5 最後の悪魔
報酬の話がなんとなくまとまったところで、パーカーさんから詳しい情報を聞かせてもらった。
白い仮面の男が現れると予言されたのは小ニール湖の湖岸にある廃墟と化した街で、時期としては今月の下旬になる可能性が高い。
どうやら、ドラゴンゾンビが消えた理由を確かめに来るみたいだ。
仮面の男は死霊術師として優れたスキルを持っていて、古龍の遺体がドラゴンゾンビになった経緯にも関わっていると予想されている。
もちろんそれだけでは無く、大勢の意識を同時に操るようなスキルも持ってるし肉体を使った戦闘にも長けている。
その上、常に複数の部下が身を守っていて、そのほとんどが魔族大戦時代の魔王クラスの実力を持っている、と。
転送魔法を使う部下の正体は、何らかの理由で堕落した天使だと予想されているのね。
……まとめてしまうと、前にマルーンが倒した死霊術師の上位互換ってことでいいのかな?
とりあえず、その程度の理解で良いみたいだ。
☆
「すみません。僕からも一つ、お願いしたいことがあるんですけど……。仮面の男とは関係ない話かもしれないですけど、良いでしょうか?」
「もちろん、ソウタ君のお願いならいつでもOKよ。何でも言ってみて」
「お願いしたいのはパーカーさんで……。今は人間の姿をしてるけど、パーカーさんって本当は悪魔族なんですよね? もし良かったら、そのぉ……。悪魔族の姿を見せてもらえないでしょうか?」
前にマイヤーから尻尾や翼を見せてもらったけど、パーカーさんは他の種族の血が混ざってない純粋な悪魔族だそうだし、どんなところが違うのか、話を聞いてる途中からずっと気になってんだよね。
「それぐらい、お安い御用です。では……。はっ!」
僕から見えやすい位置へと移動して、パーカーさんが軽く息を吐く。
次の瞬間、そこに最後の悪魔が現れた。
先の尖った黒い角。太くて長い尻尾。
大きな黒い翼。羽の形は烏に似てるかな。
眼鏡の奥で、白目だった部分が黒くなり、黒目だった部分が燃えさかる炎のような赤色になっている。
姿が変わっても服や眼鏡は変化しないみたいだ。
マーガレットがマルーンに変身する時みたいに、服装まで変わってもおかしくなさそうだけど。
「背中の翼が目立つぐらいで、そんなに変わらないでしょう?」
「そう言われるとそう……。かな……?」
マーガレットはこの姿にも慣れてるみたいで、パーカーさんの方を見ようともせずにお茶を飲んでいる。
ユーニスやアラベスの視線は魅入られたように釘付けになっていた。
マイヤーの表情は……何だろう? 驚いてる? 微妙に興奮してる?
悪魔族の姿になったパーカーさんを見ていると、何故か妖魔の森で会った壮年の天使を思い出した。
「……この世界でも、天使と悪魔って仲が悪いのかな?」
「いえ、そんなことはないですよ。天使族も悪魔族も、どちらも女神にお仕えするために産み出された種族という点で共通していますから。働く場所こそ違いましたが、同僚のようなものです」
勝手に口から漏れた質問に、パーカーさんが丁寧に答えてくれた。
「浮島で天使が女神様のために働いているのを見ましたが、悪魔族が働いていた場所って……?」
「遙か昔、悪魔族は女神のために地獄で働いていたそうです。ですが、地獄に墜ちる魂が減って仕事が少なくなり、ほとんどが地上で暮らすようになったと伝わってます」
「この世界には本物の地獄があるんですね……」
「私も話を聞いただけで、行ったことはないのですが」
「あなたが地獄に行くのはまだまだ先の話でしょ」
「……そうですね。まだまだ、お嬢様のお世話をしないといけませんから」
「あらっ? それはどういう意味かしら? パーカー」
にっこり微笑んでいるマーガレットとパーカーさん。
この二人は本当に仲が良いなぁ。
「どうでしょう? ソウタ殿。もし良ければ、悪魔族としての能力についても説明いたしましょうか?」
「あっ、はい。お願いします」
生まれた時から魔力が豊富で息を吐くように魔法を扱える。
呪いが効かない体質。ハイエルフより長い寿命。
二ヶ月や三ヶ月ぐらいなら眠らなくても平気。
肉体的にも頑丈で軽い怪我ならすぐに回復してしまう。
話を聞く限り、純粋な悪魔族というのはすごい種族のようだけど、滅多に子供が生まれないのが欠点だったみたいだ。
時代が過ぎゆく間にパーカーさんが最後の一人になってしまった、と。
最後まで穏やかな表情で話してくれたけど……。こうなるまで、いろいろあったんだろうなぁ。




