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2 初日の出

『マスター……。まもなく日の出の時間です。起きてください、マスター』

「んっ、んんんん〜……。おはよう、リンドウ……」

 広いベッドで何度か寝返りを打って、ようやく頭がはっきりしてきた。

 ……思い出した。

 天気が良かったら初日の出を見ようと思って、その前に起こしてくれるようにリンドウに頼んでたんだ。


『三分後に太陽が顔を出します。お急ぎください』

「うん。わかったよ……。それじゃあ、そろそろ起きようかな……」

「みゃあ〜みゃあぁ〜」

 ゆっくり毛布をめくってのろのろとベッドから降りると、同じ毛布にくるまっていたルビィから名残惜しそうな声が聞こえてきた。

「ごめんごめん。ルビィはそのまま寝てて良いから」


 椅子に放り出してあった厚手のガウンを着込み、大きなあくびをしながらベッドルームを出る。そのまま足を止めずにリビングの窓からバルコニーに出ると、冷たい空気が頬を刺した。

 ほんのり明るくなっている空。

 耳をすますと穏やかな波の音が聞こえてくる。

 ぎりぎりだけど、初日の出に間に合ったみたいだ。


「さすがに寒いなぁ……。ちゃんと着替えてくるべきだったか?」

 屋敷の中はセントラルヒーティングが効いていてどの部屋も暖かいから忘れがちだけど、外に出ると冬の朝らしい冷え込みを実感してしまう。

『すぐに結界を張って暖めますね』

「ありがとう、リンドウ」

 僕が返事をするよりも早く、周りの空気が暖かくなってきた。

 本当に魔法って便利だな。



「日の出だ……」

 眩しい光。

 オレンジ色に空が染まり、太陽の頭が顔を出す。

 自分の目で日の出を見るのは久しぶりだけど、日本でも異世界でも大きな違いは無いみたいだ。


「父さんや母さんは元気にしてるかな……」

 いつも物静かな父と身体を動かすのが好きな母。

 両親と最後に会ったのは一年前の年末に帰省した時で、あの時は二人とも元気そうだった。同じタイミングで帰省していた兄さんのところに子供が生まれるって聞いて、二人とも喜んでたっけ。

 ……みんなが元気なら、それで良いかな。


「みゃあっ! みゃあみゃあ」

「えっ⁉ ルビィ?」

 慌てて振り向くと、いきなり白猫が胸に飛びついてきた。

 怖い夢でも見たのかな? ゴロゴロとノドを可愛く鳴らしながら、僕の頬に鼻先を擦り付けてくる。

「心配しなくても大丈夫だよ。僕ならここに居るから……。それじゃあ、一緒に日の出を見ようか」

「みゃあぁぁ〜……」

「……今年もよろしくね。ルビィ」

「ふみゃあ〜」

 背中を撫でてやるとルビィも少し落ち着いたようだ。

 僕の胸に抱きついたまま、器用に首だけ回して太陽の方を向いた。


「ピーゥ! ピーゥピーゥ……」

「トパーズも来てくれたんだね」

 聞き慣れた大鷲の鳴き声が聞こえてくる。

 いつの間にか、西の空をトパーズが飛んでいた。

 ……朝日を受けて飛ぶトパーズもかっこいいな。


 大鷲が綺麗な弧を描いてコースを変え、滑らかに速度を落として僕たちが居るバルコニーへと降りる。

「ピーゥピーゥ!」

「おはよう、トパーズ。今年もよろしくね」

「ピーゥ!」

 優しく頭を撫でてやると、トパーズは気持ちよさそうに目を細めた。


 ——ガチャ……


「おはようございます、ソウタ様。こんな時間に何かあったのでしょうか?」

 大きな窓が開いてリビングからマイヤーが現れた。

 僕がいつも起きる時間よりずっと早いのに、上から下まできっちりメイド服に身を包んでいる。


「あー……。起こしちゃったかな? 初日の出を見ようと思って、リンドウに起こしてもらっただけなんだけど」

「初日の出、とは……? ソウタ様が生まれた世界の風習でしょうか?」

「そんな感じかな。年が明けて最初の日の出を見ると、良いことがあるとかおめでたいとか、そんな風に言われてるんだよ」

「そうなのですね。それでは、私もご一緒させてよろしいでしょうか?」

「もちろん良いよ」

 綺麗なメイドさんと並んで初日の出を見る。

 まさかこんな日が来るなんて、想像もしてなかったな。


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