5 ダイヤモンドランク(前編)
兎、鯉、鳩、ライオン。
思いつくままに木を削り、いろいろな動物を作ってみた。
粘土細工ほどうまくはないけど、インテリアとして部屋に飾っても良いレベルの物ができたんじゃないかと思う。
どこに飾ろうか悩んだ結果、置く場所が決まらなくて工作室の棚に置きっぱなしになってるけど。
☆
「お師匠様。お師匠様もダイヤモンドランクになりませんか?」
「……いきなりどうしたの? アラベス」
午後のお茶の時間。
何か用事があるからと、数日前から出かけていたアラベスが、喫茶室に入ってくるなり僕に声をかけてきた。
どうやら帰ってきたばかりのようで、冒険者っぽい服装のままだ。
「イムルシアのギルドマスターから言われたのです。これから先も隣国の大貴族から依頼を受けるようなことが続くのであれば、パーティの正式なリーダーがダイヤモンドランクになった方が良い、と」
「依頼を受けるのに必要だからパーティを登録するって、ずいぶん前に聞いた気がするけど……。アラベスをリーダーにしたんじゃなかったっけ?」
「はい。あの時は依頼主が伯爵で報酬もかなりの金額でしたので、私をリーダーとして登録しました」
「アラベスがリーダーで困ることはないし、このままで良いんじゃない?」
「駄目です! 弟子の私がリーダーでお師匠様がメンバーだなんて、なんだか恥ずかしいじゃないですか!」
僕たちが話をしている横でマイヤーがさりげなくお茶の用意を進め、アラベスも席に着いた。
「いや、でも、ダイヤモンドランクになるのって、難しいんでしょ?」
ダイヤモンドランクは冒険者全体の二パーセントぐらいだって、ユーニスから聞いた覚えがある。
五十人に一人のレベル……。僕には無理じゃないかな?
「まずはゴールドランクになって難易度の高い依頼をこなし、所属しているギルドのギルドマスターから認められる必要があります」
「……僕はまだ、二回しか依頼を受けてないし——」
「問題ありません。ルハンナ伯爵からの依頼を二回とも問題なく解決したと言うことで、ギルドマスターから推薦状をもらってあります」
アラベスが腰のポーチから、折りたたまれた羊皮紙を取り出す。
ティーカップの横に広げられた羊皮紙には、『天城創多をダイヤモンドランクに推薦する』という内容の文言が丁寧な筆致で書いてあった。
話の流れが予定通りだったのかな?
自慢げな表情がちょっとイラッとする。
「推薦してもらって、それで終わりってことはないよね? 他にも何か、課題とか条件があるんでしょ?」
「実技の試験と面接があります。ですが、実技については私やマイヤーがお手伝いできますので、問題ないと思います」
「……面接は?」
「面接と呼ばれていますが、実際にはギルド幹部への顔見せです。普段の素行がよっぽど悪いとか、試験中の態度に問題があったとか、そういうことでもない限り落とされることはありません」
「面接で落とされるような人間は、そもそもギルドマスターから推薦されないと聞いた覚えがあります」
マイヤーが説明を付け加えてくれた。
……マイヤーもこの話に乗り気なの?
「ん〜……。実技や面接ってどこでやるの?」
「認定試験に使われる施設が大陸の東と西に一つずつ有りまして、交互に使われています」
「今年は東の番ですから、リンガラム基地ですね」
「ゲートから遠くて普通に行こうと思ったら面倒な場所ですが、トパーズさんに乗せてもらえば……。試験が行われる基地はこの辺りです」
話をしながらアラベスが二枚目の羊皮紙をポーチから取り出し、さっと手際よくテーブルに広げた。
前にも見せてもらったことがある、大陸全体の地図だ。
「僕の屋敷がここで……。ここからほとんど真東なんだね。途中に大きな湾があるけど、直線距離だとルハンナの街とそんなに変わらないぐらいか」
「一年に一回、秋に認定試験が行われます。例年通りの日程なら、今年の試験は十日ほど先ですね」
「今、急いで決めなくても、まずはユーニスやマーガレット様に相談してみてはいかがですか?」
「そう言えば、マーガレットは冒険者ギルドの創設者だっけ。そうだね。冬の城に迎えに行くとき、話を聞いてみようか」
話が一区切りついたタイミングで、ティーカップに手を伸ばす。
少し冷めてしまっても、マイヤーが入れてくれたお茶は美味しい。
……ダイヤモンドランクの認定試験って何をやるんだろう?
僕は魔法使いとしてギルドに登録してたはずだから、魔法を使う試験になるのかな?
実技の試験は他の人に手伝ってもらえるみたいだから、何かこう、実践的な戦闘を行うとか?
試験を行う基地も面白そうだし、ダイヤモンドランクを目指している他の冒険者を観察できるかもしれないし、悪い話ではないか。
冒険者として依頼を二回受けたけど、最初の依頼はオニキスが野良ゴーレムを倒しただけで、二回目はマーガレットがゾンビを倒して終わった。
どっちも、僕は何もしてない気がするけど……。それでも、ギルドマスターが推薦してくれるのなら、ダイヤモンドランクを目指しても良いのかな?
行って雰囲気を味わうだけでも、良い体験になるかもしれないし。
クッキーを食べてるアラベスと斜め後ろに立っているマイヤーが、さりげなく視線を合わせて微笑んだように見えるのが気になるけど。