4 氷龍山脈
「招待を受けるとして、どこに行けば良いのか教えてもらえますか? ベレッチさん」
「イムルシアと妖魔の森との間に横たわる巨大な山脈。現在では氷龍山脈と呼ばれている場所が、我が主の住処となってます」
「あー……。それなら、これから行きましょうか」
「……はい?」
氷龍山脈には竜が住んでるって、ベレス村にいた時に聞いた覚えがある。
この話をしてくれたのはマルコだったかな?
「僕が近くまで送っていくので、古龍のところに案内して下さい」
「もちろんかまいませんが……」
「マイヤー、工作室から鞄をとってきてもらえる?」
「了解しました」
「私も出かける準備をしてくるわね」
部屋を出て行くマイヤーとマーガレット。
急いでいるようには見えないけど、二人とも足取りが速い。
「……ユーニスとアラベスはどうする?」
「帰ってきたら古龍の話を聞かせてちょうだい」
「無事のお帰りを、お待ちしております」
「わかりました。帰るのが遅くなるようなら、途中で連絡を入れますね」
ユーニスもアラベスも屋敷で留守番してるみたいだ。
……時間に余裕があったら、どこかでお土産を買ってこよう。
二人と話をしている間に、マーガレットとマイヤーが戻ってきた。
「お待たせ、ソウタ君」
「ソウタ様、こちらをどうぞ」
「あっ、ありがとう」
マイヤーは僕のリュックと一緒に冬用のコートを持ってきてくれた。
メイド服から冒険者っぽい服装に着替えてるし、マイヤーも一緒に来てくれるみたいだ。
マーガレットは剣をとってきただけのように見えるけど……。
「……マーガレットはコート無しでいいの?」
「魔法でどうにかするから、大丈夫よ」
『必要であれば、私も対応可能です。マスター』
マーガレットを心配してたらリンドウが突っ込んできた。
……いざという時は頼んだよ。リンドウ。
「それじゃあ、行こうか。……コネクトスペース!」
「こっ! これは……。話には聞いていましたが、ソウタ殿は本当に転送魔法を使えるのですね」
「氷龍山脈のふもとにある村と繋ぎました。どうぞ、乗ってください」
おそるおそる魔方陣に上がるベレッチさんと、堂々とした態度で乗り込むマーガレット。
「みゃあみゃあっ!」
「心配しなくても、ルビィを置いていったりしないよ」
勢いよく飛びついてきたルビィを抱っこして、僕もマイヤーと一緒に魔方陣に上がった。
「トランスポート!」
☆
ベレス村の中心部から少し離れた場所。
暖かい季節なら山羊や羊を放牧させるあたりに転送魔法を繋いでみた。
最近になって雪が降ったようで、元は草原だった場所にうっすらと雪が積もっている。
「ここからどう行けば良いか、ベレッチさんはわかりますか?」
周囲を眺めていたベレッチさんに聞いてみた。
……信じられないものを見るような表情が気になるけど、古龍の使いならこれぐらい大丈夫だよね?
「だいたいの場所はわかりました。まずは、あそこに見える高い山に向けて進んでもらえれば良いのですが……。ソウタ殿は飛行魔法は使えますか?」
「それなら大丈夫です。トパーズを呼ぶので乗せてもらいましょう」
「トパーズ、とは……?」
こうなることを予想して、転送魔法を使う前にトパーズに話を通してある。
召喚魔法で呼び出すのも予定の範囲内だ。
「見てもらった方が早いと思うので……。トパーズ!」
「ピーゥ‼ ピーゥピーゥ!」
瞬きするほどの時間で召喚用の魔方陣が描かれて、白い光に包まれる。
すーっと光が消えた時、そこには大鷲姿のトパーズが居た。
「この辺は前にも飛んだことがあるよね? それじゃあ、あっちの山まで僕たちを運んでもらえるかな?」
「ピーゥピーゥ……」
頭を優しく撫でてやるとトパーズはふわりと羽ばたいて、少し離れた場所に移動してロック鳥の姿に変身した。
「どうぞ、乗ってください」