8 古龍訪問
いきなり押しかけてきた水源龍とニンフェアの関係について。
人生経験豊富なマーガレットとユーニスに手助けしてもらって、何とか二人を良い感じに説得できたと思う。
水源龍には『焦りすぎは禁物。まずはお友達の関係から始めて、徐々に仲良くなるのを目指しなさい』と説得して、ニンフェアには『ご近所さんなんだから一方的に嫌ったりしないで、いざという時は助けてもらえる程度の関係を目指してみては?』と提案しておいた。
僕もまだまだこの世界について詳しくないし、ニンフェアなんて本物の龍の身体になってから十日も経ってない。二人とも知識や経験が不足してるのは間違いないだろう。
その点、遙か昔からこの世界を見守ってきた古龍ならいろいろなことを知ってるだろうし、いざという時に力になってくれるのでは?
ニンフェアに惚れてるのなら、敵に回ることはないよね?
途中からマーガレットとユーニスとニンフェアの三人で話をしてて、『しつこい男のあしらい方』とか『長く貢がせる方法』とか、不安になるようなキーワードが聞こえてきたのが気になるけど、きっと大丈夫だろう。
水源龍が押しかけてきた日の翌日。
同じようにニンフェアから連絡が入って小ニール湖に行ってみると、そこには巨大な赤い龍が居た。
身体全体のシルエットは氷龍山脈で会った古龍とよく似てる。
燃えるような赤から暗黒色へとグラデーションを描く鱗。
鮮やかなオレンジ色の瞳。背中の翼は少し大きめかな?
赤くて大きな古龍は氷龍山脈の古龍と同世代で、兄弟からは火山龍と呼ばれているそうだ。
春の女神から話を聞いて、とりあえず顔を見に来たと。
普段は大陸の北西にある小さな島を根城にしているらしい。
可愛い妹ができたと思ってニンフェアを歓迎する。困ったことがあったらいつでも力になるから遠慮無く連絡して欲しいと言って帰って行った。
爽やかな笑顔と丁寧な言葉遣いが印象的な古龍だった。
さらに数日後。
小ニール湖に行ってみると、山のように大きな龍が僕を待っていた。
ウォータードラゴンが合体した時も大きかったけど、こっちの方がずっと大きいと思う。持ち上げた頭が雲に届きそうだ。
……このサイズは生物としての限界を超えてるのでは?
何を食べて生きてるのか、血圧はどうなってるのか、このサイズで空を飛ぶのは無理があるんじゃないかとか、いくつもの疑問が脳裏をよぎる。
いつか、何でも質問できるぐらい仲良くなったら聞いてみよう。
山のように大きな龍は陸龍と呼ばれているそうだ。
白の女神が最初に造った三体の古龍のうちの一体で、長男として兄弟のまとめ役をしていると。
『ドラゴンゾンビの件で人間たちには迷惑をかけた』
『ここにニンフェアが住むのは問題ない。周囲の環境も好きにして良い』
『ついでに、白の女神について知ってることがあったら教えて欲しい』
こんな感じの話をして帰って行った。
……ニンフェアの顔を見に来たって言ってたけど、白の女神の話を聞くのが本当の目的だったのかな?
なんとなくそんな気がしたので、白の女神に会う機会があったら陸龍が会いたがってたって伝えておこう。
ふわふわと空を飛んで帰る陸龍を見届けたあとで、古龍と会った感想をニンフェアに聞いてみた。
「昨日来た火山龍となら今の私でも良い勝負になると思いますが、陸龍を相手にするのは厳しそうです。もっと身体を鍛えないと……」
「みゃあっ!」
「……最初から戦うことを考える必要はないのでは?」
身体を鍛えるのは良いとして、どうしてルビィが賛成してるのかな?
僕にはわからないけど、何か深い理由があるんだろう。たぶん。
「お師匠様……。前にお師匠様から竜に関する情報を集めるように指示されましたが、これ以上の情報が必要でしょうか? ギルドの情報網を駆使しても、第一世代の古龍と直接会って話をした人を満足させられるような情報は出てこないと思われるのですが……」
古龍との会話に加わることはなかったけど、アラベスはアラベスで毎日大変だったみたいだ。何かに疲れたような顔をしている。
「あー……。それじゃあ、古龍の情報はもう良いから、普通の竜について調べてもらえる? 普通の竜にも一度は会ってみたいから」
「了解しました。それなら何とかなると思います」
あとからユーニスに聞いた話だけど、大陸の西にある国や街で古龍が上空を通過して大きな騒ぎになってたそうだ。
……これは、僕が原因じゃないよね?




