7 顔見せ(前編)
マーガレットを連れて屋敷に戻ってきて数日後。
いつものように朝ご飯を食べて、屋敷の玄関前に集合して、トパーズに乗せてもらって東の空に向けて出発した。
トパーズに乗っているのはいつものメンバー。
アラベスとマイヤーとユーニスとマーガレットと、あとは僕の相棒たちだ。
行き先は大陸の東にあるリンガラム基地。
そこで、長老会への顔見せが行われる予定だ。
あらかじめ、地図で見た場所をリンドウが伝えておいてくれたみたいで、細かい指示を出さなくてもトパーズは東へ東へと飛んでいく。
爽やかな秋の空。
頬を撫でる心地良い風。
最初のうちは地上の景色を眺めるのが楽しかったんだけど、大きな湾の上に出てからは海しか見えなくなった。
海は綺麗だし対岸が見えないほど巨大な湾はすごいと思うけど、ずっと同じ景色になっちゃって、ちょっと退屈。
そう思ってたらトパーズが速度を上げてくれた。
……こんなに速く飛んで、大丈夫なの?
えっ? 進化する前からこれぐらい出せた?
今は力が有り余ってるから、このペースでずっと飛べる?
トパーズもすごいなぁ。
それじゃあ、対岸に着いたらペースを落としてもらえる?
地上の景色を見たいから……。頼んだよ。
大きな湾をあっさり越えて、再び陸が見えてくる。
森が広がっているけど、屋敷の周りの森とは微妙に印象が違う。
住んでる人が少ないのかな?
小さな村が点在しているだけで、大きな街はないようだ。
ユーニスの説明によると、この辺りに三つの国の国境が集まっていて、どの国から見ても不便な場所になるらしい。
そんな場所だからこそ、冒険者ギルドが自由に使っている、と。
……空を飛んでるときは、ユーニスじゃなくてユーノスだっけ?
いつもより落ち着いていて、なんだか不思議な雰囲気だ。
☆
「ソウタ君、あれがリンガラム基地よ。上空から見るのは初めてだけど」
「私はいつも自分の翼で行くから、これぐらい見慣れた光景よ。……鳥に乗って行くのは初めてだけど」
陸地に入ってからそれほど間を置かずに、大きな基地が見えてきた。
高くて丈夫そうな城壁。
砦と言うより要塞と言った方がふさわしい建物。
冒険者が訓練をする場所かな? あっちは馬を休ませる場所かな?
城壁で囲まれた中に学校のグラウンドのような広場や、背の低い建物が点在している。
「どこか適当に、空いてる場所に降りてもらえるかしら?」
「わかりました。……トパーズ、頼んだよ」
「ピーゥ!」
……基地の中まで飛んでいって、大丈夫なのかな?
そんなことを考えながら横を見ると、いつの間にか、マーガレットが伝説の英雄の姿に戻っていた。
マルーンと一緒に居れば、いきなり攻撃されることはないか。
万が一、何かあったとしても、マルーンがどうにかしてくれそうだし。
「ピーゥピーゥ!」
……トパーズが僕を守ってくれるの?
そう言ってくれるのは嬉しいけど、先に手を出さないようにね。
余計な騒ぎを起こしたくないから。
すーっと滑らかに速度を落とし、トパーズがグラウンドの中央に着陸した。
いきなり弓を撃たれるようなことはなかったけど、革の鎧を着て長い槍を持った人が何人も周りに集まってくる。
「お久しぶりです、マルーン様。ようこそリンガラム基地へ」
……この人が部隊の隊長かな?
一人だけ立派な槍を持った人が、マルーンに声をかけた。
「長老会のメンバーは集まっているかしら?」
「皆様、先ほど円卓の間に向かわれました」
「宜しい……。ソウタ君。早速だけど、案内させてもらっても良いかしら?」
「あっ、はい。お任せします」
優雅な足取りでトパーズを降りるマルーン。
続いて僕やユーニスたちが背中から降りると、トパーズはすーっと縮んで大鷲の姿に戻った。
……近くの森を見てくるの?
トパーズなら大丈夫だと思うけど、気を付けてね。