8 初めてのゴーレム/オニキス
一階のダイニングルームで会議が行われている時間。
軽い昼食を終えた創多は、二階の客室に戻っていた。
ズボンのポケットから漆黒の勾玉を取り出し、ベッドの上に置く。
「オニキス!」
軽く声をかけると勾玉の回りの空間がぐにゃりと歪み、高さ十五センチほどの人形が現れた。
丸っこい身体。大きな手。短めの脚。銀色の眼。
鉄の塊を無理矢理くっつけたような無骨な姿だが、よく見ると胸元に、勾玉の形がうっすら浮き出ている。
「良かったぁ……。いきなり大きいサイズで出て、床が抜けたらどうしようかと思ったよ」
ちゃんと言葉がわかるのか、鉄の人形が激しく手を振っている。
「そんなことしないって? そうだね、信じてるよ」
感謝を示すように、今度は見事な敬礼をしてくれた。
数日前に産まれたばかりのはずだけど……。こういうポーズって、どこで覚えたんだろう?
枕元で丸まっていたルビィがベッドの上を優雅に歩いて来ると、人形の頬をペロリと舐めた。
オニキスは大きく手を広げ、白猫の背中を優しく撫でる。
鉄の身体と白い毛に包まれた身体。見た目には、何からの繋がりがあるとは思えない二匹が、楽しそうにじゃれあっている。
錆びないように造ったはずだけど……舐められても大丈夫かな?
☆
元はといえばマルコから、温泉の話を聞いたのがきっかけだった。
遠くから湯治に訪れる人も居るほど隣村の温泉は有名で、貴族が使う立派な施設の他に、誰でも入れるような安い温泉もあるらしい。
そんな話をしながら西に抜ける古い道を案内してもらったのだが、崖崩れの現場は想像以上にひどかった。
大きな岩と崩れてきた土砂で、完全に通れなくなっている細い道。
最短距離を通すために岩山を掘り下げたのか、そこは、左も右も切り立った崖になっていて、そのどちらもが今にも崩れそうなほど脆くなっていた。
しかし……よくこんな所に道を通したなぁ。
やっぱり、魔法を使って工事をしたんだろうか?
攻撃魔法で山を崩して、ゴーレムに土砂を運ばせて——
そんなことを考えていると、中学生の時に造ったロボットを思い出した。
あの時は粘土で造ったけど、今なら……?
その日の夕方、部屋に戻った僕はリュックから粘土を取り出すと、そのままロボット造りに取りかかった。
自分の力で成長するロボット。
最初は無骨な印象だけど、ある程度レベルが上がったところで進化。
もっと強くてかっこよくなって、武装もどんどん増えて、最後は宇宙でも戦闘可能に——
なんだか、設定が中二病っぽい? 実際に、中学生の時に考えたんだから仕方ないよね。
熱心に作業を見つめているルビィの横で、僕は鉄の人形を造り上げた。
可愛い人形サイズと、人と同じぐらいのサイズに変化可能。
本気で戦う時は巨人サイズになって、あとは……持ち運びが楽なように、勾玉に変化する機能も付けよう。
もっとすごい機能も考えてるけど、それは進化した時のお楽しみで。
「それじゃあ——んっ? ちょっと待てよ」
「ふにゃっ……?」
人形をテーブルに立たせて、上に手をかざす。
綺麗なお姉さんに教えてもらったキーワードを唱えようとしたところで、妙な考えが脳裏をよぎった。
ルビィやトパーズの時は生命創造で良かったけど、今回も同じで大丈夫なんだろうか?
鉄の人形は見た目からして、白猫や大鷲とは全然違う。狙った通りに出来ていれば、食事も呼吸も必要ないはずだ。
僕の中では同じような存在で、同じように成長して欲しいんだけど……。
ここは思い切って、呪文を変えてみようかな。駄目だったら駄目で、元の呪文に戻せば良いし。やるだけやってみるか。
「それじゃあ、今度こそ……。石像創造!」
「にゃあああっ⁉」
粘土で造った人形がピカッと光り、コツコツと小さな足音が聞こえてきた。
何故か、ベッドの上から眺めていたルビィが、アゴが外れそうなほどびっくりしている。
「うん、うまくいったみたいだね。ああー……落ちる落ちる」
歩く動作に慣れていないのか、てとてと歩いてテーブルから落ちそうになっていた人形を抱き上げる。
手に乗るぐらいのサイズなのに、ずっしりと腕にかかる重さ。
巨人サイズになっても動きやすいように、重量を軽減する機能を付けたつもりなんだけど……あとでテストしないと。
「お前の名前はオニキスだよ。ルビィやトパーズと仲良くしてね」
頭を大きく縦に振って、オニキスは嬉しそうに返事してくれた。