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8 個人的な依頼

「ソウタ殿、マーガレット様。ここから先は主の指示ではなく、私からの個人的なお願いになるのですが、話だけでも聞いてもらえないでしょうか?」

「あらっ……。あなたにも個人的な望みがあったのね」

 喫茶室に戻ってマイヤーが入れてくれたお茶を飲んで一息ついたところで、ベレッチさんから声をかけられた。

 真剣な表情のベレッチさん。マーガレットは本当に驚いているようだ。

「僕で良ければ、話を聞くぐらいかまわないですけど……」

「ありがとうございます。それでは——」


         ☆


 ベレッチさんの主である古龍は、ずっと前から弟のことを気にしていた。

 もちろん弟も古龍だけど、その弟は人間に憧れて、古龍としての身体を捨てて人間に生まれ変わった。

 残された古龍の身体は湖に沈めて誰にも手が出せないように封印してあったのだけど、大陸が戦火に包まれた時、一人の魔王が封印を破った。

 その魔王は死霊術師に伝わる秘術を使って、古龍の身体をドラゴンゾンビに変えて操ろうとしたが失敗。

 制御を失ったドラゴンゾンビに魔王は食べられ、目的もなく動き続けるだけの存在となった古龍の身体は今でも湖を彷徨っている。


 弟には弟の人生があるのだから、人間に生まれ変わるのは問題ない。

 仕事をやり終えた古龍は好きに生きて良いと、母からも言われている。

 しかし、元は弟の物だった身体が、白の女神が造った古龍の身体が、ドラゴンゾンビと化して周囲の環境を汚染し続ける状況に、ベレッチさんの主はずっと心を痛めていたそうだ。


 長い話の間に、僕からいくつか質問させてもらった。

 古龍は誰もがすごい力を持ってるけど、全体的に変身が苦手らしい。

 見た目はそのままで身体のサイズを変えるぐらいなら可能だけど、人間の姿になるのはできないそうだ。

 ……秘めてるエネルギーが大きすぎるとか、そんな理由かな?

 白の女神が変身機能をつけ忘れたとか、そんな話じゃないだろう。


 ドラゴンゾンビの討伐ぐらい古龍なら簡単そうだけど、ベレッチさんの主はそこまでしようとは思ってないようだ。

 ……弟だった身体に手をかけるのは気が進まないのかな?

 ちなみに、人間に生まれ変わった古龍は結婚して子宝にも恵まれて、幸せな人生を全うしたらしい。



「それってつまり、小ニール湖のドラゴンゾンビを私たちの手で退治してほしいってことかしら?」

 僕にはわからなかったけど他の人はみんな、ベレッチさんが話してくれたドラゴンゾンビについて心当たりがあるみたいだ。

 たぶん、誰でも知ってるような有名な話なんだろう。

 マーガレットは余裕の表情を崩してないけど、ユーニスとアラベスは少し緊張してる?

 古龍のドラゴンゾンビなんて想像しただけで強そうだし、仕方がないか。


「妖魔の森で、サラマンダーと戦うお二人の姿を拝見しました。そこで、ソウタ殿とマーガレット様のお二人ならば、主の心を痛めている問題を解決していただけるのではないかと思ったのですが……。お願いできないでしょうか?」

「個人的なお願いって言ってたのに、結局、あなたの主の話じゃない」

「私が願うのは主の幸福だけですから」

「みゃあぁぁ〜」

 ……どうしてそこで、ルビィが可愛く鳴くのかな?


「報酬は?」

「以前、ソウタ殿がゴーレム作りに使える素材を探していたと聞きました。私は少し変わった商人とも(つて)がありますから、普通には手に入らない珍しい素材をご用意いたします」

「あっ、それは嬉しいかも」

「よく調べてるのね。それで、私への報酬は?」

「ソウタ殿に喜んでもらう……。だけでは足りませんか?」

 笑顔で交渉しているベレッチさんとマーガレット。

 微妙に怖いものを感じるのは気のせいかな?

「もう一声、欲しいところね」

「それでは、貸しが一つということで」

「ん〜……。まぁ、良いでしょう」


「これは正式な依頼ではなく単なる提案ですので、達成してもらえれば報酬を支払いしますが、無理なようなら無視してくださってかまいません。話を聞いてもらえただけでも十分です」

 話をしながらベレッチさんは手元の鞄からノートを出して、マーガレットに手渡した。

「ドラゴンゾンビと化した古龍について、現時点で入手可能な情報をまとめてあります。どうぞ、お役立てください」


「念のために確認しておくけど、方法はこちらに任せてもらえるのね?」

「はい。全てお任せします。期限も特にありません。十年後でも百年後でもかまいませんから、都合が良い時に取りかかってもらえれば」

 マーガレットはともかくとして、僕は百年後には居ないと思うけど、それぐらい気長に考えても良いってことだろう。たぶん。

 ……古龍のドラゴンゾンビに興味があるし、とりあえず、離れた場所から観察しに行くぐらいしても良いんじゃないかな?

 それで何とかなりそうなら何とかすれば良いし、無理そうなら素直に無理そうって伝えて謝ろう。


 考えをまとめてチラリと横を向くと、マーガレットも僕の方を向いてにっこり微笑み、小さく頷いた。

「ソウタ君もやる気になったみたいだし、提案は受け取っておきます。あとはそうね。私から言えることは……。彼への報酬は早めに用意して置いた方が良いと思うわよ。彼ががっかりしないレベルの物を、たっぷりね」

「貴重な忠告、ありがとうございます。マーガレット様」


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