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2 ミセントラ大聖堂

 生命の樹と夫婦の樹をどうするか?

 みんなで話し合った結果、教会に管理してもらうことになった。

 マーガレットの話によると、大戦で失われるまで教会が生命の樹を管理していたそうだし、この世界の教会は怪我や病気の治療も行っているし、大事に扱ってくれるんじゃないかな?


 夫婦の樹は各地方のいろいろな場所に生えていたそうだけど、とりあえず生命の樹とセットで教会に預けることにした。

 教会で結婚式をするのは普通のことらしいし、子供を願う夫婦の願いに応えるのも教会の役割だと思えば……。ちょっと無理があるかな?

 念のためにエミリーさんにも聞いてみたけど、問題ないって言ってたから大丈夫だろう。


         ☆


「こちらがミセントラ大聖堂。イムルシアの首都で一番大きな教会です」

 ここまで案内してくれたユーニスが、教会について簡単に説明してくれた。

「これは……。大きいね……」

 四階建ての立派な建物。高く尖った塔。青銅製の大きな扉。

 外壁には数え切れないほどの彫刻が飾られている。

 ユーニスの知り合いがこの教会に勤めているので、まずは話を聞いてもらいに来たんだけど……。思ってたよりずっと大きな教会だった。


「伝説によると、女神様が一日でこの教会を建てたそうですよ」

「それって春の女神かな? それとも白の女神?」

「残念ながらそこまではわかりませんが、これから会う人なら知ってるかもしれません」

「その前に……。ここって、中を見せてもらっても良いのかな?」

「はい、大丈夫ですよ。そこの開いている扉から入りましょう」



 大聖堂の中には僕たちの他にも観光客っぽい人が何組か居た。

 マーガレットやアラベスは前にも来たことがあるようで、キョロキョロと物珍しそうにしてるのは僕だけだ。

 ……マイヤーはさりげなく周囲を警戒してるのかな?


 高い天井。立派な柱。色鮮やかなステンドグラス。

 綺麗に磨かれた大理石の床。ずらりと並んだ長椅子。

 壁に飾ってある絵画は、女神や竜がモチーフになってるみたいだ。

 聖堂の一番奥。ステンドグラスの下には、一つの像が置いてあった。

 白い大理石で作られた春の女神の像だ。

「賢者様……」

「ここは、春の女神の教会なんだね」


「お待ちしておりました。ユーニスさん」

「あらっ、ヴァレッラさん。お久しぶりです」

 女神像に見入ってた僕の耳に、誰かの声が聞こえてきた。

 ……この、修道女っぽい服を着た女性がユーニスの知り合いかな?

「こちらこそ、お久しぶりで……。あの時はお世話になりました」

「いえいえ、こちらこそ。いろいろと手伝っていただいて、助かりました」

 女性の種族は人間で、四十代後半ぐらいかな?

 どことなく、エミリーさんに雰囲気が似てる。


「それで、私に用事があるというのは……?」

「まずは二人を紹介させて。こちらの女性がマーガレット様。私が昔からお世話になっている、冒険者ギルドの先輩です」

「マーガレットです」

「はじめまして、ヴァレッラと申します。お噂は前から伺ってました」

「クスッ……。悪い噂じゃなければ良いのですが」

「そして、こちらがソウタさん。彼があなたに——というか、こちらの教会に預けたい物があるそうなの」

「はじめまして、ソウタです」

「ヴァレッラと申します。……マーガレットさんとソウタさん? 先日、イムルシアの東北地方に現れた魔獣を討伐してくださったのが、同じ名前のお二人と聞きましたが——」

「その二人であってますよ。ですが、二人とも目立つのはお嫌いですから、このような場所では……」

「そうですね。それでは奥の部屋にどうぞ」


         ☆


 ヴァレッラさんの案内で、聖堂の奥にある部屋に通された。

 大きな本棚。書類が散らばっている事務机。ソファセット。

 それほど高価ではなさそうだけど、質の良い調度品がそろっている。

 会社に例えたら部長や課長が仕事をしてそうな雰囲気だ。

 教会に勤めている人で、それなりの地位にある人がもらえる個室かな?


「ずっと気になっていたのですが、ソウタさんが着けている指輪は……。本物の女神の指輪ではないですか?」

「あっ、はい。そうです」

「ソウタさんは地上での働きを認められて天使に招待されて、女神と直接会ってきた人なのよ」

「そうでしたか……。どうぞ、何でもおっしゃってください。可能な限りサポートさせていただきます」

 ユーニスの言葉を受けて、ヴァレッラさんの表情がすっと引き締まる。

 ……その視線が僕を睨んでるようにも見えて、ちょっと怖い。


「僕はただ、教会で木を預かってほしいだけなんですけど……」

「実際に見てもらった方が早いんじゃないかしら?」

「それもそうですね。それじゃあ、ちょっと場所をお借りします」

 確かに、マーガレットの言うとおりだろう。

 ソファから立ち上がり、空いているスペースに移動すると、後ろに立っていたマイヤーが音もなくついてきた。


「コネクトスペース! ……トランスポート!」

 転送魔法で屋敷の工作室と繋ぎ、マイヤーと二人で二本の苗木を運ぶ。

 夫婦の樹の鉢植えが思ってたより重かったけど、リンドウが身体強化の魔法をかけてくれて助かった。


「こっちが生命の樹でこっちが夫婦の樹です。昔は教会で生命の樹を管理してたって聞いて、預かってもらおうと思ったんですけど……。どうでしょうか?」

「ソウタ様の言葉は女神の言葉でもあります。全て仰せのままに……。私どもにお任せください」

 ……僕たちが苗木を運んでいる間にユーニスが何か言ったのかな?

 ヴァレッラさんの態度がガラッと変わってるんだけど。

 深く尊敬しているというか、心酔しきってるというか……。熱心すぎる視線がこれはこれで怖い。


 どこで入手したのかは言えないけど、どちらの木も必要ならもっと用意できることを伝えて、僕たちは大聖堂を後にした。

 白の女神に作り方を教えてもらったなんて言えないし、これで良かったんじゃないかな?


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