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7 水源龍

『ニンフェアさんから連絡が入りました。マスター』

 いつものように朝ご飯を食べて、いつものように工作室に行こうとしたタイミングで、リンドウが声をかけてきた。

 ……連絡って? 何かあったのかな?

『詳細な理由は不明ですが、マスターさえ良ければ、できるだけ早い時間に湖に来て欲しいとのことです』

 ……午後まで待てないぐらい変わったことが起きたのかな? とりあえず行ってみようか。


「マイヤー。急な話で悪いけど、これからニンフェアの様子を見に行くことになったから、マーガレットやユーニスたちに伝えてきてもらえる? 黙っておいていくとあとで怒られそうだし」

「了解しました」

「僕は工作室に行ってるから」


 ルビィを抱っこして工作室に移動して、出かける準備を整える。

 棚からリュックを出して中身を確認したりしていると、いつものメンバーが部屋に入ってきた。

 マーガレットとユーニスとアラベスとマイヤーの四人。急な話だけど、みんな一緒に来てくれるみたいだ。

 そんな時間はなかった気がするけど、ちゃんとマイヤーはメイド服から冒険者っぽい服装に着替えてる。たぶん、早着替えにもコツがあるんだろう。


「急な話ですみません。詳しいことはわからないけど、ニンフェアに何かあったみたいなんです」

「私たちのことは気にしないで良いのよ。ソウタ君」

「冒険者なら、急な話はいつものことよ」

「ご一緒させていただきます。お師匠様」

 ベテラン冒険者らしく、全員がこの状況を楽しんでるみたいだ。

「それじゃあ、行きましょうか。コネクトスペース……。トランスポート!」


         ☆


 転送魔法の光がすーっと消えた瞬間、呼ばれた理由がわかった。

 湖の岸に手をついて水面から上半身を出しているニンフェアの隣に、見覚えのない巨大な龍が並んでいたからだ。


 見覚えのない龍のシルエットはニンフェアと似ている。

 灰色の鱗。大きなツノ。白いたてがみ。

 深緑色の瞳。太くて長い髭。

 ……髭? 東洋風の竜と言えば、髭がお約束か? 完全に忘れてた!

 ニンフェアは気にしてないみたいだし、このままで良いかな……。


「朝早くからお呼びして申し訳ありません。マスター」

 いつも穏やかなニンフェアが、微妙に緊張してるように見える。

 他の龍と会うのなんて初めてのはずだし、仕方ないか。

「それはかまわないけど……。こちらの方は?」

「我に正式な名前は未だないが、古くから水源龍と呼ばれている者だ。そなたがニンフェア殿の主で間違いないか?」

「あっ、はい。そうですけど、僕に何か用事でしょうか……?」

「では、ニンフェア殿との結婚を認めていただきたい!」


 ——ドグワッシャアアアッ‼


 派手な水しぶきに遮られてはっきり見えなかったけど、ニンフェアの裏拳が隣に居る龍のアゴをクリーンヒットしたみたいだ。

 朝の爽やかな光に照らされて、宙を舞う水滴がキラキラ光る。

 転送してきた全員を囲うようにリンドウが結界を張ってくれたおかげで、僕たちは濡れなくて済んだ。


「えっと……。大丈夫ですか?」

「おっ、おおっ……。今のは効いたぞ……」

 殴られた頬を手で押さえて、岸辺に横たわっている灰色の龍。

 太い髭が派手に折れてるのが気になる。


「これ以上、くだらない言葉でマスターの耳を汚すようなら、次は口をきけなくしますよ」

 緊張してるように見えて、実は怒ってたの?

 ニンフェアの言葉の端々に怒りを感じる。

「ちょっと待って、ニンフェア。まずは話を聞かせてよ。何がどうなってるのかわからないから」

「……承知しました」



 マイヤーが椅子とテーブルを出してくれたので、人間組の四人は椅子に座ってお茶を飲みながら、ゆっくり話を聞くことができた。

 いきなり結婚したいと言いだした灰色の龍は、ここから北にある大ニール湖と呼ばれる湖に住んでいて、ゾンビになった古龍とは同世代、氷龍山脈に住んでいる古龍からみて弟になるそうだ。

 ドラゴンゾンビが浄化されたことや小ニール湖に別の龍が住み着いたことを春の女神からの連絡で知って、どんな龍なのか顔を見に来て……。ニンフェアに一目惚れした、と。

 細かい内容は教えてもらえなかったけど、僕たちが来る前にもニンフェアとちょっとした騒動があって、それでニンフェアが怒ってたみたいだ。


「そもそも、古龍って結婚するの?」

「兄弟の中には人間の女性と結婚した者も居ます。ですが、古龍同士で結婚した者は一人も居ません。全員が雄で、同じ母に造られた兄弟ですから、結婚なんて考えたこともなかったです」

 話を聞いている間に水源龍の口調はかなり砕けてきたけど、ニンフェアが気になるのは変わらないみたいだ。

 話をしている間にも、ニンフェアの方にチラチラ視線をやっている。


「なるほど……。それで、ニンフェアなら良いの?」

「はい。これほど美しい龍を見るのは生まれて初めてです」

「そりゃあ、そうだろうけど。それにしても、いきなり結婚って……。ニンフェアはどう思ってるの?」

「私には仕事がありますし、一人で生きていく自信もあります。結婚する必要を感じません。とっとと帰ってください」

 斜め上に視線を向けて、きっぱり宣言するニンフェア。

 ツンデレとかじゃなくて、本当に水源龍を嫌ってるみたいだ。

 呼ばれて来たのはいいけど、これってどうすれば良いの……?


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