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4 仕事始め

 新年の挨拶を終えたあとは、特に何事も無く三が日が過ぎた。

 午前中は工作室で粘土をいじり、昼ご飯を食べた後は散歩をして、三時になったらマイヤーが入れてくれるお茶やおやつをごちそうになって、ルビィたちと軽く遊んでから晩ご飯を食べて、暖かい寝室でぐっすり眠る。

 新しい年になっても、それまでと変わらない毎日。

 変わったところと言えば、散歩に行く時にマフラーと手袋をつけるようになったことぐらいか。



「あけましておめでとう、ソウタ君。今年もよろしくね」

「あけましておめでとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします」

 冬の城から連絡が入ったので、転送魔法でマーガレットとお付きのメイドさんたちを迎えにいった。


「あけましておめでとうございます、ソウタ殿。今年も、お嬢様をよろしくお願いします」

「あけましておめでとうございます。僕の方がいろいろとお世話になると思いますが……。よろしくお願いします」

 まずは、出迎えてくれたマーガレットとパーカーさんに新年の挨拶を。

 すぐに帰るのではなくて一泊していって欲しいと言われてたので、マイヤーに泊まりの準備をしてもらってある。

 いつものように、ユーニスとアラベスも一緒だ。


 年が変わって本格的に冬が訪れて、この辺りもかなり冷え込んだみたいだ。

 城の周りの森にも雪が積もっている。

 マーガレットの城はいつでも雪が積もっていて、周りの森は普通に季節が過ぎていて、冬になってようやく両方が一致したのか。

 これが当たり前の景色のはずなのに、違和感を感じるのが面白い。

 他の人はみんな慣れているのか、特に気にしてないみたいだけど。


         ☆


 冬の城にある豪華な喫茶室。

 大きな丸テーブルに座っている、僕とマーガレットとユーニスとアラベスとマイヤー。冬の城に居る間、専属メイドの仕事がお休みってことで、私服姿のマイヤーが珍しい。


「あらっ。ソウタ君は仕事を探してるの?」

「探してるというか、そろそろ仕事をした方がいいかなって思いまして」

「屋敷で働いている人から新年の挨拶をされて、みんなのためにも真面目に稼がないといけないって決心したそうですよ。ソウタ君は」

 顔なじみのメイドさんが入れてくれたお茶を飲みながら女性陣の会話を聞いていると、いつの間にか僕が仕事を探してる話になっていた。


「それならちょうど良いわ。私から……正確に言うとパーカーから、ソウタ君にお願いしたいことがあるの。話だけでも聞いてもらえないかしら?」

「僕にできることなら、何でも言って下さい」

「ありがとう、ソウタ君。それなら……パーカー!」

「はっ!」

 声がかかるのと同時に、マーガレットの背後に現れるパーカーさん。

「例の話をソウタ君に説明して上げて」

「了解しました」



 そもそものきっかけはバラギアン王国の先代魔王が持ってきた一枚の紙。

 そこに描かれていた人物画をパーカーが目にした瞬間、悪魔族に伝わる古い記憶が蘇った。


 白い仮面の男。

 複数の組織に部下を送り込み、大陸中に戦火を広げた黒幕。

 何千人もの悪魔族をその手にかけて、純粋な悪魔族を絶滅の危機へと追いやった張本人でもある。


 つい最近、信頼できる占いで、この男が次に現れる場所が判明した。

 ……マーガレットにもパーカーさんにもいろいろとお世話になってるし、軽い気持ちで話を聞いたんだけど、想像してたよりずっと重い話だった。


「記憶を探った結果、私の祖母を殺したのもこの男だと判明して……。お願いですから、仇討ちに協力していただけないでしょうか?」

「えっと……。何か、僕にできることがあるんでしょうか?」

「白い仮面の男は何人もの部下を引き連れていて、その中に転送魔法の使い手がいるみたいなの。私とパーカーがいれば負けることはないと思うけど、逃げられると面倒でしょう? だからソウタ君には、転送魔法の妨害をお願いしたいんだけど……。何とか出来ないかしら?」

「それぐらいなら、何とか——」


 ……転送魔法の妨害?

 リンドウが使ってるのと同じ魔法なら、実際に転送する前に空間を繋ぐ必要があるから、そのタイミングで解呪してしまえば良いのかな?

『理屈の上ではそうなりますね』

 ……何とかなりそうかな?

『お任せください』

 頭の中でリンドウから、自信たっぷりの声が返ってきた。

 念のために、他にも方法がないか自分でも考えておこうかな……。


「……うん。たぶん、何とか出来ると思います」

「ありがとうございます。ソウタ殿」

「頼りにしてるわよ、ソウタ君」

 隣に座っているマーガレットが、にっこり微笑みかけてくれた。

 この笑顔を見られただけでも、引き受けた価値があると思う。

 お金は別の仕事で稼げば良いし——

「報酬としては……。そうですね。ソウタ殿の屋敷の運営費を、百年分ほどでいかがでしょうか?」

「えっ?」

「それなら、私からも同じ額出しましょう。二人あわせて二百年分……。これだとキリが悪いかしら? いっそのこと、ソウタ君の生活費は永久に私たちが出すことにする?」

「えっ? えーっと……。そんなに頂く訳には……」


 ……僕って百年先でも生きてるんだろうか?

 ……二人とも時間の感覚が人間とずれてるのでは?

 ……二百でキリが悪いのなら、二人で百年分出せば良いんじゃないかな?

 いろいろと突っ込みたいセリフが頭に浮かんだけど、マーガレットに微笑みかけられると口に出せなかった。


 そもそもの話で言うと、屋敷の運営にかかるお金は今でもマーガレットが出してくれているはず。いつまでもこの状況は良くないと思うから、自分でお金を稼ごうとしてたんだけど……。

 助けを求めてユーニスが座っている方に視線をやると、綺麗なエルフのお姉さんは菩薩のような笑みを浮かべて僕を見ていた。


「この二人の意見が一致したら覆すのは不可能だから。諦めて、素直に受け取っておきなさい。ソウタ君」

「転送魔法を妨害できる人なんて他に見つからないと思いますし、それほど無茶な報酬でもないと思いますよ。お師匠様」

「あー……。そう言われるとそうなのかなぁ……」

 アラベスはこれぐらい当たり前だと思ってるみたいだ。

 口には出さなかったけど、表情を見る限りマイヤーも同じ意見なんだろう。

 依頼内容に対して報酬が高すぎる気がするけど、そこは本番でしっかり仕事をすれば良いかな? そういうことにしよう。がんばろう。

 ……どうしてこのタイミングで、ルビィが大きく頷いてるのかな?


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