2 進化(前編)
今日も美味しい朝ご飯。
食後のコーヒーを飲みながらリンドウが進化した話をマイヤーにしたら、進化した相棒たちのお披露目をマイヤーも見に来ることになった。
……なんだか、すごく期待されてる気がするけど大丈夫かな?
オニキスも進化したって言ってたから、広い場所の方が良いだろう。
ルビィを抱っこして屋敷の裏庭へと移動した。
「それじゃあ、最初は——」
「ピーゥ! ピーゥピーゥ……」
……リンドウから連絡が回ってたのかな?
上空からトパーズの鳴き声が聞こえてくる。
どうやら、いつもの大鷲の姿になっているようだ。
「トパーズ〜。何ができるようになったのか、見せてもらえる?」
「ピーゥ‼」
すーっと高度を上げたトパーズがピカッと光る。
次の瞬間、全身が炎に包まれた巨大な鳥が上空に現れた。
「あれは……。火の鳥かな?」
「……フェニックスではないでしょうか?」
大きさはロック鳥の姿の時と同じぐらい? 一回り小さいかも。
頭の冠羽も、大きな翼も、長い尾羽も、全身が赤く燃えている。
「あっ…………。あーっ! 思い出した‼」
「どうしたのですか? ソウタ様」
「トパーズを造るとき、いろんなイメージを籠めたんだけど、この姿もその中にあったんだよ。そうか……。進化して変身できるようになったんだね……」
「ピーゥ! ピーゥピーゥ‼」
燃える翼をバサッと振れば、青白い光線が周囲に広がる。
開いたクチバシからは、巨大な火の玉が撃ち出される。
見た目も攻撃パターンも、中学生の頃にやりこんでたシューティングゲームのボスに良く似てる……。ちょっと似すぎてる?
これぐらいなら大丈夫かな? 大丈夫って何だ?
「トパーズ! 元の姿に戻れるんだよね?」
「ピーゥ!」
一瞬で大鷲の姿に戻ったトパーズがすーっと綺麗な弧を描き、僕とマイヤーの前に降りてくる。
優しく頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めた。
「うんうん。かっこよかったよ、トパーズ」
「ピーゥ!」
「フェニックスは死んでも蘇るだけでなく、姿を見た者に幸運をもたらすと聞いたことがありますが……。トパーズさんにもその力があるのでしょうか?」
☆
「それじゃあ、次はオニキスかな? ルビィはちょっと待っててね」
「みゃあ〜」
ルビィを地面に降ろして、首に掛けていた革紐を引っ張って、服の下から漆黒の勾玉を取り出す。
「オニキス〜!」
「やー!」
僕が名前を呼ぶと、人間サイズのオニキスが現れた。
いつものように、右手で見事な敬礼をしているオニキス。
サラマンダーと戦ったとき、途中から氷の身体に変わってたけど、今は鉄の身体に戻っている。
「おー……。かなりスタイルが変わったんだね。腰の位置が高くなって、全体的にすっきりして……。パワータイプからスピードタイプに進化したのかな?」
「やー!」
最初に造ったときは相撲取りに近い体型だったのが、スタイルの良いモデルのような体型に変わっている。
身長も伸びたのかな?
人間サイズでも、僕より背が高くなったようだ。
「ずっと気になってたんだけど、蛇に噛まれた傷は残ってないようだね。マントも綺麗に治ってるし……」
「やー……」
オニキスの周りを回りながら、腕や脚を丁寧に撫でて状態を確かめる。
戦いが終わった直後に診たときは、氷の身体に傷一つなくて、問題ないと判断したんだけど、あの時の診断が当たっていたようだ。
氷の身体の時は、傷があっても空気中の水分で勝手に治るんだろう。
そこから身体を鉄に戻せば、傷が治った鉄の身体になる、と。
「オニキスVer3.0ってとこかな。それで、進化してできることが増えたってリンドウから聞いたんだけど、見せてもらえる?」
「やー!」
僕やマイヤーが居る場所から駆け足で離れていくオニキス。
くるりと振り返ると、辺りの景色がぐにゃりと歪んだ。
「……あれっ? 大きくなった?」
「みゃあっ! みゃみゃみゃあっ!」
「これは……。すごいですね」
いつもの感じで上を向くと、何故かオニキスの腰が見えた。
さらにすーっと視線を上げて、ようやく顔が見えてくる。
見上げているだけで首が痛くなりそうだ。
「身長が前の倍ぐらいある? まさかと思うけど、巨人姿のマルーンに対抗したんじゃないよね?」
声が届いたのかどうかわからないけど、オニキスはすっと視線を逸らした。
身長でマルーンに負けたのが、よっぽど悔しかったのか……。
……リンドウ。もっと近くでオニキスを見たいんだけど。
『了解しました』
心の声で相談するだけで、僕の背中に竜の翼が生えた。
ふわりと空を飛んで、巨大なオニキスの顔に近づく。
屋敷の屋根より高くて……。本当に大きいな!
「大きくなったオニキスの動きを見たいところだけど、ここで運動したら屋敷が危なそうだね。また今度にしようか?」
「やーやー!」
「んっ? 手に乗れってこと? ……こうかな?」
手の平を上に向けて、オニキスが左手を胸の辺りに出した。
マルーンの手に乗ったのを思い出しながら、素直に手に座る。
「……えっ? えっ? オニキスが浮いてる⁉」
「やー!」
ふわりと浮き上がった鉄の巨人が、僕を落とさないように両手をくっつけてボウルのように丸め、そのまま海の方へと飛んでいく。
ゆっくり飛んでるのは僕に気を使ってるのかな?
竜の翼で空を飛ぶのともトパーズに乗るのとも違う、不思議な感覚だ。
……これって、リンドウが魔法を使ったの?
『いいえ。オニキスさんが自分で、飛行の魔法を使えるようになりました』
「オニキスもすごいなぁ……。よくがんばったね、オニキス」
「やー……」
海上に出て少し進んだところで、オニキスが止まった。
「……ここで大丈夫なの? それじゃあ、動きを見せてもらえる?」
「やー!」
背中の翼を使って、鉄の手の平から浮き上がる。
僕がある程度離れたタイミングで、オニキスが拳を握りしめた。
「やー! やー! やーやー!」
正拳突き。上段蹴り。回し蹴り。
空に浮いてるのに、地に足が付いてるような動きをしてるのが面白い。
最初の方は普通の空手っぽい動きだったけど、徐々に現実には有り得ない、激しい動きが混ざりはじめる。
「やー‼」
気合いのこもった声と同時に、鉄の拳から炎の弾が飛び出した。
……これって、僕が美大時代にやりこんだ格闘ゲームのモーション?
たまたま似てるように見えるだけ? これぐらいならセーフ?
「身体がスリムになって、技を出しやすくなったのかな? それでも、パワーが落ちた感じはしないし……。うんうん。かっこいいよ、オニキス」
「やー!」
見せたい動きが全て終わったのだろう。
腰の横で拳を握りしめた姿勢で、オニキスの動きが止まった。
……微妙にドヤ顔をしてるように見えるのは気のせいかな?