6 ダイヤモンドランク(後編)
アラベスからダイヤモンドランクに関する話を聞いた数日後。
回復したので迎えに来て欲しいとの連絡がマーガレットから入って、冬の城へと転送魔法で向かった。
「あらっ。ソウタ君はダイヤモンドランクになりたいの?」
「なりたいというか、アラベスからなった方が良いって言われて。まずはマーガレットに相談しようかと」
冬の城にある豪華な喫茶室。
顔見知りのメイドさんが入れてくれたお茶を飲みながら、ダイヤモンドランクになる件についてマーガレットに相談してみた。
「それなら、早く言ってくれれば良かったのに。パーカー!」
「はい。お嬢様」
マーガレットの後ろに控えていたパーカーさんが部屋を出て行き、あっという間に戻ってくる。
急いでいるように見えないのに速いのは、一流の執事だけが使える技?
戻ってきたパーカーさんは、どこかで見たような長方形の透明な板を手に持っていた。
「こちらで宜しいでしょうか?」
「そうそう、これこれ……。今、ソウタ君はゴールドランクの認識票を持っているかしら?」
「あっ、はい。ちゃんと、ここに……」
「手の平に認識票をのせて、そのまま動かさないでね」
「こうですか?」
言われたとおり、左手を開いて金色の認識票を手にのせると、隣に座っていたマーガレットが認識票の上に透明な板をのせて、自分の手で僕の手を上下から包み込んだ。
白魚のような指。すべすべの肌。
冒険者とは思えないほど柔らかい手の平から、マーガレットの体温が伝わってくる。
「あなたをダイヤモンドランクとして認めます」
「えっ? ……えっ?」
包み込む手の隙間から、まぶしい光が漏れる。
その瞬間、手に乗っていた認識票や透明な板の感触が消えた。
「はい、終わったわ。手の甲を上に向けて、認識票を意識してみて」
「えーっと……。こうですか? うわっ!」
透明な板が手の甲に浮かび上がる。
僕の名前や職業が刻まれた長方形の板。
前にアラベスやユーニスが見せてくれたのと同じ物だ。
「冒険者ギルドの名誉顧問は、冒険者のランクを認定したり取り消したりする権限を有しています。……ソウタ殿は今日からダイヤモンドランクです」
「あっ、はい。そうですか……」
状況を理解できなかった僕に、パーカーさんが説明してくれた。
アラベスは笑顔だしユーニスは当たり前のような顔でお茶を飲んでるし、周りの反応を見ても冗談ではないようだ。
詳しい話を聞いて、それからどうするのか決めようと思ってたら、あっという間にダイヤモンドランクになっていた。
試験が行われる基地とか、実技試験とか面接とか、ダイヤモンドランクを目指している冒険者とか、一度は見てみたかったんだけど……。
まぁ、これはこれで良いのかな?
とにかくダイヤモンドランクになれば、アラベスも納得してくれるだろう。
首に掛ける物が一つ減って、僕の首回りも楽になるはず。
「お嬢様。ソウタ殿のランクはこれで問題ありませんが、長老会への顔見せはやっておいた方が良いのではないでしょうか?」
「それはそうかもしれないわね。先に話を通しておけば、ソウタ君が何かやったとき、後始末を押しつけるのも楽になるでしょうし」
……マーガレットは真顔で何の心配をしてるのかな?
偉い人の後始末が必要になることなんて、するつもりないんだけど。
「もうすぐリンガラム基地で、今年の認定試験が行われます。長老会の面々も集まりますし、ソウタ殿と一緒にお嬢様も参加するのはどうでしょう?」
「……ソウタ君はどう思う? あなたがイヤだったら、無理に顔見せなんてしなくても良いのよ」
「アラベスから話を聞いて、面白そうだなって思ってたので……。できれば、行ってみたいです」
「それじゃあ、決定ね。ソウタ君と一緒に私も行くわ。パーカーは城で留守番しているように」
「………………了解しました」
認定試験での面接と長老会への顔見せって、別の話なのかな?
結局、やることは同じ?
心配しなくても、マーガレットたちに任せておけば問題ないか。