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2 ウォータードラゴン

 飛んでいるトパーズの視界を借りて、優雅に川を泳ぐウォータードラゴン一号の様子を観察する。

 川を流れてきた水と湖の水が混ざり合う箇所に一号がさしかかると、濁った紫色の水が綺麗な透明に変わった。

 毒を浄化する力がちゃんと働いているようだ。

 ……最初は口から毒の水を吸ってエラで浄化するシーラカンスみたいなゴーレムを考えたんだけど、浄化するためとはいえわざわざ毒を口に含むのは違う気がしてボツにしたんだよね。

 湖を自由に泳ぎ回って周りの毒を浄化する方が、身体に良さそうだし効率も良いだろう。たぶん。


 戦闘力は重視してないけど爪や牙は普通に使えるはずだし、口からはブレスを吐き出せる。ドラゴンゾンビに見つかっても戦わないように言ってあるし、そんなに心配することはないはずだ。

 あとは動ける時間が気になるけど、こればっかりは様子を見るしかないか。

 ウォータードラゴンは魔水晶をコアにしてあるけど、作り方としては仮初めの石像(テンポラリゴーレム)の応用だから魔力が尽きたら動けなくなってしまう。

 自分の感覚としては一ヶ月ぐらい動ける魔力を籠めたつもりだけど、うまくいってるかな?


「一号は良い感じに毒の水を浄化してくれてるみたいです。……それじゃあ続きを作るので、申し訳ないですけど待っててもらえますか?」

「何時間でも待つのはかまわないけど、ドラゴンを何体作るつもりなの? ソウタ君は」

「ん〜……。とりあえず百体かな?」

 ユーニスからの質問に、ぱっと頭に浮かんだ数字を答えてみた。

 ……あれだけ大きい湖を浄化しようと思ったら、百体でも足りないか?

 足りなかったらあとから追加すれば良いか。



 作業がやりやすくなるように、マイヤーが平らな場所を見つけてテーブルと椅子を出してくれた。

 僕はリンドウに頼んで腕を増やしてもらって、三対の腕で流れ作業のように魔水晶を作っていく。

 完成した魔水晶をユーニスとアラベスが川へ運んで、区切りが良いところで僕が声をかけて、ウォータードラゴンとして動けるようにする。

 湖から帰ってきたマーガレットと話をしたり、マイヤーが入れてくれたお茶を飲んだりしながら作業を続けて、三時間ほどで百体のウォータードラゴンが完成した。


「ウォータードラゴン百号! 大変かもしれないけど、がんばってね」

「本当に百体もドラゴンを作っちゃうだなんて……」

「さすが、お師匠様ですね……」

 身体をくねらせながら、楽しそうに川を下っていくウォータードラゴン百号。

 その背中に向けて手を振りながら見送ってると、背後からユーニスとアラベスの声が聞こえてきた。

 二人の声は『驚き』とか『感動』を通り越して、何かに呆れてるような気がしないでもない。


「今日はこれぐらいで十分じゃないかしら? ソウタ君」

 マーガレットは逆に、これぐらい当然だと思ってるようだ。

「徐々に気温も下がってきたようですし、暗くなる前に屋敷に帰った方が良いのではないでしょうか?」

 マイヤーはいつもと同じように、僕の心配をしてくれてる。

 この二人はウォータードラゴンにそれほど興味がないみたいだ。

「それじゃあ、今日はこれぐらいにして帰ろうか。続きはまた明日、結果を確認してからってことで」


         ☆


 翌日から、転送魔法で小ニール湖へと通う日々が続いた。

 最初のうちこそ朝から行ってたけど、ウォータードラゴンたちの浄化作業が問題なく進んでるのがわかってからは、午前中は屋敷で過ごして、のんびり昼ご飯を食べて、午後の散歩の代わりに湖に行くようになった。


 マーガレットが僕の側に居る間はユーニスとアラベスが廃墟と化した街を調査しに行って、ユーニスとアラベスが僕の側に居る間はマーガレットが古い遺跡を調べに行く。

 小ニール湖の南に小さな島があって、その島に残っている教会みたいな遺跡がマーガレットは気になってるみたいだ。

 マイヤーはずっと僕の側に居て、温かいお茶を入れてくれたり、おやつを出してくれたりする。

 僕はウォータードラゴンを呼んで魔水晶に残ってる魔力を調べたり、トパーズに乗せてもらって空から湖の様子を確認したり、空いている場所で古龍の龍玉の力を実験したりして過ごした。



 ウォータードラゴンの魔水晶を順番に確認したけど、数日経ったぐらいではそれほど魔力が減ってなかった。

 この調子なら予定通り、一ヶ月ぐらい持ちそうだ。


 トパーズに乗って湖の上を飛んでたら、ウォータードラゴンが続々と集まってきて、列を作って水面を行進しはじめた。

 行進が進むにつれて濁った紫色の水が透明な水に変わり、太陽の光を浴びてキラキラと輝く景色は感動ものだった。


 古龍の龍玉を使う実験も面白かった。

 まずは竜への変化に使用する魔力と変化後のサイズについて、関係性を調べてみたんだけど、どうやら変化後のサイズには上限があるみたいだ。

 リンドウに協力してもらって人間には扱えないほど大量の魔力を注いでみたんだけど三十メートルぐらいが限界で、それより大きくはなれなかった。

 限界は超えられなかったけど三メートルから三十メートルぐらいまでの間なら自由にサイズを選べるようになったから、いつか何かに使えるかも。


 水を凍らせる実験にも成功した。

 ちょっとした水たまりぐらいなら、頭の中で『凍れ』って思っただけで凍らせることが可能だ。

 口から吹雪のようなブレスを吐いて、川を凍らせることもできた。

 面白い力だとは思うんだけど、意外と使い道を思いつかない。

 飲み物に氷を入れるぐらいなら、リンドウやマイヤーに魔法で氷を出してもらう方が早かった。竜の姿にならないと力を使えないのが敗因か?

 ……いつか、この力が役に立つ日が来るんだろうか?


 続けて、炎のブレスも実験したんだけど……。

 凍った水たまりに向けて炎のブレスを吐いたら、一瞬で氷が蒸発して、周りの岩まで溶けてマグマみたいになってしまった。

 ……岩が溶けるって、何千度ぐらい出てたんだろう?

 いろいろ試してみた結果、吐く時の気分とか気合いの入れようで、ブレスの温度が変わるみたいだ。


 竜の身体は物理的な攻撃にも魔法にも強いって、ユーニスとマーガレットから聞いたけど……。自分の身体で試すのは何か違う気がしたので、この実験はやる前から中止に。

 僕が竜の姿で戦う日なんて永久に来ないと思うし、問題ないだろう。

 ……何らかの理由で必要になったとしても、竜のゴーレムを造って代わりに戦ってもらう方がマシだと思う。


 あとは……。マーガレットの提案で召喚魔法の実験もやってみた。

 冬の城に居るパーカーさんを召喚してみたんだけど、あっさり成功した。

 驚いた顔のパーカーさんを見てマーガレットは笑ってたけど……。いきなり召喚されるのは迷惑だよね?

 実際に召喚したのは僕だし、いつか何らかの形でお詫びしよう。


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