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伝説の英雄に召喚されたゴーレムマスターの伝説  作者: 三月 北斗
第十六章 ダイヤモンドランク
173/220

閑話休題 忍者と竜人

 バラギアン王国の王都、七番街。

 今から八十年ほど前。この街にスイーツが大好きな異世界人が現れて喫茶店を作り、大陸中に新しいスイーツの文化を広めた。


 ……あの男の好みに合っているのはわかるが、こんなところで情報のやりとりをするのはおかしくないか?

 さりげなく前後を確認しながら、大きな通りをのんびり歩く。

 訪れるのは初めてだが、指定された店はすぐにわかった。


 ——カラーンコローン……


「いらっしゃいませ。お一人でしょうか?」

 重々しい雰囲気のドアを開けて喫茶店に入ると、メイドっぽい服装の女性が声をかけてきた。

「この店で待ち合わせでね。相手はもう来ていると思うんだが……。ベレッチという名前で個室を取ってあるはずだ」

「ご案内いたします。こちらへどうぞ」

 メイドに案内されながら店内を観察すると、ほとんどのテーブルが複数の客で埋まっていた。

 どんよりとした雲が空を覆っている平日の午後。

 いつ雨が降り出すかわからない、外出するには不向きな日だと思うが、それでもこれだけの客が集まるのか。

 中にはお忍びで来ている貴族らしい人物もいて……。取り寄せでは満足できない魅力が、この店のスイーツにはあるのだろう。



「失礼します。お連れの方がお見えになりました」

 メイドが個室のドアを開けた瞬間、生クリームたっぷりのケーキをフォークで口へと運んでいるベレッチの姿が目に入った。

 モンブラン。ミルフィーユ。スイートポテト。何種類ものショートケーキ。

 部屋の中央に置かれたテーブルには、色とりどりのスイーツがこぼれ落ちそうなほど大量に並んでいる。


「ああ、ありがとう。久しぶりだな、アシュリー」

「……君の方は相変わらずみたいだな」

 部屋へと入り、ベレッチの向かいの席に座る。

 この男はいつ顔を合わせても、上から下まできっちりとしたスーツ姿だ。

 浅黒く日焼けした肌。

 丁寧に整えられた口髭。

 スーツの上からでもわかるほど鍛えられた身体。

 ダイヤモンドランクの冒険者であり、そこそこ大きな商会の代表であり、食い道楽として有名な遊び人でもある。

 ギルドの幹部でも一部の者しか知らない事実だが、彼の正体は古龍が意思の力だけで生み出した人間……。竜人だ。


「お客様。お飲み物は何になさいますか?」

「ホットコーヒーで」

「私には紅茶のおかわりを」

「かしこまりました。すぐにお持ちします」

 丁寧にお辞儀をして、メイドがゆっくりドアを閉める。

「それにしても……。二人分にしても、この量は多すぎないか?」

「遠慮しないで良いから、君もどんどん食べてくれ。テーブルを空けないと次の注文ができないからな」

「……何を言ってるんだ? お前は」

「君は甘い物に目がないと聞いたが……。情報が間違ってたかな?」

「そこまで言われては仕方がない。テーブルを空けるのを手伝わせてもらおう」

 部屋に入った時から気になっていた、イチゴが乗っているショートケーキへと手を伸ばす。

「この店はパフェも絶品でね。季節ごとに出てくるパフェが変わるし、持ち帰りもできないから客が途切れることもない」

「なるほど。それで平日の昼間から客が集まってるのか」


         ☆


「何か御用がございましたら、いつでもお呼びください」

 飲み物を持ってきたメイドが部屋を出て、ゆっくりドアを閉めた。


 ——パチンッ!


 ベレッチが指を鳴らすのと同時に、室内に結界が張られる。

 これで何を話しても、外に音が漏れることはない。


「もっと調査に時間がかかると思ってたんだが、予想より早く呼び出されてびっくりしたよ」

 先に口を開いたのはベレッチだった。

「いや、たまたま運が良かっただけだ。それに、情報は手に入ったが裏付けがとれてない……。信頼度は高いと思うがね」

「とりあえず、話を聞かせてもらおうか。あの少年……天城(あまぎ)創多(そうた)について」

「結論から言うと、彼は史上最高の石像使い(ゴーレムマスター)で、最強の野獣使い(ビーストテイマー)だそうだ。そう、マルーン様が言っていた」

「英雄が? どこでその話を?」

「リンガラム基地で行われた長老会に、珍しく英雄が参加した。……ソウタ殿の顔見せのためにね」

「その展開は予想してなかったな……。顔見せと言うことは、彼も長老会に顔を出したんだな? 直接見た印象は?」

「どこからどう見ても普通の少年にしか見えなかったが、その後のカッフェルとのやりとりはすごかったぞ」

「何か事件が起きたんだな? 詳しく聞かせてくれ」


 英雄の話にカッフェルが口を挟んで、彼の力を試すことになったこと。

 カッフェルが精霊魔法で造った土人形を創多が出した巨人が叩き潰し、凍らせたこと。

 どこからともなく現れたフェニックスが土人形を炎に包み、死んだと思われたカッフェルが蘇ったことなど。

 長老会での出来事を簡単に説明した。


「フェニックスは初耳だが、あの少年なら有り得るか……」

「鉄の巨人もフェニックスも、彼の命令を聞いていたのは間違いない。……長老会のメンバーが束になってかかっても勝てない相手だな」

「英雄のパートナーにふさわしい力を持っている、ということか」

「では、そちらの話を聞かせてもらおうか。大陸の西を中心に情報を集めていたんだろう?」

 私が話をしている間に、ずらりとテーブルに並んでいたスイーツが残り半分ほどになっていた。

 ……ここからは私のターンだ。


「情報を隠すつもりがないのか、その必要がないと思ってるのか……。軽く調べただけで、バラギアン王国で活動した記録が見つかった。突然動き出したガーディアンを破壊。南東地方で問題となっていた野良ゴーレムを退治。魔族大戦時代のアイアンゴーレムを倒して千年闇の森を解放、と。念のために自分の目でも確かめてきたが、どれも本当の話のようだ」

「おや? 話はそれだけか?」

「それだけ、とは?」

「ソウタ殿の顔見せが終わったあとで英雄から説明……。いや、説明と言うより警告と言った方が正しいな。とにかく、もう少し詳しい話を聞かされてね」

 あえて言葉を句切り、にっこり微笑んでみせる。

 さりげなく視線を逸らし、コーヒーで喉を湿らせる。

 よっぽど話の続きが気になるのか、ベレッチの黒い瞳が妖しく輝いている。

「とっておきのパフェを知ってるんだが……。君も試してみるかい?」

「いただこう」


         ☆


 季節のフルーツにアイスたっぷりのパフェは見た目にも美しく、過去に味わったことがないほど官能的な味わいだった。

 一度でもこれを食べた者は、この店に何度も通うことになるだろう。

「……それで、話の続きは?」

「天使が使っているのを見て、転送魔法を覚えた話。女神に会って、転送魔法の使用を直接許可してもらった話。英雄と協力して、妖魔の森で暴れていた精霊を倒した話。大事そうな話はこれぐらいか」

「転送魔法を覚えて女神から許可を得た? あれは、天使族だけが使える秘術じゃなかったか?」

「基地から帰る時もロック鳥を使ってたし、事の真偽は不明だ。英雄がはっきり言い切った以上、嘘だとは思えんがね」

「なるほど、そういうことか……。うん、これは良い話を聞けたよ。約束通り、ここの払いは任せてもらおう」

「精霊を倒した話は気にならないのか? お前なら、こっちを気にすると思ったんだが」

「ああ、そっちは問題ない。現場を見たからな」

「……何だって?」

「たまたま、妖魔の森を通ってたところでね。あれはすごい光景だったよ」

 まるで誰かに当てつけるかのように、にっこり微笑むベレッチ。

 煮ても焼いても食えない奴とは彼のことを言うのだろう。

 諜報部に所属している訳でもないのに彼が妙な情報に詳しいのは、主である古龍のために面白い話を集めているから……。

 ソウタ殿に関する情報を集めているのも、おそらくその関係だろう。


「それで、このあとはどうするんだ?」

「必要な情報は集まった。あとは、彼に直接話を聞くしかないな。……君も一緒に来るかい?」

「興味はあるけど止めておこう。英雄の慈悲を二回も期待するほど、私は楽観主義ではないからな」

 氷龍山脈の氷より冷たく、暗殺者が使うニードルより鋭い。

 長老会の最後でマルーン様が見せた視線は、私への警告だろう。

 軽い気持ちで英雄のパートナーに手を出せば、生まれてきたことを後悔するような目にあうのは間違いない。

 借りが残っていたからベレッチの情報収集に協力したが、ここで手を引くのが賢明な判断だろう。


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