3 進化(後編)
帰りもオニキスの手に乗せてもらって、屋敷の裏庭に到着。
勾玉に戻したオニキスを首に掛けたところで、ルビィが僕を睨んでいるのに気が付いた。
「もしかして、ルビィも何か見て欲しいの?」
「みゃあ〜!」
両手を前について、お座りの姿勢で僕を見上げているルビィ。
二本の尻尾が背中でゆらゆらと揺れている。
「みゃあぁぁぁぁ……。みゃあっ!」
「みゃあっ!」
「……えっ?」
不思議な鳴き声が聞こえてきて、次の瞬間、白猫が二匹になっていた。
真っ赤な瞳。白くて柔らかそうな毛並み。二本の尻尾。赤い首輪。
僕にはわかる。どちらも間違いなく、僕が造ったルビィだ。
二匹並んで胸を張って、微妙に自慢げな表情になっているのがいかにもルビィっぽい。
「……分身の術を覚えたのかな?」
「みゃあみゃあっ! みゃあっ!」
「みゃみゃみあぁ〜。みゃあっ!」
「ちょっ、ちょっとルビィ! どこまで増えるの⁉」
一回の分身では足りないと思ったのかな?
二匹が四匹に増え、四匹が八匹に増える。
気が付いたときにはもう、ずらりとルビィが並んでいた。
「待って! 待って‼ 全員まとめて抱っこするのは無理だから〜」
「みゃあみゃあ〜!」
「みゃみゃみゃ〜」
何匹もの白猫が、いっせいに胸に飛び込んでくる。
バランスを崩して僕が芝生に倒れ込んでも、お構いなしのようだ。
しばらく遊んでやれなかったから、ストレスがたまってたのかな?
かまって欲しいのはわかるけど、猫パンチはもう少し手加減して欲しい。
「みゃあみゃあ〜」
一匹だけ、僕じゃなくてマイヤーの胸元に飛び込んだ白猫が、可愛く鳴いて何かをおねだりしていた。
「……お昼ご飯は一人前で良いのでしょうか?」
「みゃあ〜! みゃみゃみゃあ〜」
「では、少し多めに用意しますね」
……こんな状況でも、マイヤーは冷静だなぁ。
☆
相棒が進化しても、僕の生活はほとんど変わらなかった。
トパーズは大鷲の姿で森の上空を飛び回っているし、オニキスは勾玉の姿で首に掛かっている。
変化したところと言えば、僕と遊ぶときにルビィが分身するようになったことぐらいか。
分厚い絨毯の敷いてあるリビングでルビィが二匹に分身して、一匹はいつもの白猫姿のまま、もう一匹は豹の姿になる。
豹の姿になったルビィのお腹に僕をもたれさせて、僕のお腹に白猫姿のルビィが乗って、背中を撫でてもらうのが気に入ったようだ。
……僕がルビィのお世話をしてるのか、それともルビィにお世話されてるのかわからないけど、本人が喜んでるのなら良いのかな?
念のためにマイヤーから、ルビィが分身できるようになったことを屋敷で働いている人に知らせてもらった。
これで何匹ものルビィを見ても、驚かなくて済むはず。
進化について、ヒイラギにも話を聞いてみた。
炎の精霊との戦いでヒイラギも経験を積んだけど、少し前に進化したばかりだったので、今回は進化できなかったそうだ。
その代わり、マルーンが最後に使った大技を覚えた、と。
腕が足りなくて威力が落ちるのが残念だと、悔しそうに言っていた。
目にした技を学習して強くなるように作ったのは僕だけど、あれほどの大技でもイケるのか……。すごいな、ヒイラギ。
念のために、アジサイシリーズも確認しておいた。
予想通り、ダッシュは進化したオニキスと同じスタイルになっていた。
格闘家っぽい動きができるのも、空を飛べるのもオニキスと同じ。
……また、いざという時は頼むよ。ダッシュ。
アジサイブラック、アジサイホワイト、アジサイブラウンの馬三姉妹は特に変化がなかった。
えっ? せっかくだから乗って欲しい?
僕を背中に乗せて、外を走りたい?
……夏も終わりに近づいて風が涼しくなってきたみたいだし、ブラウンたちに乗って遠出をするのも良いかな?
そんな感じで、アラベスとマイヤーも誘って近くの村まで乗馬を楽しんだりもしたけど、特に問題はなかった。
乗馬を満喫した勢いで、いきなり馬車を作ったりしたけど……。いつか何かに使えるだろうし、これも問題ないだろう。
ルハンナの街で乗った馬車を参考に、大人が六人乗っても余裕があるサイズにしたら、ちょっと大きくなりすぎた気もするけど。
馬車をゴーレムにするのは何か違う気がして、結局、模型サイズに縮めて工作室の棚に飾ってあるけど。
オニキスがメイスを持っているように、馬車はブラックやホワイトたちの装備にすれば良いのかな?
……それはそれで何か違う気がする。
とりあえず、しばらくはこのままで良いか。