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3 年始の挨拶

「あけましておめでとうございます、ソウタ様。今年もよろしくお願いします」

「あけましておめでとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします」

 マイヤーが新年の挨拶をして、僕も同じように挨拶を返す。

 いつもなら工作室で粘土を触ってる時間。

 今日は来客を迎える時に使う部屋で、住み込みで働いている人から新年の挨拶を受けていた。


 僕の専属メイドであるマイヤーが最初に来て、次に来たのが使用人をまとめてくれているエミリーさん。

 そこから先はメイド、執事、庭木係、馬屋係、料理人といった感じで受け持っている仕事ごとにグループで来てくれた。

 ……今はユーニスやアラベスも住んでるとはいえ、基本的には僕ひとりのために二十人近い人間が働いているのか。

 大きな屋敷で快適な環境を維持しようと思ったらこれぐらいの人数が必要なのかもしれないけど、日本の感覚で言うとすごいことだと思う。


 冒険者として最後に依頼を受けたのは去年の夏。

 バラギアン王国まで話を聞きに言ったらアラベスのお父さんが待ってて、最後はマーガレットが英雄の姿になって死霊術師(ネクロマンサー)を倒してくれたっけ。


 ……去年の夏? つまり、半年前?

 その後はレベル4の魔獣を見に行ったりドラゴンゾンビを退治したりしてたけど、どっちも報酬には繋がってない。

 屋敷の主として、そろそろ真面目に働かないといけないな。



「ソウタ様。この辺りでも、一月や二月には雪が積もるほど冷え込むことがありますから、よろしければこちらをお使いください」

「ソウタ様。こちらは自分たちで素材を集めて、職人に頼んで作ってもらった手袋です。気に入ってもらえると良いのですが……」

 挨拶を受けている途中で若いメイドさんから手編みのマフラーを、庭木係の男性から革の手袋をプレゼントされた。

 マフラーは大きめのサイズで肌触りが良く、見た目にも暖かそうだ。

 革の手袋は裏地までしっかりした作りで、貴族が使ってもおかしくないような仕上がりになっている。


 後でそれとなくエミリーさんが教えてくれたんだけど、これらのプレゼントは去年の秋に臨時の休みをもらった人たちからのお礼だそうだ。

『実家の畑が豊作で、帰ってきて収穫を手伝って欲しいと言われている』

 何か手伝ってもらってる時にそんな話を聞いて、希望してる人には休みをあげて欲しいってエミリーさんに言ったんだっけ。

 あれは確か、僕がダイヤモンドランクになる前だから……。木彫りの動物を作るのにハマってた頃かな?


 住み込みで働いている人が長い休みをもらえるのは春の女神休みの時期だけって契約になってるけど、屋敷の主である僕がエミリーさんに話を通したから臨時で休みをもらえたと。

 その時のお礼として女性たちがマフラーを、男性たちが革の手袋を用意してくれたようだ。


 念のため、どうするのが正解だったのかエミリーさんに聞いてみたけど、屋敷の主は僕だから僕の判断で休みを与えて問題ないみたいだ。

 ただし、一部の者だけを贔屓するようなことがあると使用人の間でトラブルが起きやすくなるので、そこは気を使った方がいいと。

 人間関係のトラブル……。僕の一番苦手な分野だ。

 いろいろ任せてしまって申し訳ないけど、問題が起きそうなら早めに教えてくれるよう、エミリーさんにお願いしておいた。

 エミリーさんなら問題が起きる前にどうにかしてくれそうだけど。


         ☆


「あけましておめでとうございます。今年もよろしくね、ソウタ君」

「お師匠様。あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

 午後になって、今度はユーニスとアラベスから新年の挨拶を受けた。

 ずっと僕の屋敷に住んでるし今日の昼も一緒に食べたけど、区切りの挨拶はちゃんとしておかないと落ち着かないみたいだ。


 二人と軽く話をしたあとで、リンドウにお願いして転送魔法で小ニール湖へと送ってもらった。

「あけましておめでとうございます。いろいろ大変だと思うけど、これからもよろしく頼むよ。ニンフェア」

「こちらこそよろしくお願いします。マスターのお力になれるよう、これからも努力します」

 まずはニンフェアを呼んで新年の挨拶。その流れでオニキスとヒイラギに人間サイズになってもらって、リンドウにも人の姿を出してもらって、同じように挨拶をしておいた。

 ルビィとトパーズには初日の出を見た時に挨拶したし、これでもう、挨拶をしないといけない人は残ってないはず。

 ……マーガレットへの挨拶は城まで迎えに行った時で良いのかな?

 念のためにユーニスに聞いてみたけど、それで問題ないみたいだ。


 小ニール湖のほとりにはチラチラと雪が降っていて、プレゼントしてもらったマフラーと手袋が早速役に立った。


         ☆


「あけましておめでとうございます、ソウタ殿。これからも、我が村の海産物をよろしくお願いします」

「はじめまして、ソウタ殿。あけましておめでとうございます。村の若い者からソウタ殿は鳥の肉が好物だと聞きまして、我が村とも取引をお願いしたくて挨拶に伺いました。どうぞ、よろしくお願いします」

 これで、新年らしい行事は全て終わったと思っていたら、翌日の午後になって近くの村の村長さんが挨拶に来た。同じタイミングで二人も。

 いきなりで驚いたけど、無難に挨拶できたと思う。


 それぞれ、僕の屋敷から見て西の海沿いにある村の村長さんと、東の山を越えた先にある村の村長さんだ。

 そして新年の挨拶だけでなく、西の村の村長さんからは美味しい牡蠣を、東の村の村長さんからは食べ頃の鴨肉を手土産にもらった。


 海沿いの村は前から知ってる。屋敷の食事に出てくる海の幸は、ほとんどここから仕入れてるはずだ。

 けど、山を越えた先にある村からわざわざ新年の挨拶に? トパーズに乗って飛んでる時に、村があるのを見たような記憶があるけど……。



 あとでエミリーさんが説明してくれたんだけど、屋敷で庭木係を務めている人の友人が山を越えた先の村にいるらしい。

 その関係で僕のことを知って、村の名産品を売り込みに来たみたいだ。

 早速、その日の夕飯に牡蠣を使った料理と鴨肉のローストが出てきたけど、どちらもすごく美味しかった。一緒に食べていたユーニスやアラベスも気に入ったみたいだ。

 どこから食材を仕入れるのかはエミリーさんと料理長にお任せだけど、感想を伝えておいたからあとは良い感じに手配してくれるに違いない。


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