6 村での暮らし
村長代行のキアラに連絡してもらった結果、魔法に詳しい友人が、僕に会いに来ることになった。でも、今は用事で遠くに出かけているため、この村に着くまで二週間ほどかかるらしい。
……そんなに離れたところに居る人と、どうやって連絡を取ったんだろう?
やっぱり魔法かな? 機会があったら聞いてみよう。
ぽっかり空いた二週間。何もせずにお世話になってるのも悪いと思って、村の仕事を手伝わせてもらった。
まずは家畜の放牧から。
山羊や羊を追いかけて山を走り回るのは、想像以上に大変だった。
放牧をメインの仕事にしている大人達はもちろん、見習いの女の子達でも僕よりずっと体力があるんじゃ無いだろうか……。
大型の牧羊犬は可愛いけど、なかなか言うことを聞いてくれない。
新入りだから舐められてるのかな? 女の子達には素直に従ってるし。
仕方がないので二日目からは、こっそりトパーズに手伝ってもらった。
危ない獣が近づいてないか、上空から監視してもらう。
群れからはぐれそうになった羊を、鳴き声で脅して戻してもらう。
何とか無事に、仕事をこなせたと思う。
放牧の途中。気持ちよさそうに大空を舞うトパーズを見ていると、自分も同じように飛んでみたくなった。
右手を大鷲に向けて伸ばし、ゆっくり目を閉じる。
僕の身体は目を閉じたはずなのに、眼下に羊の群れが見えた。
地図アプリに表示される、最大倍率の航空写真を見ているような感覚。
ヘリコプターに乗ったことは無いけど、こんな感じなんだろうか?
よっぽど眼の性能が良いのか、軽く意識を集中させただけで、草の一本一本まで見分けられる。
これって……トパーズの見てる景色が送られてきてる⁉
ずいぶん前に読んだ小説に、使い魔の目を通して外の様子を探る魔法使いが出てきたけど……。僕にも同じ事が出来るとは!
何回か試してみた結果、僕が『見たい』ってはっきり意識した時だけ、同じ景色を見られるようだ。
どれぐらい離れても繋がっていられるのかは不明。
ずっと南にある街が見えるところまでトパーズに飛んでもらったけど、問題なく映像が飛んできた。
空からの眺めが素晴らしすぎて、そのまま仕事を忘れそうになったのは秘密にしておこう。
山羊や羊に比べると、牛の放牧はずっと楽だった。
朝は勝手に家畜小屋を出て山に向かい、夕方になると戻ってくる。
ちゃんと危ない場所を理解しているようで、草を食べている間も、勝手に森に近づいたりしない。
作業らしい作業と言えば念のために周囲を見張るぐらいで、お手伝いをしている子供たちの間でも人気の仕事らしい。
村に来てからずっとお世話になっているマルコへの恩返しに、猟師の見回りも手伝った。見回りの範囲が思ってたより広くて、森の中を歩いてるだけでヘトヘトになっちゃったけど……。
僕は力になれなかったけど、その代わりに、トパーズが大きい猪を見つけてくれて、ルビィが仕留めてくれたから良しとしよう。
猟師の皆さんも喜んでくれたし。
猟の話で思い出したけど、村長屋敷の夕飯に熊肉が出てきた。
僕が仕留めた熊だから、どんどん食べて欲しいと言われたけど……。おそるおそる一口食べてみると、想像以上に美味しくてびっくり。
ほんのり野性味が残ってるけど、甘くて柔らかくて……牛肉に似てる? 前の世界で、派遣先の上司に連れて行ってもらった高級焼肉より美味しいかも。
シンプルに焼いただけの肉も、しっかり煮込んだ具だくさんのスープも、どっちもすごく美味しかった。
食べながら聞いた話だと、鉄爪熊は肉だけじゃ無くて、骨や爪まで高く売れるらしい。
特に今回は、雷の魔法で倒してくれたおかげで、傷一つ付いてない皮が手に入ったと、解体した人たちも喜んでいたそうだ。
僕に手伝えるような仕事がないときは、マルコに村を案内してもらった。
村長屋敷の南。
山を少し下ったところに、立派な教会を中心とした集落があった。
レンガ造りの教会には高い塔が付いていて、一日に三回、朝昼晩と自動で鐘が鳴るそうだ。
これも魔法の力? 便利だなぁ……。
教会は冠婚葬祭で使われるだけで無く、普段はここまで子供たちが通って勉強を教えてもらっているらしい。
ちょっとした怪我や病気なら、司祭様が魔法で治してくれるそうで……魔法って本当にすごいな!
でも、ひどい怪我や重い病気の時は、大きな街に行って偉い司祭様に見てもらわないと駄目で、そのためにはお金やコネが必要になるそうで……。
どこの世界でも、その辺りの事情は変わらないのかな。
時間が空いててマルコが忙しいときは、お茶を飲みながら村長とお話。
村長は異世界人に、僕はこの世界に興味があるということで、次から次へと話が弾み、興味深い話を聞かせてもらった。
たとえば……時間や日付の単位は元の世界と全く同じみたいだ。
秒・分・時・日・週・月・年まで、そのまま通じた。
一週間が七日で、一年が十二ヶ月ってところまで同じらしい。
曜日の名前まで同じなのはびっくりしたけど……。言葉が通じるようになってるのと同じで、どこかで勝手に変換されてるのかな?
距離や重さの単位も、そのまま使えるようだ。
あとは……何をしたっけ?
ベレス村から西へと向かう古い道が、崖崩れで通れなくなってたのを直したぐらいか。ここが通れれば、隣村の温泉まで楽に行けるってマルコから聞いて、ちょっとがんばってみた。
山道を歩くのはそんなに楽じゃ無かったけど、温泉は気持ち良かったです。
そんな感じで、あっという間に十日ほど過ぎていた。