6 古龍の龍玉(前編)
氷龍山脈で古龍と会ってから、女神の土で古龍を再現しようと思っていろいろやってみたんだけど……。うまくいかなかった。
最初は机に載るサイズで造ってみたけど何か違う。
自分の身長と同じぐらいのサイズにしてもしっくりこない。
裏庭に持ち出して屋敷と同じぐらいのサイズまで大きくして、仮初めの石像で動かしてみたけど違和感が拭えない。
見た目は完璧に再現されてるってマーガレットやマイヤーも言ってくれたんだけど、自分で納得できなかったので粘土に戻してしまった。
理由は……。古龍に対する理解不足かなぁ。
腹の部分とか後ろ脚とか尻尾の先とか、よく見えなかった部分を想像で作ったんだけど、その辺りがうまくできてない気がする。
また会える機会があったら、しっかり全身を観察させてもらおう。
全部で十五体の古龍が居るってベレッチさんが言ってたし、他の古龍に会いに行くのも良いかもしれない。
ユーニスやマーガレットの話によると、古龍は簡単に会えるような存在ではないが、それ以外の竜なら大陸のあちこちに住んでいるらしい。
赤竜や青竜をはじめとしたカラードラゴン。金竜や銀竜をはじめとしたメタルドラゴン。宝石のような身体のジュエルドラゴンなど。
若い竜は凶暴でいきなり暴れたりもするが、長く生きている竜なら報酬次第で話を聞いてくれるだろうとのこと。
……竜が喜ぶ報酬って何だろう?
なんとなく、財宝を溜め込んでいるイメージがあるけど……。まずはそこから調べる必要があるか。
アラベスが暇そうにしてたので、僕でも会えそうなドラゴンについて調べてもらうことにした。
たまには弟子らしい仕事をお願いしても良いだろう。
☆
古龍に会いに行ってから十日後。
僕の屋敷に再びベレッチさんがやってきた。
「お久しぶりです、ソウタ殿」
「ベレッチさん、お久しぶりです」
前に来た時と同じように、喫茶室で挨拶を交わす。
「先日は招待に応じていただき、ありがとうございました。あの日の感謝の印として、主から贈り物を預かってきました」
「僕はただ、話をしただけですけど——」
持ってきた鞄から四角い箱を取り出し、白い手袋をした手で箱を包んでいる布をほどくベレッチさん。
包まれていたのは桐の箱かな?
光沢があって高級そうな布も気になる。
「古龍からの贈り物? それってもしかして……」
「まさか……。本物の……?」
マーガレットとユーニスは贈り物に見当が付いたようだ。
ベレッチさんが箱のふたを開けると、そこにはスーパーで売っているメロンぐらいの大きさの水晶玉が入っていた。
「我が主。氷河龍の龍玉でございます」
淡い水色の水晶玉の奥に、白い塊が沈んでいる。
……白い塊はなんだろう? 牙? ツノ?
龍玉って言うぐらいだから、古龍の力を封印してあるのかな?
「古龍の龍玉……。それらしい見た目の偽物なら城の倉庫にいくつも入ってるけど、これが本物なのね」
「どんな願いでも叶えてくれるとか、不老不死になれるとか、古龍の力を授かるとか。いくつもの伝説に彩られた宝玉が、ここに……」
「私も龍玉に関する伝承を調べたことがありますが、どれも誇張が過ぎるというか妄想の部分が多すぎるというか……。正しい情報を伝えているものは、ほとんど無かったですね」
話をしながらベレッチさんは、下に敷かれていた小さい座布団と一緒に龍玉を箱から取り出した。
「龍玉というのは古龍が盟友と認めた人に、その証として送るものなのです。ですから……。どうぞ、ソウタ殿。手を乗せてください」
「こうですか? ……うわっ!」
龍玉に見とれていた僕は、深く考えずに手を乗せてしまった。
ガラスのような手触りが一瞬で消え、龍玉があった場所に数え切れないほどの光の粒が現れる。
まるで小魚の群れのように、光が肌に沿って腕を上がっていき、そのまま広がって全身を包み込む。
最後にひときわ強く光って、全ての光がすっと消えた。
「ソウタ君、大丈夫なの?」
「あっ、はい。僕の方は何ともないようです、けど……。龍玉が消えちゃって良かったんですか?」
「問題ありません。手の平を上に向けて、龍玉を意識してみてください」
「こうですか……? あっ、やっぱり」
ベレッチさんに言われたとおりにすると、見えなくなっていた龍玉が僕の右手に現れた。
なるほど。ダイヤモンドランクの認識票と同じ使い方か。
「龍玉を見せれば、古龍の方々から盟友として扱われます。また、古龍ではない普通の竜が相手ならば、命令を強制することも可能です」
「あー……。それはちょっと、嬉しいかも……」
ちょうど古龍や竜について調べたいと思っていたところだし、会いに行っていきなり怒られるようなことが無くなるだけでもありがたい。
「他にも、龍玉には付随する能力があるのですが……。ここから先は、どこか広い場所で説明させていただけないでしょうか?」