6 縁を操るもの/ヤクモ
パーカーさんから依頼された件について、真面目に考えてみた。
転送魔法を妨害するだけなら何とかなりそうだけど、本当にそれだけで良いのかな?
指定した場所に一瞬で帰る魔法を使われたら?
前にマーガレットから転送に使える魔術具があるって聞いた覚えがあるし、逃げるだけなら他にも方法があるかもしれない。
大事なのは、パーカーさんの仇に逃げられないようにすることだよね?
かなり期待されてるみたいだし、できるだけの準備はしておこう。
……手っ取り早いのは、逃げた相手を召喚魔法で呼び戻す方法?
『事前にマスターが認識しておけば召喚対象として指定可能ですが、相手の魔力によっては抵抗される可能性があります。確実に成功するとは言えません』
まぁ、そうだよねぇ。召喚魔法がそこまで万能だったら、廃れたりしないで今でも便利に使われてるだろうし。
……もっと他の方法は……。魔法を使えない結界を張る?
『その場合、敵だけでなく味方も魔法を使えなくなってしまいます。魔術具を使った転送は防げないので、この場合はふさわしくないでしょう』
……転送魔法だけピンポイントで邪魔する結界は?
『難易度は高いですが不可能ではありません。ですが、魔術具を使った転送を防げないという点で、魔法を使えない結界と同じことになるかと』
……なかなか難しいなぁ。
でも、そんなに簡単に防がれたら僕たちが逃げる時に困るか。
時間はまだあるみたいだし、ゆっくり考えようか。
『私の方でも何か良い方法がないか考えてみます』
☆
マーガレットを連れて屋敷に戻って数日後。
近くの森を散歩している途中で閃いた。
きっかけになったのは、枯れ枝に残っていた古い蜘蛛の巣だ。
……魔法や魔術具を使っても転送できないように、相手を拘束してしまえば良いんじゃないかな?
切れない糸で相手をぐるぐる巻きにして、どこかに繋いでおけば転送もできないだろう。
屋敷に戻って、そのまま真っ直ぐ工作室へ。
自然と湧き出たイメージは田舎のおじいちゃんの家で見た大きな蜘蛛だ。
大きさは僕の手の平と同じぐらいかな? もっと大きかったかもしれない。
蜘蛛は家を守ってくれるから大事にしないといけないって、おじいちゃんが言ってたっけ。
身体は頭と腹に分かれていて、長い脚が八本あって短い腕が二本。
屋敷で働いている人に見つかっても怖がられないように、少し可愛い感じにデフォルメしておこう。
全体的に目立たない色合いで、脚や身体には短い毛が生えている。
お尻から出した糸で木の枝や天井からぶら下がれるのはもちろんとして、敵を捕まえたり後をつけるのにも使えるようにしよう。
……魔法が使えると便利かな?
いろいろ便利な気がする。うん、そうしよう。
あとは、一匹でも広い範囲をカバーできるようにしたいけど——
「みゃあ〜」
机の隅でひなたぼっこしてたルビィが可愛い声で鳴いた。
「ルビィ……? ああ、そういうことか。それじゃあ、ルビィの得意技を使わせてもらうよ」
「みゃあっ」
ルビィからの提案を受けて、分身の術を使えるようにしてみた。
「あとは、実際に動いてるところを見てチェックを……。仮初めの石像!」
完成した像に手をかざして呪文を唱えると、蜘蛛がすっと右手を挙げて挨拶してくれた。
「どうかな? 動きにくいとか、おかしな感じはしない?」
八本の脚を器用に動かして前後左右に移動する蜘蛛。
目に関しては僕の趣味で、大きな目が二つに小さな目が二つある四眼構成にしたんだけど、問題なく周囲を認識できているようだ。
「うんうん。良い感じに動けてるみたいだね。おお〜……」
生まれたばかりの蜘蛛が机の上を走って床へと飛び降り、そのまま壁をするする登って天井へと貼り付き、糸を使ってすーっと降りてくる。
机の上の元いた場所へと音もなく着地して、すっと右手を挙げて動きに問題ないことを教えてくれた。
……造ったばかりのオニキスを思い出すなぁ。
蜘蛛だから、しゃべれないのは仕方がないかな?
そのうち成長すれば……。しゃべる蜘蛛って何だろう?
女郎蜘蛛? 女郎蜘蛛は日本の妖怪だから違うか。この世界に似合うのはアラクネかな?
どんな感じに進化するかは、本人の判断に任せよう。
「問題なさそうだしこれで完成、と。……生命創造!」
蜘蛛の身体が一瞬ピカッと光った。
表情は変わらないけど勢いよく腕を振っているところを見ると、蜘蛛も喜んでくれているようだ。
「お前の名前はヤクモだよ。これからよろしくね」
なんとなく直感で思いついた名前をそのまま採用。
……気に入ってくれたのかな?
ヤクモの大きな二つの目が宝石のように輝いた。




