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8 白い仮面の男(前編)

「ピーゥ……。ピーゥピーゥ……」

「あっ、来たみたいです」

「そう……。思ったより早かったわね」

 どこまでも続く灰色の空。肌を刺すほど冷たい空気。

 小ニール湖の南岸にある廃墟と化した街の近く。

 僕とマルーンは崩れ落ちた門の前に並んで立っていた。


「屋根付きの馬車が二台……。乗ってる人は見えないけど、御者は普通の人間に見えます。あと、二十分ぐらいで到着するのかな? たぶん、それぐらいだと思います」

「ありがとう、ソウタ君。助かるわ」

 上空を飛んでいるトパーズの視界を借りて、古い街道を北上してくる馬車を確認する。

 長い間、誰も整備してないのだろう。いろんな場所で石畳が乱れていて、馬が走りにくそうにしているのが気になった。


「……やっぱり、ソウタ君も避難してた方がいいんじゃないかしら?」

「僕なら大丈夫ですよ。ちゃんと準備はしてありますし、戦闘が始まったらヒイラギに守ってもらいますから」

「ふみゃあぁぁあ〜」

 抱っこしているルビィも大きなあくびで賛成してくれる。

 ……賛成してくれてるんだよね?


 個人的には僕よりマイヤーが気になるんだけど——

「私がソウタ様をお守りします。どんなことがあっても、必ず……」

 チラリと後ろを向くと、真剣な表情のマイヤーと目があった。

 その横ではパーカーさんが、楽しんでいるような困っているような複雑な表情を浮かべている。

 マイヤーは冒険者風の服装だけど、パーカーさんはいつもの執事服だ。


 ……この二人なら大丈夫かな?

『マスターとマイヤーさんには抵抗力を上げる魔法をかけてあります。少なくとも、簡単に意識を操られるようなことはないはずです』

 マルーンとパーカーさんは元々抵抗力が異常に高いので、魔法で引き上げる必要はないそうだ。

 ……ありがとう、リンドウ。この後も頼りにしてるよ。

『お任せください!』



 マルーンやパーカーさんと対応を確認している間に、二台の馬車が到着した。

 御者は僕たちを見てびっくりしたみたいだけど、こちらには声をかけようともせず、少し離れた場所に馬を止める。


 一台目の馬車から五人。二台目の馬車から四人。

 真っ赤な目をした人。大きなツノがある人。背中に翼が生えている人。太い尻尾が目立つ人……。降りてきた人は全員魔族かな?

 年齢も性別もバラバラだけど、服装は全員統一されている。

 少し前に大聖堂で紹介された司教の服に似てるけど、こっちは灰色の布地がベースになってるみたいだ。


 これで全員かと思っていたら、二台目の馬車からもう一人降りてきた。

 白い仮面をつけたカーニバルが似合いそうな服装の人物。

 横に居るマルーンから緊張感が伝わってくる。

 ……交渉は全てマルーンに任せて、僕はこのまま待機——


「何事⁉」

「なにっ⁉」

「……えっ?」

 いきなり、目の前の景色が真っ白になった。

 熱を感じることもなく、衝撃が襲ってくることもない。

 ちゃんと目を開けてるはずなのに、全ての視界が白く塗りつぶされて何も認識できない状態。


「ピーゥピーゥ‼」

「トパーズ? ……ああ、うん。そういうことか。先にひとこと言って欲しかったけど……。ありがとう、助かったよ」

「ピーゥ!」

 すーっと白い景色が消えた時、そこに残っていたのは二台の馬車と白い仮面の男だけだった。


「……何があったの? ソウタ君」

「アンデッドの匂いがしたから、まとめて浄化したそうです。トパーズが」

 上空をフェニックスの姿になったトパーズが、どこか自慢げな表情で気持ちよさそうに飛んでいる。

 よく見ると馬車から降りてきた魔族らしき人たちが立っていた場所に、白い灰と灰色の服が残っていた。

 ……ドラゴンゾンビ戦で活躍できなかった鬱憤を、普通のゾンビ相手に晴らしたのかな? 僕の考えすぎか?


『馬と御者は普通の生物だったので、安全な場所に転送しておきました』

 ……リンドウもありがとう。助かるよ。



 残ったのは白い仮面の男一人だけ。

 ……交渉するとしても戦闘するとしても、かなり有利な状況になったのでは?

 そんなことを考えていたら、仮面の男が司教っぽい服のひらひらした部分に手を入れて、中から小さな人形を取り出した。

 そのままぽいっと放り出すと空中で人形が大きくなり、人間サイズになって地面に降り立つ。

 馬車から降りてきた人たちとよく似た服装。この人(?)も魔族っぽい。


「ピーゥ‼ ピーゥピーゥ!」

「あっ……」

 白い光が視界を横切り、人間サイズになったばかりの人形を直撃した。

 人形の身体が白い灰となり、支える者がなくなった灰色の司祭服がふわふわと崩れ落ちていく。

 わざわざ確認しなくてもわかる。今のもトパーズのブレスだな。


「……何体ゾンビを出しても無駄みたいね」

「このためにフェニックスを夏の大陸から連れてきたのかい? 英雄さん」

 僕を守るように一歩前に出たマルーンが、白い仮面の男に話しかける。

 男は思ってたよりずっと若い声だった。聞いた感じだと十代後半ぐらい?

 中学生って言われても信じちゃうぐらいの声だ。


「私のことを知ってるのね。だったら、このあと何が起きるのかもわかるでしょう?」

「先に理由を教えてもらえるかな?」

「理由はいくつもあるけど、一番大きいのは仇討ちよ。あなたに殺された悪魔族の恨み……。ここで全て晴らすわ」

「なんだ、そんなことか。でも、あれは悪魔族の方が悪いんだよ。わざわざ僕が部下になるよう誘ってあげたのに断ったんだから。だから、滅ぼされても仕方がないよね?」

「話にならないわね。それじゃあ、はじめさせてもらうわよ」


 ——スチャッ……。キーンッ!


 剣を抜く音が聞こえた瞬間、マルーンは仮面の男の目の前に居た。

 強烈な閃光が視界を縦に走り、白い仮面が二つに割れて落ちていく。


「この仮面が切られるなんて、なかなか良い剣を持ってるみたいだね。だったら、僕も少し本気を出させてもらおうかな?」

 灰色の肌。漆黒の眼。鼻も口も見当たらない顔。

 仮面の下に隠されていたのは、仮面と大差ない顔だった。


 ……なんだかゴーレムっぽい? 気のせいかな?

 肌の感じが石像使い(ゴーレムマスター)のおじいちゃんにもらった灰色の粘土に似てる。鼻や口がないところもゴーレムみたいだ。

 ちょっとデザインがおかしいというか、子供が思いつくままに作った粘土細工のようにも見えるけど。


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