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4 湖の守護龍/ニンフェア

 抜けるように青い空。

 ゆらゆらと揺らめきながら、天へと昇っていく青白い光。

 ドラゴンゾンビが居た場所には、骨のかけらすら残っていない。

 ……青白い光とは別に、淡くて黄色い光が湖に沈んでいくように見えたのは気のせいかな? たぶん、気のせいじゃないと思う。

 ガーディアンやサラマンダーとドラゴンゾンビはちょっと違うのかも。


 それにしても……。まさか、ウォータードラゴンの一撃で終わるとは。

 元は古龍だったとしてもゾンビにされた時点で野生の本能(?)で動いてそうだし、そんなに苦戦することはないと思ってたけど、この展開は予想できなかった。


 微妙に自慢げな表情のウォータードラゴン。

 戦闘が終わったのを悟ったのか、オニキスは人間サイズに、トパーズは大鷲の姿に戻っている。

 マーガレットは僕の方を見て、微笑みながら手を振ってくれた。


 竜の姿のまま空を飛んで、ウォータードラゴンの顔に近づく。

 それにしても大きいなぁ……。頭の大きさで比べても、氷龍山脈の古龍の倍ぐらいあると思う。

 僕は今、全長三十メートルぐらいの竜の姿だけど、ウォータードラゴンがその気になれば、僕を頭に乗せて湖を泳げると思う。


「ありがとう、よくがんばったね」

「全て、マスターに頂いた身体のおかげです」

「いやいや。ウォータードラゴンががんばってくれて、助かったよ」

「……マスターにお願いしたいことがあるのですが、話を聞いてもらえないでしょうか?」

「えっ? えーっと……。とりあえず聞こうか」

「水を浄化している間に、私はこの湖が気に入りました。マスターさえ良ければ私を本物の竜にして、ここに住まわせてもらえないでしょうか?」


 ……この展開も予想してなかったな。

 今は生き物が居ない湖だし、周りにも誰も住んでないし、この子が住んでも特に問題ないかな?

 長い目で見たら、湖の水が綺麗になって魚が戻ってくるだろうし、周りに木が生えて森も復活するだろうし、人が集まって街ができるかもしれないし、そうなった時に問題になるかも——

 いや、これは考えすぎだな。いつか問題が起きるとしても、その時に当事者が考えて解決すれば良いんだから、今はこの子の希望を優先しても良いはずだ。


「ん〜……。今は身体が水で出来てるけど、その身体で長く生きるのは無理があると思うから、普通の竜の身体になるよ?」

「問題ありません」

「あっ、でも、トパーズが火の鳥になるみたいに、いざという時は水の竜に変身できるようにしようか。あとは……。この身体はさすがに大きすぎるよね? そこも調整して良いかな?」

「自分でも身体が大きいと感じてました。その辺りも含めて、全てマスターにお任せします」

「オッケー。でも、僕は基本的なサイズを決めるだけだから、必要に応じて調整すると良いよ。……それじゃあ、はじめようか」


 空中で竜の姿から人の姿に戻って、落下する前にリンドウに竜の翼を生やしてもらう。

 ふわふわと空を飛んで、ウォータードラゴンの胸の辺りに透けて見えている魔水晶に近づく。

 百体分のコアが合体した巨大な魔水晶。これを身体に流用すれば良い。

 本当に大事なのはイメージ。完成したイメージは目の前にある。

 後はきっかけを与えてやるだけで、うまくいくはずだ。


生命創造(クリエイトライフ)!」

 胴体の外から魔水晶に手をかざして、呪文を唱える。

 魔水晶が白く光り、ウォータードラゴンの身体を中から照らす。

 眩しい光が消えた瞬間、僕の目の前に本物の竜が現れた。

 全体のシルエットは合体後のウォータードラゴンにそっくりだけど、サイズはかなり小さくなった。今は氷龍山脈の古龍と同じぐらいかな?

 角や爪が金色に輝いていて、鱗は明るい緑色。ピンク色の瞳が可愛い。


「ありがとうございます。マスター」

 穏やかな表情で挨拶してくれる緑色のドラゴン。

 僕が龍玉の力で竜の姿に変身した時は実験してみないと何ができるのか自分でもわからなかったけど、生まれ変わったドラゴンは自分の力を最初から把握してるみたいだ。

「うまくいったみたいだね。……もう、ウォータードラゴンじゃなくなったんだから、新しい名前を考えないといけないか」

「どうか、マスターがお好きな名前をつけてください」

「元が水のドラゴンだし、今でも水の身体になれるし、湖に住む予定だし、水と関係がある名前が良いよね。だったら……。ん〜……」


 何故か急に、美大時代に見た一枚の絵を思い出した。

 静かな湖に浮かんでいる睡蓮の葉っぱとピンク色の花。

 有名なフランスの画家が描いた絵で、気に入って模写までした絵だ。

 確か、あの絵のタイトルはフランス語で——

「ニンフェア……。ニンフェアって名前はどうかな?」

「ありがとうございます。……私の名前はニンフェア。この湖に住み、湖の環境を改善して、生き物が暮らしやすい環境を作ります」

「そうだね。まだまだ、底の方には毒が残ってるみたいだし、浄化作業も引き続き頼むよ」

「お任せください」


 軽い気持ちで造ったウォータードラゴンが、しっかりとした考えを持って生き方まで自分で決めるようになるとは……。

 ある意味、僕よりしっかりしてるかもしれない。

 魔水晶をコアにして、寿命を延ばしたのが影響してるのかな?

 それとも、百体造るのに時間がかかって、その間にいろいろ考えてたから?

 作業中にしたユーニスやアラベスとの何気ない会話に、湖に住んで環境を守ってくれる竜の話もあったような気がする。

 ……詳しい理由はわからないけど、ニンフェアなら大丈夫だろう。たぶん。


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