返す刀で斬りかかるマルーン。

 僕が作ったロングソードが男の身体に突き刺さる。

 ……血が出ない? やっぱりゴーレムっぽい? 攻撃されても自動で修復するタイプかな?

 高級そうな服が切られて灰色の肌が露わになっているが、斬られた痕跡はどこにも見当たらない。


『マスター。そろそろ、戦闘に備えた方がいいかと……。いつ、こちらが狙われるかわかりませんから』

「あっ、そうだね。それじゃあ……。ヒイラギ!」

 声をかけられるのをずっと待ってたのかな?

 ヒイラギの名前を呼ぶのと同時に、僕の身体が鎧に包まれた。

 これで敵の攻撃がこっちに飛んできても、マルーンやパーカーさんの足を引っ張ることはないだろう。


「アアァァオオオォォォ〜!」

 さっきまで僕に抱っこされていたルビィが、白豹の姿になって大きなうなり声を上げている。ピンッと垂直に伸びた二本の尻尾が勇ましい。


 ……このまま、マルーンに任せておけば大丈夫かな?

 湖ではニンフェアが待機しているし、いつでも出せるようにオニキスも準備してある。ヤクモの罠も準備が完了しているはずだ。

 チラリと横を確認すると、僕の方を見てパーカーさんが小さく頷いた。

 ……任せておけば大丈夫みたいだ。


         ☆


 マルーンの攻撃が激しさを増すにつれて、帽子を飛ばされて服を切られて、男の肌が大きく露わになっていた。

 いつの間にか左手だった部分が、ゴツゴツした岩の形になっている。

 腕が伸びて胴体がボリューム感を増して、普通の人間っぽい体型だった仮面の男が出来損ないの巨人っぽい姿に変わっている。

 ……徐々にスピードも上がってる? 戦いながら成長するタイプかな?


 男の攻撃は一撃一撃が重そうだけど、マルーンは全て躱している。

 マルーンの剣は男の身体を何度も捕らえていたが、腕や脚を斬られても何事も無かったかのように即時にくっついてしまう。


「やっかいな相手とは思ってたけど……。これでどうかしら?」

 マルーンがつぶやくのと同時に、数え切れないほどの光の軌跡が男のいる空間を切り裂いた。

「地獄の炎よ! 我が命に従い、全ての敵を灼き尽くせ! インフェルノ・フォールズ‼」

 僕の隣で戦闘を見守っていたパーカーさんが、気合のこもった詠唱で魔法を発動させた。

 バラバラにされて動くことも出来なくなった仮面の男が、頭上から降り注ぐ炎に身体を灼かれる。


 ……これも一種の召喚魔法なのかな?

 仮面の男に降り注ぐのは、マグマのようにドロドロとした炎の集まりだ。

 普通の人間がこんなのを浴びたら、骨すら残さずに消し炭になっちゃいそうだけど——


「今のはちょっとびっくりしたよ。それじゃあ、僕もそろそろ本気を出させてもらおうかな」

「本当にやっかいな相手ね……」

 立ち上る蒸気。バチバチと何かが爆ぜる音が聞こえてくる。

 降り注いだマグマが水たまりのように溜まっている中で、仮面の男はゆらりと立ち上がった。

 ……さっきより微妙に小さくなってる? 少しは効いたのかな?



「僕も試してみたいことがあるんですけど、良いですか? パーカーさん」

「お願いします。お嬢様をお助けください」

「やるだけやってみます」


 ……ヤクモは大丈夫かな? パーカーさんのマグマで燃えてない?

『糸もヤクモさん本体も問題ありません。いつでも罠を発動できます』

 ……ニンフェアやトパーズは?

『既に上空でマスターの合図を待ってます』

「それじゃあ、はじめようか……。ヒイラギ!」

『無理はなさらないでくださいね』

 ……大丈夫。みんなが心配するようなことはしないよ。


 僕を守っていたミスリルの鎧がナイフに戻った。

 急いで右手に龍玉を出し、呪文を唱える。

「ドラゴンチェンジ!」

 全長三十メートルぐらい。

 僕が変身できる一番大きな竜の姿に変身した。


「なるほど……。どうして普通の人間が居るのか不思議だったけど、英雄の切り札だったんだね」

「その通りよ。彼こそが私の切り札。自分がどうやって滅ぼされるのか、その目に焼き付けなさい」

 漆黒の眼が僕を睨む。

 何の表情も感じられない顔がちょっと怖い。

 ……怖いけど、みんなのためにもここはがんばらないと。


 会話が終わって、さりげなくその場を離れるマルーン。

 ふわりと浮き上がった僕は彼女の役割を引き継ぐように、さっきまでマルーンがいた場所へと進んだ。



「ヤクモ!」

 相棒の名前を呼んだ瞬間、灰色の男がみじん切りになった。

 元はといえば、魔法で逃げられるのを防ぐために見えない糸で拘束する作戦だったけど、攻撃にも使えるのは実験で確認してある。

 ……相手が普通の人間だったら、かなりスプラッタな光景になってたな。粘土のゴーレムっぽい相手で助かった。


 ——すーっ……。オオォォォオオオオオッッ!


 大きく息を吸い込んで、男めがけて炎のブレスを吐く。

 前に実験した時とは違う、まったく遠慮しない本気のブレスだ。


 ——アアァァァオオオォォォンッ!

 ——ヒャアアァァァァアアアァァァ……


 同じ目標めがけて上空から二本のブレスが降り注ぐ。

 見なくても感覚だけでわかる。トパーズとニンフェアだ。

 二人とも僕のブレスにあわせて高熱のブレスを吐いている。


 三本のブレスが一点に集中し、網膜が焦げそうなほどの輝きを放つ。

 周りの空気まで巻き込んで、空間そのものが爆発したみたいだ。

 地面を流れていたマグマまで、一瞬で気化して虚空に消える。

 ブレスの重ね掛けによる超高熱。プラズマ化。原子核崩壊。

 この世界で僕の知識がどこまで通用するか謎だけど、この瞬間、目標とした場所は太陽の中心部を超えるぐらい熱くなったと思う。


 厚い鱗に包まれた身体でも感じ取れるほどの熱気。

 この距離にいて、この程度ですんでる古龍の身体ってすごいな。人間の姿のままだったら危なかった。

 ……マイヤーたちは大丈夫かな?

『マルーンさんとルビィさんが、それぞれ魔法障壁を展開しました。全員、問題ありません』

 ……それは良かった。

 さて、この先どうなるかな?


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