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伝説の英雄に召喚されたゴーレムマスターの伝説  作者: 三月 北斗
第十七章 魔獣警報レベル4
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7 魔獣討伐(後編)

 同じ作戦で二体目のギノテリウムも倒す予定だったんだろう。

 最初に罠で足止めして、一斉攻撃で結界を破壊。

 あとはアーマーファイターが挑発して魔獣の攻撃を引きつけて、他のメンバーが攻撃を重ねてダメージを与える。


 しかし、森から出てきた魔獣を罠にかけたところで、微妙に作戦が崩れた。

 太いツタを力任せに引きちぎり、巨体をうねらせて冒険者に襲いかかるギノテリウム。


 ——ギイィィィィンッ……


 長い鼻と牙による攻撃を受けて、鬼娘と魔法戦士の攻撃が外れた。

 僕やマーガレットが居る場所まで耳障りな音が聞こえてきたけど、さっきより音が小さくて——

「結界を削りきれなかったけど、この状況も想定済みのようね」

「……そうなんですか?」

 一体目の時と違って、襲いかかった五人が一斉に下がった。

 同時に、巨大なゾウの身体が薄暗いボール状の膜に包まれて、その中でいくつもの炎の球が炸裂する。

「三十二個のヘルファイアを籠めた多段圧縮詠唱術……。なかなかやるわね」


 長く感じたけど、実際には十秒ぐらいだったのかな?

 爆発音が徐々に小さくなり、魔獣を包む膜が薄れていく。

 その周りでは武器を構えた戦士たちが、次の攻撃に備えている。

「あの魔獣がこれぐらいで死ぬことはないでしょうけど、結界の破壊には成功したわ。あとは、攻撃を受けないように注意しながら——あらっ?」

 膜が完全に消えた瞬間、中から長い鼻が勢いよく伸びて、離れた位置で倒れていた一体目のギノテリウムの身体に刺さった。


「あれって、血を吸ってるんですか?」

「正確に言うと、吸収しているのは魔力だけど……。これは、やっかいなことになりそうね」

 伸びた鼻にサムライが切りつけるが、長い牙で弾き飛ばされる。

 後に続いたバトルマスターは頭突きで吹き飛ばされた。

 ごくごくと音が聞こえてきそうな勢いで、二体目のギノテリウムは死んだ仲間の身体に残った魔力を吸収している。

 焼けただれていた肌が元に戻って……。どうやら、吸収した魔力を使って体力も回復しているようだ。


「ああっ! それは駄目でしょ」

「えっ?」

 たぶん、二体目のギノテリウムを誘導してた人だろう。

 さっきまで姿が見えなかった猫耳の女性がダッシュで近づき、両手に装備した爪で魔獣に襲いかかった。

 ギノテリウムは仲間の身体から鼻を引き抜き、そのままの勢いで女性の胴体へと鼻を巻き付け、ぎりぎりと締め上げる。


「あっ、ああっ、ああああぁぁぁぁ……。あぎゃああぁっ‼」

「リンドウ。あの子を召喚して!」

『了解しました』

 頭で判断するより早く、口から言葉が出た。

 思わず立ち上がった僕の前に、見たことがある魔方陣が出現する。

 魔獣に捕まっている女性が光に包まれて、次の瞬間、目の前に現れた。

「まさかこんな方法で助けるだなんて……。さすがソウタ君ね」

「大丈夫? 怪我してない?」

『召喚と同時に回復魔法をかけておきました』

 ……さすがリンドウ。頼りになるなぁ。


 綺麗な灰色の髪。キツそうな印象を与える目元。

 猫っぽい可愛い耳。太くて長い尻尾。

 動きやすそうな服装に、両手に装備した大きな爪。

 どうやらこの女性は、普通の人間をベースに耳と尻尾だけ猫っぽくなった獣人のようだ。

「助けてもらったのはわかりますが、ここは……?」

「詳しい説明はあとで。まずは魔獣をどうにかしましょう」

「みゃあっ!」


 砦の屋上のぎりぎり端。

 今にも落ちそうな位置から魔獣と冒険者の戦いを見物していたルビィが可愛く鳴いて、ぴょんっとジャンプして足元まで戻ってきた。

「……ルビィさんも身体を動かしたくなったのかしら?」

「みゃあみゃあ〜」

「えっ? ちょっと、ルビィ? いきなり何を……うわっ!」

 一瞬で豹の姿に変化したルビィが二本の尻尾を僕の身体に巻き付けて、有無を言わせず背中に乗せる。

「ああああぁぁぁぁおおおぉぉぉぉん〜……」

「私が露払い役を務めるので、とどめはルビィさんにお願いしますね」

 気持ちよさそうに吠えるルビィと、腰の剣を抜くマーガレット。

 話の流れがよくわからないけど、二人の間で作戦が決まったようだ。


         ☆


 そうするのが当たり前のように、マーガレットは屋上を飛び出した。

 抜き身の剣を手にしたまま空を飛び、派手に暴れているギノテリウムの元へと向かう。

 ……今日は竜の翼を使わないんだな。

『今、マーガレットさんが使っている魔法はフライトです。ドラゴンウイングに比べて最高速度で劣りますが、魔力の効率が良くて小回りが利くのがメリットでしょうか。もちろん、私も同じ魔法を使えます』

 ……ああ、うん。ありがとう。

 ちょっとした疑問にリンドウが詳しく答えてくれた。


 ルビィは優雅に空中を駆けて、マーガレットの後に続く。

 ……これって、僕が背中に乗ってる必要があるのかな?

 なんだか楽しそうだし、このままでも問題ないだろう。たぶん。


「総員退避! 私たちの邪魔にならないように、この場を離れなさい」

 地上にいる冒険者に警告しながら、さっと剣を振り下ろすマーガレット。

 まだまだギノテリウムとは距離が離れてるけど、問題なかったようだ。

 魔獣の周囲に一瞬だけ淡い光が浮かび上がり、すっと消えた。

 仲間の身体から魔力を吸収して張り直した結界を、今の一振りで切り裂いたように僕には見えた。


「あああぁぁぁおおぉぉぉ……」

 ルビィが叫ぶと幾筋もの雷が空から降り注ぎ、巨大なゾウのような身体にまとわりつき、長い鼻を、太い四肢を、身動きできないように縛り上げる。

「みゃあぁぁっ!」

 いきなり空中で足を止めてお座りして、右手を挙げて招き猫のようなポーズになるルビィ。

 雷に縛られて動けなくなっているギノテリウムの上空に、直径三メートルほどの黒い球が出現する。


 轟く雷鳴。まぶしい閃光。

 黒い球の中で次々と雷が落ち、消えずにどんどん溜まっていく。

 ルビィが右手を降ろすと黒い球がすーっと落下して魔獣にぶつかり、激しい爆発を起こした。


 ——ドオオオオォォォォン‼

 ——ギイィィィィンッ!

 ——バチバチバチ……


「うっわぁ……。これは……すごいね……」

「みゃあっ!」

 勝手に口から漏れたつぶやきに、自慢げな鳴き声が返ってくる。

 爆音が静まった時、ギノテリウムはピクリとも動かなくなっていた。



「全て終わったみたいね。ソウタ君」

「あっ、はい。……ルビィがすごい魔法を使ったみたいだけど、巻き込まれた人は居なかったのかな?」

 近づいてきたマーガレットは、剣を鞘に戻していた。

 どうやら戦闘は完全に終わったようだ。

「心配しなくても大丈夫よ。あれだけ時間に余裕があったんだから、安全な場所まで全員下がってるわ」


「マーガレット様。魔獣への対応、ありがとうございます」

「うわっ!」

「あら、アシュリー」

 さっきも見た茶色い髪の男性が現れて、マーガレットに声をかけた。

 思わず声が出ちゃったけど、ダイヤモンドランク上位の冒険者なら、いきなり空中に現れることぐらい簡単なの?

「ちょっと身体を動かしたくなっただけだから、気にしなくて良いわよ。そんなことより後片付けを任せても良いかしら?」

「了解しました。全てお任せください」

 小さく頭を下げ、男の人がすーっと下がっていく。

 ……これからみんなで後片付けをするのかな?

 巨大なゾウみたいな死体を、それも二体分って……。

 ゲームの世界だと倒したり捕まえたりしたところでクリアーだけど、現実にはその後の方が大変そうだ。


「それじゃあ、私たちは帰りましょうか」

「そうですね……。ここに来る途中、果樹園みたいなところがあったので、お土産を買って帰っても良いですか?」

 リンゴ、ぶどう、梨、見たことがない果物など。

 美味しそうな果物が空から見えて、気になってたんだよね。

 果樹園で直接買えるのか、どこかに市場があって出荷してるのか。詳しいことはわからないけど、マイヤーに頼めばどうにかしてくれるだろう。

「もちろん良いわよ。でもその前に、近くの街でお昼を食べましょうか」

「みゃあ〜!」

 マーガレットと話をしながら、マイヤーが待っている砦に戻る。

 ……そう言えば、あの猫耳の女性は大丈夫だったのかな?


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