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7 大司教からの依頼

 アラベスやマイヤーに手伝ってもらって、ヤクモの動きを確かめてみた。

 見えない糸で罠を張って相手を拘束するのはもちろんとして、魔法を使えないようにする糸とか相手をこっそり眠らせる糸とか、かなり自由に使い分けできるみたいだ。

 普通の蜘蛛の糸からハサミでも切れないぐらい頑丈な糸まで、糸の強度も自由に選べると。

 ……これで、白い仮面の男対策はバッチリかな?

 他にも用意できることがないか、しばらくのんびり考えよう。


 念のため、屋敷で働いている人たちにもヤクモを紹介しておいた。

 これで、普通の蜘蛛と間違えて退治されることはないだろう。



 いろいろ実験しているうちに日が過ぎて、春の女神休みが始まった。

 住み込みで働いている人の多くが実家に戻ったみたいだけど、僕の生活はほとんど変わらない。ちゃんとエミリーさんが、最低限必要な人数は残るように手配してくれたおかげだな。

 いつもと違うのは、昼ご飯や晩ご飯でマイヤーの料理が出てくる回数が増えたことぐらいか。

 煮込みハンバーグがすごく美味しかったです。


 休みなしでマイヤーは大変だと思うけど、いつもより機嫌が良さそうに見えるから問題ないんだろう。たぶん。

 ちなみにエミリーさん本人は、女神休みの期間が終わって休んでいた人がみんな戻ってきてから休みをとる予定になっているそうだ。

 ずっとお世話になりっぱなしだし、ゆっくり休んできて欲しい。


         ☆


「ソウタ様。ミセントラ大聖堂から先触れが届きました」

 工作室でルビィの背中をのんびり撫でていたら、部屋に入ってきたマイヤーから声をかけられた。

「……大聖堂から? 僕に先触れが?」

「はい。都合が良い日時に、大司教がこちらを訪れたいとのことです」

「えっ? えーっと……。大司教ってすごく偉い人だよね?」

「そうですね。簡単に言うと教会で位階が一番高い人です」

「そんな人が僕の屋敷に? 理由は聞いてるの?」

「こちらをどうぞ。ソウタ様へのメッセージだそうです。念のため、危険な物が入ってないか確かめさせていただきました」

 マイヤーから手渡された封筒は、既に蝋の封印が解いてあった。


「ありがとう。それで内容は……。あー……あの樹の件か……」

 年が明けてから行われた全国の司教が集まる会議で、生命の樹と夫婦の樹が復活したことを公開したこと。

 その結果、一部の大きな教会から自分たちにも寄越せと圧力をかけられていること。

 可能であれば両方の樹を複数用意して欲しいことなどが、丁寧な筆遣いで手紙に書かれていた。


「この手紙で用件はわかったし、大司教に来てもらうのは気が引けるし、樹が用意できたらこっちから持っていくって感じにできないかな?」

「問題ないと思われます。先触れにはそのように伝えましょう」

「あっ、そうそう。樹はいくらでもできるけど植木鉢がないと運べないから、植木鉢がどれぐらい余ってるか、庭木係の人に聞いて来てもらえる?」

「了解しました。すぐに調べてきますね」

 ……足りないようだったら、植木鉢も粘土で作れば良いかな?



 先触れとのやりとりは全てマイヤーにお任せ。

 特に大きな問題もなく、こっちの要望が通ったみたいだ。

 あとは僕が生命の樹と夫婦の樹を作って、大聖堂に持っていくだけ。


 調べてもらったところ、ちょうど良いサイズの植木鉢が屋敷の倉庫に十六個もあった。これから暖かくなるにつれて、庭木の植え替えや花を増やすのに使う予定だったらしい。

 同じような依頼がまた来るかもしれないし、植木鉢を多めにストックしておくようにお願いしておいた。


 庭木係の人に頼んで植木鉢に適当な土を入れてもらって、下働きの人に頼んで工作室へと運んでもらう。

 僕は白い粘土を使って苗木を作り、植木鉢へと順番に植えていく。

 小ニール湖の近くで浄化の樹を何本も作ったおかげかな? 植物を作るのにも慣れたみたいだ。

 そんなに急いで作業したつもりはなかったんだけど、翌日の午前中には生命の樹と夫婦の樹をセットにして八組分が完成した。

 とりあえずこれだけ納品して、足りないようならまた作れば良いだろう。



 数日後。

 マイヤーに日時を調整してもらって、生命の樹と夫婦の樹を植えた植木鉢を大聖堂まで納品しに行った。


 前に行った時も対応してくれたヴァレッラさんが、わざわざ大聖堂の前で出迎えてくれて、奥の関係者しか入れない部屋に案内されて、大司教からすごく丁寧な挨拶をされてびっくりした。

 どうやら、大司教が持っている女神の指輪経由で女神様から助言があったみたいで、教会関係者の間で僕の評価がすごく高くなっているらしい。

 僕は粘土が好きなだけの一般人だって言ったんだけど……。信じてもらえてない気がする。

 目立つのは好きじゃないので、名前を出して大々的に聖人認定するのは止めて欲しいとお願いしておいた。


 それはともかくとして、前と同じように転送魔法を使って屋敷の工作室に置いてあった植木鉢を一気に運んで納品完了。

 これで依頼は完了だと思ってたから、報酬についてヴァレッラさんから相談されて困ってしまった。報酬の話になるなんて考えてなかった。


 困ってる僕を見かねて一緒に来ていたユーニスが間に入ってくれて、報酬の話は全てユーニスにお任せすることになった。

 ユーニスなら良い感じにまとめてくれるだろう。


 大聖堂を出た後はミセントラの街を軽く観光してみた。

 春の女神休み期間ということで、人が多くて活気に満ちている街。

 屋台で売っていたそば粉のクレープがとても美味しかった。

 僕がお金を出すのをアラベスとマイヤーが許してくれなくて、結局、全員の分をユーニスが出すことになったけど良かったんだろうか?


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